第86話 魔王覚醒

「うふふ。人間アレンさん、カッコいい! あ、ちょっとこっち向いて下さい」

「…………」


 メルバリーの城の前に集合している仲間たち。

 ナエが何やら興奮気味に、パシャパシャ音がする物を俺の方へ笑いながら向けている。


 左に行ったり右に行ったり、または下からパシャパシャ音を鳴らす。


「何、それ?」

「これはカメラと言って、写真を撮ることができる機械です」


 四角い箱に丸い筒がついた物……カメラと言うのは分かったけど、シャシンと言うのがよく分からない。

 異世界の言葉なのだろう。

 お願いだから理解しやすい言葉を選んで頂戴。


「じゃあ作戦通り、みんなにはエルフの方を攻めてもらうよ」

「了解! 俺たちに任せておいてください」

「まさかエルフと戦うことになるなんて、腕が鳴るなぁ」


 セシルとヘレンが意気揚々と答える。

 傍らにいるホルトは腕を組んで静かに目を閉じていた。


「サンデールは、相手を攻撃するのは得意じゃないからな……お前はターニャとシフォンとチェイスを守ってやってくれ」

「うん」

「僕も下級魔術の魔導書を持って来たので、援護ぐらいはできます」

「ああ。頼む」


 みんなはナエから受け取った武器を確認している。

 今回の作戦に必要な武器。

 ナエが能力で創造してくれた物だ。

 元の武器を皆めいめいに持ちつつ、新しい武器を手に持っている。

 見た目は同じ物だ。


「よし。そろそろ行くか」

「ああ。気を付けてな」


 ケイトが微笑を浮かべながらそう言う。

 俺も微笑を彼女に向け、ゆっくりと歩き出す。


「いってらしゃーい」


 ターニャの元気な声が背後から聞こえて来る。

 そして次の瞬間、それは怒声に変わった。


「って、なんであんたがついて行くのよ!」

「私はあなたたちの仲間じゃないから。仕方なくだけど彼についていくことにしたの」


 キリンが俺について来ていたことに、怒るターニャ。

 プンプン怒る彼女の声が聞こえていたが、俺は無視してドワーフの住処へと下山して行く。


「で、何でついてくるのさ? キリンはキリンの魔王の下に帰ったらいいんじゃない?」

「……人の心を好き勝手しておいてよく言う。私だってできることならそうしたいと思っているわ」


 だったらさっさと帰ればいいのに。

 別に俺、何もしてないから帰れるはずだよ。


「まぁ、でも、ドワーフを魔族の力で占領できるのはいいことだと思うから手伝ってあげるわ」

「別に俺一人でなんとでもなるんだけどな……」

「一人でなんとでもなるとしても、二人で行ったらダメだって決まりはないでしょ?」

「まぁ、確かに」


 いても困ることはない、か。

 彼女は実力者のようだし、足手まといにはならないだろうしな。


「さてと」


 山を下り、ドワーフたちが住む場所まで来た俺は、一度大きく息を吸い込む。

 そして、胸の中にある、魔魂石に意識を集中する。


「〈魔王覚醒デモンズソウル〉」


 ドクンと心臓が跳ねる。

 身体が肥大し、一回り大きくなり、筋肉質の肉体へと変貌していく。

 髪は黒くなり、禍々しい紋章が全身に浮かび上がる。

 闇の力が体中に浸透していく。


 力は体内にとどまらず、周囲に伝わるかのように闇の鼓動が響いている。

 木々が恐怖するように震え、風がおどろおどろしく鳴いていた。


「……凄い力」


 魔王として覚醒した俺を見て、キリンはゴクリと固唾を飲み込む。

 俺はニヤリと彼女に笑みを向け、そしてドワーフたちに大声で伝える。


「我はメルバリーより魔王を後継せし者――魔王アレン! これよりこの地を制圧させてもらう!」


 俺の声を聞いたドワーフたちが大騒ぎし、住処から飛び出して来る。

 先頭を走るのは、オージ。

 彼は俺の姿を見て、たらりと汗を流している。


「新しい魔王だとぉ……」

「そういうことだ。貴様らはあの城を手中に収めようとしているようだが……諦めてもおう」


 威風堂々とそう言った俺は手をかざし、力を解放する。


「〈鷲獅子の風ジェットタイフーン〉」


 暴風が吹き荒れ、数多くのドワーフたちを吹き飛ばす。

 あれ? 想像以上に魔力が上昇してる。

 魔王の力って凄いんだな。

 

 と言ってもこれは魔王の力だけではなく、ワクシリルから手に入れた魔力自体が強力だということもあるのだが。

 どうやら更新された魔力量が圧倒的みたいだ。


「〈死霊王の黒雷ライトニングダークネス〉」


 周囲に稲妻が走り、ドワーフたちを感電させていく。

 戸惑い、後ずさりしていくドワーフ。


「ま、魔王ってのはこんなに強かったのか……」

「い、いや。メルバリーを見たことあるが、こんなに強くは無かったぞ!」

「ってことは……新しい魔王が強すぎるってことか!?」


 キリンはポッと顔を赤くして、俺を見ている。

 え? なんで顔を赤くするの?


「強くて素敵……ハッ! あなた、また魅了チャームを使ったわね!」

「……使ってないよ」

「いいえ! あなたは私に魅了チャームを仕掛けたわ。じゃないとこの気持ちの高ぶりに説明がつかないもの!」

「もういいです。折角カッコつけて戦ってるのに、台無しじゃないか」


 オージらは最初こそ驚愕していたようだが、今はポカンと俺たちのやりとりを見ていた。

 うーん。いまいち決まりきらないなぁ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る