第52話 海中戦

 ドボーン!

 と俺は海に入り、海中のゾンビを視認する。


 夜の海は暗く、あまり先の方まで見ることはできないが……ゾンビはまだまだ海の向こうから渡って来ているらしく、途切れる気配がない。


 ここで先に叩いておくか。

 俺はそう考えるが、早くも息切れを起こしそうになる。


 あ、体は強いのに、あんまり水中で息は持ちそうにないな。


 しかしそこで、天の助けともいえるようなモンスターが現れた。


 それは体は緑色で、ヒレが手足についている、魚の顔をした人と同じぐらいのサイズのモンスター――


 サハギン。


 あれならそこまで強さを感じないし、楽に倒せるだろう。

 それにあいつを倒したら……


 俺はサハギンの背後に〈空間転移テレポート〉し、〈吸血蝙蝠の摂取ドレインタッチ〉で生命力を吸い取った。


「アガァアア……」


 命尽きるサハギン。

 奴の体は粒子となり、俺の体に吸収された。


「よし、思った通りだ」


 サハギンを吸収したことにより、水中で呼吸ができるようになった。

 それに水中での移動速度が上がり、一石二鳥だ。


 俺は水中を舞うように移動し、海藻やクラゲなどを避けながらゾンビへと近づいていく。


「〈鷲獅子の風ジェットタイフーン〉」


 俺の両前足から繰り出される竜巻が、次々にゾンビを飲み込んでいく。

 

 相手は水中なので動きが遅く、俺の方に視線を向けるがこちらに手を伸ばすだけであった。

 あ、これ楽勝だな。


 そう思い、もう一発〈鷲獅子の風ジェットタイフーン〉を放出しようとした。


 だが、今度は大量のサハギンが俺に向かって接近していた。

 左右上下、あらゆる方向から俺を取り囲むサハギン。


 しかし、そんなのお構いなしだ。

 俺は〈鷲獅子の風ジェットタイフーン〉を解き放つ。


 サハギンもゾンビもそこら辺に沈んでいるゴミも、全部まとめて竜巻に飲み込まれ八つ裂きになっていく。


「まだまだ! 〈触手攻撃ローバーテンタクル〉!」


 両前足を触手に変化させ、それらを鞭のようにしならせる。

 叩いて。叩き潰して。叩きのめす。


 

 ◇◇◇◇◇◇◇



 長時間触手を振るい、進軍するゾンビを壊滅することに成功した。


 ゾンビの胴体や頭が海中に散乱し、腐海のように濁り切っている。

 これまた掃除しなきゃダメだな。

 全部終わったら〈空間裂断ディストーションブレイド〉でちゃんと片付けよう。

 それまではごめんなさい。


「んんっ!?」


 突如、自分の体がギューンと何か強い力に引っ張られる。

 後ろ足に何かが巻き付いていて――それが俺の体を引いているのだ。


 なんだ? 誰だ? 誰なんだ?


 俺に巻き付いている物……それは巨大なイカのような足だった。

 

「え? ええ? えええっ!?」


 ちょっとやそっとのサイズではない、あまりにも大きい足。

 それが8本あり、胴体もイカにしかみえない。

 青く巨大なイカ。

 全長は人間の数倍の大きさがある、それは――


 クラーケンだった。


 なんでこんな化け物がこんなとこにいるんだよ。


 俺はクラーケンに高速で引きずり回されながらそんな思案をしていた。


 海の中では最強クラスの生物だと聞いている。

 こんなの勝てるわけがない……


 普通なら。


 クラーケンは移動を止め、足で俺の体を力の限り締め付ける。

 そして大きな口を開け、俺を飲み込もうとした。


 ずずずと、強烈な勢いで海中のあらゆるものを飲み込んでいくクラーケン。

 ゾンビの肉体も飲み込んでいく。

 いいぞ。もっと掃除しろ。


 俺も奴の口内へと飲み込まれていく。


「…………」


 クラーケンの胃の中に納まった俺は、大きく息を吸い込み、〈三頭獣の炎ケルベロスファイア〉を解き放つ。


 〈万物強化アッパード〉で威力が格段に増した3つの炎は、クラーケンの胃の中の水分を蒸発させていく。


「腹の中から――燃え尽きろっ!」

「ギュオオオオオオオオッ……」


 水の中でも消えない炎に、体内から燃やされていくクラーケン。

 

 俺は開いた口から飛び出る。


「イカの丸焼きの完成! ってね」


 沈静していく炎。 

 クラーケンは真っ黒こげになり、ピクリとも動かなくなってしまった。

 ちょっと焼き過ぎたな。

 これじゃ食べれそうにない。

 いや、食べる気もないけどさ。


 クラーケンの体が粒子となり、俺の力となる。


「よし。これで海の中は終わりだろ」


 ギュンッと俺は海面に向かって急上昇する。


 海から飛び出て、海岸の方を見た。

 

 クラーケンには結構な距離を引きずられていたようで、どちらかと言えば死の島に近い場所に俺はいる。


 そのままふわふわ空を浮き、海岸の方へ向かうと上陸したゾンビはまだ残っているようで、冒険者たちと激戦を繰り広げていた。


「おっ?」


 戦場から離れた場所……海岸に入る手前、人工的な階段が施されている所にシフォンとターニャがいた。


「シフォン。なんでここいるんだよ?」

「アレン様」


 手招きするシフォン。

 俺は彼女の胸に着地する。


 あっ。

 ケイトより柔らかい……


 シフォンに優しく抱かれ、俺は戦場の方に視線を移す。


「ま、残りあれぐらいなら俺が手伝う必要はないだろ。ケイトもいるし」

「ええ……それにもう一人、運命の力を持つ者がいますから」

「え? どいつ?」


 ある一人の男を指差すシフォン。


 それは金髪の剣士風の男性。

 剣に光る炎を宿し、敵と戦っている。


「彼は、勇者に匹敵するほどの光の持ち主。彼ならばあるいは……」


 ワクシリルを倒せる……か。

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