楓花のおむつ遍歴と紙パンツ

はおらーん

楓花のおむつ遍歴と紙パンツ



「ふうちゃん、今朝はどうだった?」

「んー、いつも通り」


楓花はまだ眠い目をこするながらリビングにやってきた。時計で時間を確認すると、今日はいつもより早起きだなぁとぼんやり思った。


「今日は余裕あるからシャワー浴びてから学校へ行きなさいね」

「はーい」


楓花はお母さんに言われた通り脱衣所に行き、Tシャツと短パンを脱ぎ始めた。気持ち悪いなぁと思いながら、傍目にも異様にふくらんだ下着に手をかけた。脱ぐのではなく、横からビリビリと破り、それはどさっと音を立てて床に落ちた。彼女が外したの紙おむつだった。来年には中学生になる楓花は、小さいころからのおねしょが治っていない。


「今日のは、ちょっとモレてる…?」


はずしたおむつをマジマジと見た楓花は、股下のところが少し湿っていることに気づいた。


(もしかしたらシーツも汚れてるかも?お母さんに見つかったら小言言われるかな…)


おむつをビニール袋でくくり、専用のごみ箱に入れた楓花はシャワーを浴び始めた。低学年のころは病院で夜尿症と診断されたが、長年通っても良くなることはなく、ついには通院も辞めてしまった。毎朝お母さんに結果を報告して、脱衣所でおむつをはずすのは12年間欠かすことのない習慣になっている。シャワーから出た楓花は台所にいるお母さんに正直に話すことにした。


「ねぇお母さん、おむつなんだけどさ」

「なにー?」


お父さんのお弁当を詰めながらお母さんは聞いた。毎日のこととはいえ、楓花もおむつのことを面と向かって話すのは恥ずかしい。シーツまで漏れたならなおさらだ。


「今日のはちょっとおむつから漏れてたかも…」

「え~、この時期シーツ乾かないよー!」


決してお母さんも怒っているわけではない。もう何年も楓花のおねしょと付き合ってきて、怒って解決する問題ではないというのも良く理解している。ただ、家事の手間が増えることに多少の文句を言うのは許してほしいということだと思う。


「とりあえずシーツはずして洗濯カゴに入れといてー!」


お母さんは片手間に叫んだ。楓花はめんどくさいなと思いながら、自室に戻った。部屋に戻ってベッドを確認すると、シーツに小さなシミが見つかった。やっぱり漏れていたらしい。楓花はベッドのそばに置いてあるパッケージに目をやった。スーパービッグと書かれたおむつのパッケージには、かわいらしい3人の女の子がこちらを見て寝転んでいた。


(どう見ても私の年齢より小さいよね、ほんといつまでおむつしてるんだろ)


楓花は12年間一度もおむつなしで寝たことがない。おそらく自分ほどいろんなおむつを履いてきた子供もいないだろうと子供心に思っていた。シーツを処理してリビングに戻ると、お母さんは朝食の準備も終えて食卓に座った。お母さんに呼ばれて楓花も一緒に座った。


「ふうちゃん、おむつのことなんだけどね」

「うん」


やはり面と向かっておむつの話題を出されると恥ずかしい。ちょっと赤面した。


「そろそろサイズが合わなくなってきたんじゃないかな?」

「ん~、ちょっと小さいような気もするかも」


おむつのサイズ変更は何度目かわからない。生まれた時から換算すると、たぶん全サイズのおむつは一通り試してるんじゃないかと思う。今はさすがにないが、低学年のころは一緒にドラッグストアに連れていかれて店員にサイズを確認したこともある。店員さんに「頑張ってね」と言われてオヤスミマンのパッケージを手渡されたときは顔から火が出るかと思った。


「じゃあお母さん今日ドラッグストアで見てくるね。」

「うん、わかった」


お父さんが下りてくる前に話を終え、楓花は朝ごはんを食べ始めた。いつもは自分でおむつを履いて寝るだけだけど、今晩はお母さんにおむつのサイズチェックされるんだろうなと少々憂鬱になりながら学校へ向かった。




