KIMERA@Start Dash -I want to feel kindness-

@beat_zebull

#-01


 時刻は夜。月ではなくペリオと呼ばれる青い恒星が地上を見守っている。

 それでも夜なのは変わりなく、薄暗い世界にもかかわらず何が潜んでいるのか解らない森の中を歩む影が二つ。


 次第に辿り着いたのは直径二〇メートルはあるであろう大穴。下の世界には木々は殆ど無く、小さい穴がいくつか見える。

 まるで集落の入り口のような、巣穴のような感じだ。


 そこにいそいそとペリオの光が当たる場所に何かが現れた。

 ボロボロの服を着た、大きいタンクのようなモノをぶら下げながら歩む人ならざる者。


「あれがアラクネ……?」


 影の片割れである真っ白な髪の少年、レキ・ルーン・エッジが遠方からそれを見つめながら呟く。

 ベリオの明かりで変わっていないのならその肌の色は白。ところどころ青い筋が入っているように見える。おそらく肥大化した血管だろう。


「人じゃないね。あの姿はようのものだと思う」


 その隣で同じく穴を覗く猫耳を立てる桃色髪の少女、影のもう片割れの白獅しろし 美由みゆは冷静に状況を観察する。


 彼女の長い左右二本のおさげを揺らすほどの風が吹き、わずかに音を残す。

 それほどまでに静かな世界だった。


 故にドサッと重い物を置く音はよく響いた。続く何かを引きちぎるような音も同様に。


 ただ、アラクネと呼ばれた者のはその場を動かず、置かれたであろう物も奴の影に隠れ、何をしているのか。

 こちらからはわからない。


「人を……食べてるのか」


 この鼻を刺す、鉄の異臭さえなければの話だが。

 更にアラクネの影から男性の顔が転がり現れたことから、いま奴が何をしているのか明確となった。


 食されている男と同じ人であるレキは思わず表情を曇らせる。

 ただ妖である美由は依然として平然を装っていた。


「嫌なら見なくていいよ。キツイでしょ?」


 気を使ってくれているのだろうか。

 しかし、美由もまた非人食の妖なため、このような状況には慣れていないはず。

 強がりに近いその発言にレキは笑みを零す。


「いや、大丈夫。すぐ仕留めるから」


 そう言い、レキは美由の肩を叩くと大穴へ飛び込んだ。

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