第119話 アレンとヨル③

「アレンの〈万物強化アッパード〉……もしかしたら、私は勘違いしていたのかも知れないな」

「どういうことだ、ケイト」

「そんな〈マインドフォース〉は最初から無かった……本当は〈世界〉から生まれた、お前の願望だったのではないか?」

「俺の願望……」


 確かに、みんなのためを想ってドリンクで作っていた……

 それがいつしか、無意識のうちに力が宿っていた、ということか。

 それが自身の〈マインドフォース〉ではなく……自分の思考から生まれた〈世界〉の力だったと……


「お前は俺の肉体――〈真似踊る愚者フール〉の力を手に入れて喜んでいたようだが……俺からすれば、滑稽この上なかったぞ。弱体化して喜んでいたのだからな」

「…………」

「全部アレンの望んだこと、か。このままでは自分は弱いから新しい力が欲しい。そう考えていたからこそ、ニーデリクの肉体を手に入れた。そして猫になったのも、お前の意思と言うわけだ」

「違うから。猫は違うから」

「違わないさ。お前は願ったんだよ、猫の姿を」

「…………」


 断じて違う!

 俺が睨むものだから、ケイトは「冗談さ」と一言いい、ヨルの方に視線を戻す。


「で? あんたはそれをアレンに伝えてどうするつもりなんだ? それだけの力があれば、さっさとアレンを殺してしまった方が早いだろ?」

「そうしたいのは山々なんだがな。運命の導き……いや、忌々しい指示通りにこうして対面しにきたんだよ」

「なるほど……シフォンのビジョン、か」


 俺はスーッと着地し、人間の姿に戻ってヨルと対峙する。

 するとシフォンは目を見開いて、俺たちを見ていた。


「わ、私の見たビジョンそのものだわ……」

「私もこれを見ていたのよ姉さん。もっとも私は、答えに気づいていたのだけれどね」


 シフォンとシーラはそれぞろ違う胸中で、俺たちの方へ視線を向けている。

 俺が世界を統一する側で……こいつは世界を破壊する側というわけだ。


「22の運命も揃い、これでようやく物語が進むというわけだ」

「結局のところ、やるってことでいいんだよな?」

「それが宿命。それが運命。俺たちの戦いは、生まれるずっと前――この世界が誕生する前から定められていたものなのだ。やらないわけもないし、やらないわけにもいかない」

「だったら……全力で行かせてもらうぞ!」


 俺は四つの魔魂石の力を解放し、超魔王の姿に変化する。


「な、なんなのじゃ、いったい!?」


 テレサたちが屋敷から飛び出して来る。

 そして巨大化した俺を下から見上げていた。


「…………」


 ヨルは静かに浮遊し、俺の目の前まで上昇する。


「そちらから仕掛けてきても構わないぞ」

「だったら遠慮なくやらせてもらうよ」


 〈万物強化アッパード〉――ケイトが名付けてくれた能力。

 本当は〈世界〉から漏れてできた力ではあったが、役立つのは間違いないのでこの際どっちでも構わない。


 能力で自身の力を爆発的に上昇させる。


「〈風魔王の衝撃ブラックバースト〉!」


 圧縮された風のエネルギーが吹き荒れる。

 俺の口から黒い風が筒状に放出され、ヨルを易々と飲み込む。

 射線を少し上向きにしておいたので、それは天に向かって斜めに上がっていく。


「す、すごい一撃だ……さすがアレン様だな」


 セシルが驚いた表情でそれを見上げている。

 俺は風がおさまり、ヨルがどうなったのかを目を凝らして確認した。


「……嘘だろ?」

「俺はお前の攻撃を無傷で耐え切る……思った通りだ」

「こ、これが……〈偽りの世界ワールド〉の力……」


 自分の思った通りの力を発揮する能力。 

 今も無傷で耐え切ると思ったから、それが現実となった、ということか。


 元々自身の能力ではあるみたいだけど……ちょっとそれ、チートすぎませんか?

 するとヨルはスッと右手をこちらに向ける。


「…………」

「ちょっ!」


 カッと眼前に眩い光が現出する。

 これ、ちょっとマズすぎるんじゃないのか?


 俺は咄嗟に猫の姿に変化し、大地を駆け抜ける。

 元俺がいた場所に目を向けると、そこには輝く光に包まれ、空間が歪んでいた。

 あんなの喰らってたら……怖っ!


「まさか今のを回避するとは……」


 ヨルは信じられないと言った表情で、自分の手を見下ろしていた。

 俺はその隙に奴の背後に〈空間転移テレポート〉し、超魔王としての力と 〈万物強化アッパード〉の力を全力解放して、能力をぶっ放す。


「〈空間裂断ディストーションブレイド〉!」


 漆黒の剣がヨルの全身を貫いた。


「これなら流石に……っ!?」


 漆黒のエネルギーが縮小していくが、ヨルはなんと、また無傷のままでそこに存在していた。

 え? ちょっとこれどうすりゃいいの?


 俺はダラダラ汗をたらしながら、ヨルの背中を見据えていた。

 ヨルは不敵な笑みを浮かべながら、こちらに視線を向ける。


 冷たいぐらいの風が、俺たちを叩きつける。


「元の体のままなら、お前は無敵だったというのに」

「元の体じゃ得られないような、素晴らしい仲間たちは得ることはできたけどな」

「だが……ここで終わりだ。アレン」

「……終わってたまるかよ」


 だが俺は、ヨルの見えない力に飲み込まれ――この世から消滅してしまった。

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