(そういえばおむつのサイズ変わるの何度目だろう…)


登校しながら今までのおむつ経歴を思い出していた。記憶があるのは保育園の年長さんくらいだ。お母さんに聞いた話によると、昼のおむつはとれるのが早かったらしい。たしかに昼間におむつを履いていた記憶はない。逆に、お母さんの友達の家に遊びに行ったとき、そこの家のコが履いていたピンクのトレパンマンを見て、「あのピンクのがいい!」ってごねて一枚持って帰らせてくれたことがあるらしい。


メーカーまでは覚えていないが、保育園までは寝転んでお母さんにおむつを当ててもらっていた。いわゆるテープタイプの紙おむつだったのだと思う。


(あ~お泊まり保育とかあったよね!思い出すだけで恥ずかしくなる…)


これは楓花には記憶のないことだが、お泊まり保育ではいつものテープおむつを保育士さんにあてられたらしい。なにかの折にお母さんがそんな話をしていたのだ。


(それから先はオヤスミマンだよね。あのCMすごい覚えてる…)


「夜はまだおむつなの~」

「おむつじゃかわいそうよ!オヤスミマンに変えてあげたら?」

~~~~~

「おむつをそつぎょうしました!」


(アレ見て、おむつじゃなくなるんだと思ってお母さんに泣いてねだったんだった…今思えばどう見てもおむつだよ)


オヤスミマンがサイズアウトした後は、試行錯誤の連続だった。もうおむつはイヤだ!と泣いた3年生の楓花にお母さんが買ってきたのはおねしょパッドだった。パンツに貼るタイプのもので、最初は楓花も喜んで使っていた。しかし貼り方や寝相次第で漏れることが多く、長く使うことはできなかった。クラスの女子の中でも背の順で後ろから数えた方が早い楓花にとっては、各メーカーのビッグより大きいサイズもすぐにサイズアウトしてしまい、長らくスーパービッグサイズのお世話になるのだった。


(スーパービッグも2年くらい履いたんだったかな。お母さんが普通にドラッグストアでパッケージ抱えて帰ってきたときはケンカしたなぁ…)


長い長いおむつ遍歴を思い出しているうちに学校に着いてしまった。お母さんがどんなおむつ買ってくるのか心配に思いながら楓花は1時間目の算数の準備に取り掛かるのだった。






「ただいまー!」


おむつのことなんて忘れて元気よく帰ってきた楓花だったが、玄関に置かれたモノを見て現実に引き戻された。そこには一目でおむつとわかるパッケージが置かれていた。「リフレはくパンツ」とデカデカとプリントされていた。


「お母さん!ここに置かないでよ!」

「ちょっと待ってよー、今洗濯もの取り込んでるから」


玄関におむつなんて置きっぱなしにしてたら、もし誰かが遊びに来たらおねしょのことバレちゃうじゃん!とプリプリしながら自分でパッケージを抱えてリビングへ持っていった。改めてパッケージを見てみると、「はくパンツ」と大きく書かれている。


(おむつじゃなくてパンツなの…?)


パッケージに書かれているおむつのイラストも形はおむつだが色は真っ白だ。楓花は今まで子供用の紙おむつしか履いたことがない。動物のイラストや花柄、かわいいキャラクターモノやディズニーがプリントされたものもあった。女の子であれば6年生と言えどもファッションなどにも興味が湧いてくる。友達がちょっと大人っぽい服を着ていたり、お化粧の真似事をしているとうらやましく思ったものだ。大体高学年ともなってくれば段々とキャラものからは卒業していく。そんな中で幼児心をくすぐるような子供っぽいおむつを履かないといけないのが楓花にとってのコンプレックスだった。


(これすごいイイ… かっこいい!)


そうこうしているとお母さんが洗濯物を取り込み終えてリビングにやってきた。お母さんは玄関に残された買い物袋からもう一つビニールのパッケージを取り出しながら言った。


「今履いてるスーパービッグサイズの次はもう大人用なんだって。薄手でモレが心配かもて店員さんに言われたからパッドも買ってきたよ」


