第87話 アレン軍VSドワーフ・エルフ

「うおおおっ!」


 数十人のドワーフが一斉に斬りかかって来る。

 斧、剣、槌。

 その全てを左右の拳で打ち砕いていく。


「ははは! 貴様ら程度の攻撃、我に通用するものかぁ!」


 ドンッと大地を踏み込むと、俺の足から波が生まれる。

 〈巨大烏賊の波浪クラーケンウェイブ〉――刃のように鋭いその波は、ドワーフたちの武器を切り刻む。


「とんだ化け物みたいだなぁ。俺が相手してやるぅ」

「オージ。貴様がどれだけ強かろうと、我に勝てるわけがなかろうが!」


 俺はノリに乗ってオージと対峙する。

 オージが巨大な斧を両手に持つと、その周囲に七つの光がフワッと生まれた。


「〈付き従う七つ星スター〉ぁ! 魔王を打ち砕けぇ!」

「おっ」


 オージが斧を振るうと、その光が同時に斬撃を放つ。

 斧の一撃と七つの光による八連撃が俺を襲う。


 他のドワーフとは一線を画す実力だ。

 圧倒的な実力。

 なぜ彼がドワーフの代表なのかがよく分かる。

 ドワーフは力自慢が多い。

 そして力がある者こそがドワーフの頂点に立つ。

 強いからこその代表。

 ドワーフの頂点の力と言うわけだ。


 だけど。

 それでも俺には通用しない。


「〈翼竜の風剣ストームブリンガー〉! 〈死霊王の雷剣サンダーブレイド〉!」


 魔王の能力により強化された風と雷の剣。

 二刀流でその八連撃を迎え撃つ。


「ぬはははは!」


 金属同士のぶつかり合う音が鳴り響き、オージは後ずさる。


「くぅっ! なんて強さだぁ!」

「ふははは。まだまだ我は力を出し尽くしておらんぞ! その身に闇の王者の力を――」

「〈癒し束縛する悪魔デビル〉!」

「ぐうぅ……身体がうごかないぃ」

「…………」


 これからオージに俺の強さを思い知らせようとしたところに、キリンが割って入る。

 ここからがいいところだったのに……


「彼が一番の実力者でしょ? 私が押さえておくから、あなたは周囲のドワーフを倒してきなさい」

「あ、はい」

「ビ、ビクともしねえぇ……」


 キリンの能力は強力だ。

 俺だから解けることができたが、やはり普通はあれを解除できないんだな。

 しかし俺の思った通り、彼女の能力は、相手を止めている間は何もできないようだ。

 さっきも攻撃に転じた瞬間に能力が解けたからな。

 彼女はオージに向かって右手を突き出しているだけで、微動だにしない。


 なんだか美味しいところを持って行かれた気分で釈然とはしないが、目的はドワーフたちを制圧すること。

 今はそちらに集中しよう。




 ◇◇◇◇◇◇◇



「い、いきます!」


 森の中でナエは大の男よりも大きな金属の筒を持っており、その先端には黒い銃身が備わっている。

 彼女いわく、これは〈ガトリングガン〉と呼ばれるものだ。


 ナエがトリガーを引くと、けたたましい音と共に、弾丸が連続で放出されていく。


「うわあああ!」

「く、くそ! 魔王軍は化け物揃いか!?」


 ナエの弾丸を喰らい、エルフたちはバタバタ倒れていく。

 ガトリングガンの射線上を避けて、ケイトたちがエルフたちに攻撃を仕掛ける。

 前線で戦うのはケイト、セシル、ヘレン、ホルトの四人。


 四人の動きはエルフたちを圧倒した。

 特にケイトとセシル。

 ドリンクの効力はあったものの、以前にも増して速度も強さも上昇している。

 これは運命の力を持つ者が集まったことにより、シナジーが起こり能力が増したことによる現象だった。


 数十人のエルフがケイトたちに弓を向けるが、捉えることができない。


「無様にやられるか尻尾を巻いて逃げるか、好きな方を選びな!」


 戦闘により気分が高揚しているケイト。

 殺戮者の目でエルフたちを狩っている。


「ま、まだモルタナたちは来ないのか!?」

「まだ時間がかかるようだ! ここは私たちで押さえるしかない!」

「無駄無駄! 私たちは止めらないよ!」


 ヘレンが舞いながらエルフたちに重たい一撃をお見舞いしていく。

 セシルとホルトは、ヘレンが倒し損ねたエルフたちを仕留めて回る。


「正義は我とあり! 正義は常にアレン様の下にあると知れ!」


 聖炎で襲い来る複数の矢を燃やし尽くすセシル。

 矢を放ったエルフたちは驚愕し、その実力に逃げ出す者もいた。


 しかし、突如として一人の大男が剣を振りかぶり、セシルへと突撃する。


「むっ!」


 重々しい剣が、セシルを襲う。

 なんとか剣で受け止めたセシルは、その男の顔を睨み付ける。


「エドガー!」


 大男の正体はエドガーだった。

 エドガーは冷酷な瞳でセシルを見据えている。


「エルフに加勢するほど義理は無いが……ウェンディのためにお前らをやらせてもらう」

「そう簡単にやられると思うか!?」

「ふっ。〈勇者〉とやらの実力を見せてもらおう」


 セシルとエドガーが激突しだしたのと同じタイミングで、舞い続けるヘレンに斬りかかる女性の姿が。

 それはウェンディ。

 細いレイピアで太い槍に攻撃をする。


「初めまして。あなたがウェンディね」

「あなたのことは知らないけど……魔王の手先なんでしょ?」

「そういうこと。アレン様のために私たちは戦う、の!」


 力強い一撃でウェンディを吹き飛ばすヘレン。

 だがそれは、ウェンディが自分から後ろに飛び跳ねたためであった。


「人間に恨みも何も無いけど、エルフを脅かす者には容赦しないわ」

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