第111話 アレンとツクモ

「ターニャ」

「なぁに?」


 ターニャは笑顔で俺の前に立っていた。

 そんな彼女に、俺は真剣な表情で伝える。


「俺は皆の下に行く。でもターニャはここで、サンデールたちと待っていてくれ」

「…………」


 ターニャは俺の意図を汲んだのだろう。

 少し視線を落とし、悲しそうに笑った。


「お姉ちゃん……無事じゃ済まないよ、ね」

「…………」

「分かってるよ。お姉ちゃんが全部悪いっていうのも、お姉ちゃんが酷い目に逢うのを私に見せないようにここに置いて行くっていうのも……」


 ターニャは少しだけ涙を溜めながら、出来る限りの笑顔を俺に見せる。


「待ってるね、アレン」

「うん」


 俺はターニャの気持ちを想像し、ズキンと心に痛みを感じた。

 実の姉が酷い目に逢うのなんて、考えるだけでも辛いよな。

 ターニャのことを考えると、俺だってできればネリアナのことは赦してあげたいって思うけど……もう黙って許してあげれないところまで、彼女は来てしまっている。

 俺だけの問題だったらいいけど、大勢の罪も無い人々を殺しているし、人を操り人形のように扱っているんだ。

 俺が許しても世間が許さない。

 だから、決着をつけなきゃいけないんだ。


 俺はターニャに頷き、その場を後にしようとした。

 だがテレサが俺の服の袖を掴む。


「何?」

「わらわも行く。向こうにはわらわの配下もいるのじゃ」

「配下って……何の目的で?」

「お主の仲間たちを殺すためじゃ」

「…………」

 

 大変だ。

 まさか魔王の手下まで参入していたとは。

 俺は焦る気持ちで、テレサごと〈空間転移テレポート〉する。


「ア、アレン……」

「ケイト……みんなは?」

「あいつにやられてしまったよ」


 大地に膝をつき、一人の男を顎で指すケイト。

 そこにいたのは、左耳に三つのピアスをした男だった。


 ケイトは先ほどまでソルトと戦っていたのであろう、唸っている奴と対峙している。


「さっきまでは互角だったんだがな……ウェンディがやられて相手が力を取り戻した」

「そっか」


 ソルトは俺の姿を見るなり、怒り狂っていた表情をさらに歪ませに歪ませ、白目を剥く勢いで俺を睨んできた。

 いや、逆に面白い顔になってるからね?


「てめえ! あの時の!!」

「ご無沙汰しております」

「このっ――クソがぁ!」


 ドン! と勢いよくこちらに駆けて来るソルト。

 もうこいつとやりあってる暇なんてないんだけどなぁ……

 俺は嘆息しつつ、さっさと勝負を決めようと、回し蹴りを放とうとした。

 しかし――


「お座り!」


 ビタッとその場に止まり、両手を地面につくソルト。

 そして驚いた表情でテレサを見ている。


「な、なんでそいつと一緒にいるんですか…テレサ様!」

「ま、まぁ……負けてしまってだな……」


 堂々と口にできないテレサは、ゴニョゴニョ口の中で何かを言っていた。

 隣にいる俺でも聞き取れないんだけど。


「負けったって……どうやって負けたんですか!?」


 聞こえんのかよ。

 耳は相当いいようだな。


「ま、負け方などどうでもよいわ! とにかくこいつに負けてしまったから、わらわたちは手を引くぞ」

「もしかしてこの子供が魔王テレサなのか?」

「ああ」

「誰が子供じゃ! わらわはお主よりも年上じゃぞ!」

「何歳だ?」

「109歳じゃ!」


 無い胸を大きく張るテレサ。

 ケイトは鼻で笑い、彼女に言う。


「私は255歳だ。やっぱりまだまだ子供じゃないか」

「んなっ!? お主人間なんじゃろ……そんな年齢、ありえないじゃろ」

「ありえないのは子供魔王の方がありえないだろ」

「だからわらわは子供じゃないもん!」

「二人とも、ちょっと静かにしてくれ」


 俺は〈妖精の癒しフェアリーヒール〉でケイトの傷を癒し、ピアスの男の方へと歩いていく。

 彼の後方には数えきれないほどのレステア軍の兵士たち。

 そして足元にはエドガーたちが倒れている。


 セシルたちは……兵士に捕らえられている。

 俺は〈空間転移テレポート〉でセシル達を捕らえている兵士たちの下に移動し、頭にチョップを決めて気絶させていく。


「な、なんだこいつ!」

「急に現れたぞ!」

「というか、強すぎじゃないか!?」


 瞬時に10人の兵士を倒し、セシルたちを助け出し、再度〈空間転移テレポート〉。

 みんなを後ろの森の方に移動させ、今度はピアスの男の下に飛ぶ。


「!」

「悪いけど、みんなを回収させてもらうよ」

 

 男は咄嗟に後ろに下がり、俺から距離を取った。

 ありがたい。これは逆にみんなを助けやすいぞ。

 そしてサッとセシルたちの下まで移動させる。


「ア、アレンさん」

「ナエ……無事だったんだな」

「はい。助けに入ろうとしたんですが、あっという間にあの人にやられてしまって、助けるタイミングがありませんでした」

「そっか。まぁ後は俺に任せておいてくれ」


 俺は大きく伸びをして、相手の姿を視認する。

 とくに強そうには見えないんだけどな……

 って、寝の姿を持つ俺が言うようなセリフじゃないか。

 まっ、負けないように頑張らせてもらおうかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る