ボトルライトは使い回せない

朝凪 凜

第1話

「今日は面白いことをしようと思います!」

 そう発したのは、学校が終わって友人の家に押しかけに行き、部屋に入ってローテーブルの前に座った宏美だった。

「その手に持っているもので?」

 胡散臭げに眺めているのがこの部屋の主である洋子である。

「なんかすごそうなこと出来る気がしない?」

 手に持っているものは牛乳瓶と懐中電灯、あとはスマホスタンドである。

「いや、全然しない」

 全然期待をしないままローテーブルの向かいに座る洋子。

 その様子に宏美がにやりと笑う。

「ならばお見せしよう! これはボトルライトである!」

「ボトルライト?」

「ワインボトルとかにライトを当てると良い感じの間接照明になって良いんだよ。あ、ワインボトルって瓶のやつね。空の瓶」

 そう説明をしてくれるのだが、手に持っているのはワインボトルでは無く牛乳瓶である。

「へー、そんなのあるんだ。でもどこにワインボトルがあるの?」

「家から持ってこようと思ったけど、意外と大きくて鞄に入らなかったからこの牛乳瓶で代用します!」

 ぐいっと前に出す牛乳瓶。200mlのやつだ。

「そっか。じゃあ頑張って。なんか飲み物とか持ってくる」

 立ち上がって部屋から出て行く。

 そして取り残された宏美は1人ぼーっとすることになる。

「……」

 数分して部屋に戻ってくるやいなやびっくりした。

「……え、何してるの?」

「牛乳瓶と懐中電灯でお話ししてる」

 左手に牛乳瓶を持って、右手に懐中電灯を持ってそれぞれそれぞれキャラクターのように動かしている。

「それは1人の時にやってほしい。見てて悲しくなるから」

「1人だったんだよ! 1人取り残される気持ちになってよ!!」

「そっか。悪かった悪かった。はい麦茶。コップはその牛乳瓶でいい?」

「使うの! これから! ライト当てるの! しかもちょっと牛乳くさいから麦茶は入れたくないの!」

「牛乳くさいんだ……。ちゃんと洗えばいいのに」

「さ、それじゃあライト点けるよ。部屋の電気消してくれる?」

 はいよ、とリモコンをたぐり寄せて電気を消す。

 牛乳瓶の中に懐中電灯を入れて瓶の底を照らしている。

「どうかな?」

「……うん、聞かなくても分かってるんじゃない?」

 瓶を通してライトが反射するわけでもなく、透明な瓶なので色が変化するわけでも無く、ただ懐中電灯の灯りが広がるだけであった。

「おっかしいなぁ。家でやったときは綺麗だったんだけどなぁ。やっぱりワインボトルじゃないとダメかな」

 首を捻りながら今回の結果を顧みる。

「家で牛乳瓶で試したの?」

「ううん。ワインボトルでしかやってないし、朝準備したときにワインボトルが入らなくて急いでたから近くにあった牛乳瓶にしたんだもん」

「結果見えてるじゃん! 無能か!!」

「しょうがない。今日の所はこれくらいにして……あれ?」

 牛乳瓶から取り出そうと引っ張るが、何かに引っかかっているのか取り出せないままでいる。

「取れない……。どうしよう」

 悲しい眼で見上げてくる宏美に対して、洋子はあっさりと

「そのまま持って帰れば嵩張らなくていいんじゃない?」

「うーん……しょうがないね。持って帰ってなんとかしよう」

 あっさり諦めて牛乳瓶を鞄の中に戻した。

 それからゴロゴロしながら話をして、夕方過ぎになったので帰ることにした。



 翌日の教室。

「おはよー」

 宏美が挨拶して寄ってきた。

「昨日の懐中電灯なんだけど、どうしても取れなくて、部屋でコンコン叩きながら頑張ってたら瓶が割れてお母さんに怒られた……」

「次からは考えてやろうな」

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