「お母さん!これすごいいいね!」


お母さんは意外なリアクションに面くらった。この年になってもおねしょでおむつがとれないなんて、本人はすごいコンプレックスでイヤイヤおむつを履いているんだろうとずっと思っていた。それ自体は間違いではないのだが、新しいおむつにこんなに喜ぶとは思ってもみなかった。


「お母さん私ね、おむつって子供っぽい絵ばっかり入っててあんまり好きじゃなくて。でもこの紙パンツって真っ白で大人のパンツみたいだなって思ったの!だってパンツって書いてるからおむつじゃないんでしょ!?」


楓花は嬉しそうにお母さんにまくしたてた。たしかにパッケージの表記は紙パンツをなっているが、中身は紛れもなく紙おむつだ。お母さんも心の中で、いやいや、おねしょするほうがよっぽど子供っぽいでしょうよ…と思ったが、口に出さないでいた。本来ならおむつなんて泣きながら拒否されてもおかしくない年齢なのに、喜んで履いてくれるだけマシかと達観していた。


「気持ちはわかったから、とりあえず履いてみよ?サイズ見ないといけないから」

「うん、わかった!」


朝のおねしょ報告の時とはテンションが違う。楓花は嬉しそうにパッケージを破っておむつを一枚取り出した。


「わー!かっこいい!今日からコレ履いて寝れるの?」


かっこいいか…?と心の中で苦笑しながら、お母さんはおむつを履いた楓花のお尻を触りながらサイズ感などをチェックした。心なしか大きいかな、とも思ったが概ねフィットしているようだ。よっぽど白いおむつが嬉しかったようで、楓花は自分の部屋の姿見で何度も自分の全身を写して見た。まだお風呂にも入っていないのにお気に入りのパジャマも着たりなんかした。


今日はウキウキで宿題を済ませて、お母さんの言うとおりにきちんとお風呂にも入り、早速自分の部屋で寝る準備を始めた。もちろん楓花にとっての寝る準備とはおむつを履くことである。新しいのを出すのはもったいないので、さっき試しに履いたおむつ、いや紙パンツを綺麗に脱いでベッドに置いておいた。お尻の形になった紙パンツにもう一度足通した。上からパジャマを着て、もう一度姿見の前に立った。


「薄いから全然バレない!これならお母さんも外泊認めてくれるかな~」


泊まりの行事は先生の部屋でおむつを履かせてもらったりして乗り切ってきたが、友達の家にお泊まりをしたことはまだない。もちろん友達におねしょやおむつのことがバレてはいけないし、万が一寝具を汚して迷惑になってはいけないというお母さんの考えの下、一度も許可されたことはなかった。そうしているうちにお母さんが見たことないパッケージを持って部屋に入ってきた。


「ふうちゃん、あなた友達の家でおねしょしたら汚したおむつゴミ箱に捨ててくるつもり?」

「あ…」


外泊はしばらく先になりそうだ。お母さんはかわいいイラストが描かれた小さいパッケージを持ってきて話を始めた。


「ふうちゃんコレね、尿取りパッドって言っておむ、紙パンツのサポートをするものなの。紙パンツだと吸収力も心配だから、コレ中に入れて使って」


お母さんが差し出したパックにはジュニアナイトパッドと書かれていた。かわいらしいイラストが描かれており、楓花はがっかりした。


「結局子供なんだよね…」

「中に入れちゃえばわかんないから!ね?」


楓花は大人びた口調で不満を言ったが、お母さんも苦笑しながら楓花をなだめた。紙パンツから漏れ出すこと以上に恥ずかしいことはないので、最後は楓花も折れてパッドを張り付けてベッドに入った。







翌朝、楓花はいつもの気持ち悪さを感じて目を覚ました。


「ふうちゃん、今朝はどうだった?」

「んー、ダメ」


おむつから紙パンツになっても、おねしょの卒業にはまだまだ時間がかかりそうだ。

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