第89話 自動追尾

「お前はまだ成長途上にある。いずれ俺に勝てる戦士になることも可能だろう」

「なっ……?」


 いつの間にか、セシルの背後を取っているエドガー。

 ゾクリという寒気と共に振り返ろうとするセシル。

 しかし――


「だが、その未来が訪れることはない。お前はここで終わるのだからな」


 腰から抜いた短剣でセシルの腰を深々と突き刺すエドガー。

 激しい痛みに膝をつくセシル。


「背中から狙うなんて……卑怯な」

「ああ。お前の言う通り、俺は卑怯な男だ」


 エドガーが持つ大剣はブラフである。

 これを振るう力は勿論十分にあるのだが、この大剣を持つことによって相手に力技で攻めるパワータイプと思わせるのが彼の策略だ。

 常に戦士然とした態度を取り、真面目な振りをして相手を騙す。

 本来のエドガーは狡猾であり正々堂々と戦うことを嫌う、暗殺者のような人間。

 大剣で相手の首を切り落とすのではなく、こうして背後から短剣で命を奪うのがエドガーのやり方なのだ。


 〈惑わす美しき月ムーン〉。


 その〈アルカナフォース〉の名と同じく、相手を惑わす戦術を得意としている男だ。


 エドガーはセシルの持っている剣を蹴り飛ばし、彼を詰めたい瞳で見下ろす。


「勝負は勝ったもの勝ちだ。敗者はただ屍と化すのみ」

「くそっ……」

「セ、セシルさん!」


 ナエはガトリングガンでエドガーを狙い撃つ。

 だがエドガーは〈惑わす美しき月ムーン〉によって、ゆらりとその場に分身を残し、襲い来る弾丸から離れてしまう。

 ナエの攻撃はエドガーの分身を貫くが、煙となって消えてしまうだけに終わる。


「え? あれっ?」

「なになに? どうなってるのあれ?」

「わ、分かりませんが……私にはやっぱり無理なんでしょうかー!?」


 真っ青な顔でパニック状態になるナエ。


「あわわわ……私程度が調子に乗ったところで、あんなのに勝てるわけなかったんです……すいません……本当にすいませんっ!」


 誰もいない空間にペコペコ頭を下げるナエ。

 ターニャはそんなナエの頭を優しく撫でる。


「大丈夫だよ。ナエなら大丈夫。あんなぐらい、どうってことないよ。ちょっと動きが早いだけでしょ?」


 ナエはターニャの手のぬくもりに安心し、冷静さを取り戻す。

 エドガーはセシルから少し離れた場所から忽然として現れる。


「ど、どんな能力なんでしょうか、あの人?」

「さあ? 私には分かんないなぁ。アレンのことならなんでも分かるんだけど。そういやアレン、船の中でもクリームパスタ食べてて――」

「あ、あの、アレンさんの話は後で聞かせて下さい」


 マイペースのターニャを手で制し、エドガーに集中するナエ。


「能力は分からない……消える能力……どうやっているのかは分からないけれど、こちらの攻撃をかわしてしまう……だったら」


 ナエは〈創造せし魔術師マジシャン〉で鉄製の筒状の物を創り出し、肩に担ぐ。


「この非現実な世界だからこそ創造できる、非現実的な兵器なら」


 カチッとトリガーを引くナエ。

 すると筒からは光線が発射される。


「ホーミングレーザー! これなら――」


 エドガーはナエから飛んで来る閃光を避けるために、能力を発動させる。

 スッと分身から離れていく。

 が、


「!?」


 閃光は見えないエドガーに向かって方向を変える。


 自動追尾。


 エドガーの熱を探知し、それを追いかける。


「捉えれるはず! いけー!」


 ナエは閃光を連射する。

 その数、九発。

 九つの閃光が、エドガーに向かって飛翔していく。


「くっ……」


 逃げても逃げても、その閃光はエドガーに食らいつく。

 現実的な兵器ではないが、ナエは自身のイメージだけでこの武器を創り出してしまった。

 彼女の能力もシナジーが原因で、上昇している。

 以前ならここまでの物は創り出すことなど不可能であったが、現在はこうして顕在させることに成功した。

 

 閃光をいつまでも避けることなどできるわけもなく、エドガーはその直撃を喰らう。


「がっ――」


 攻撃を喰らったエドガーは痙攣を起こし、膝をつく。


「な、なんだこれは……」


 さらに残りの閃光がエドガーに襲い掛かり、その意識を刈り取ってしまった。


「やったやった! すごいじゃん、ナエ!」

「あ、あはは……勝てちゃいましたね」


 エドガーがやられたことを察知したウェンディは悲鳴に近い叫び声を上げる。


「エドガー!!」

「ちょっとちょっと、彼氏を気にしている余裕なんてあるの?」

「俺たちも舐められたものだな」


 ウェンディの左右から攻撃を放つヘレンとホルト。

 容赦なく彼女の頚椎を襲う二人の武器。

 ウェンディはエドガーの方に気を取られ、あっさりと二人にやれれてしまう。


 たじろぐエルフたち。 

 ケイトはその反応を楽しみながら、エルフたちを倒し続ける。


「!!」


 しかしそれを阻止すべく、凄まじい勢いの矢がケイトの顔面めがけて飛んで来る。

 ケイトは寸前のところで回避し、それを放った相手を睨み付けた。


「あんたたちは、絶対に許さない」

「許さない……か。だったら、私たちを皆殺しにでもするかい?」


 ケイトに弓を引く者。

 それは、イースであった。


「争いごとなんて御免だけど、この地を守るためなら、やるしかないでしょ」

「ふん。私は負けてやる気つもりはない。こちらを止めるなら、死ぬ気でかかってこい」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る