第31話 ネリアナと盗賊②

 山を登って行き、盗賊たちの住処へと到着するネリアナたち。

 周囲は自然に囲まれたいい場所なのだが、異様な雰囲気が建物から漂っている。

 だが、元々最強クラスであった彼女たちから見れば、どうということはなかった。


 ただ落ち着いた様子で建物を見上げている3人。


「ここが盗賊たちの……」

「美しくない」

「逆に美しかったらビックリするけどな!」


 ゲラゲラ笑うノード。

 3人の話し声を聞いて、盗賊たちが建物から飛び出て来る。


「誰だお前らは」

「ああ? お前ら悪者なんだよな……だったら、俺様たちは正義の味方ってか?」

「……あるいは、同じ悪者なのかもね」

「?」


 ネリアナたちの考えが読めない盗賊たちは戸惑っていた。

 13人の盗賊に囲まれていても微動だにしないことにも脅威を感じている。


 盗賊たちは、ただネリアナたちを取り囲んだだけで手を出すことができなかった。


「なんの騒ぎだ? んん?」

「お、親分!」


 建物から出て来たフューリ。

 その体の大きさと力強さにヌールドはゴクリと息を飲む。

 大きさはノードとあまり変わらないのだが、威圧感がある。

 強さの自信と鍛え上げられた肉体から発する、他を圧倒する威圧感だ。


「で、お前らは誰だ? んん?」

「……私たちは、あなたたちの味方よ」

「味方だぁ?」


 フューリはネリアナの姿を隅々まで舐めまわすように見ていた。

 彼女の美しさに舌なめずりしている。


「こりゃあいい女だな……」


 ヌールドがネリアナの前に立つ。

 

「…………」


 無言でヌールドを見下ろしていたフューリは、突然手を伸ばし、ヌールドの左肩をギュッと掴んだ。


「ぎゃあああああ!」

「がはは! 怪我人がいっちょ前に勇気出すじゃねえか! んん? だがそんなの無謀以外の何物でもねえ。調子に乗んじゃねえ!」


 痛みにブクブク泡を吹くヌールド。

 フューリがパッと手を離し、地面に膝をつく。

 左腕からは血が流れ出ている。


「……あなた、強そうね」


 ネリアナはようやくフューリの強さに気づいたようだった。

 確かにある程度強いとは思っていたようだが、自分の予想以上だと察する。

 

 こいつがいれば、あの獣人と女を倒すことができるかもしれない。

 そう考えたネリアナは、フューリを懐柔しようと試みる。


「強さにはどれぐらい自信があるの?」

「そりゃあ、世界一強いだろうさ」

「凄い……素敵ね」


 にっこり天使の笑顔を見せる腹黒美少女。

 フューリはその可憐さに心を射抜かれ、二ヤーッと笑う。


「俺はよぉ、まどろっこしいのは嫌いでよ……単刀直入に聞く。どうすりゃお前は俺の女になってくれる? んん?」


 本来盗賊であるフューリは、無理矢理にでもネリアナを自分の物にすればよかったが、その笑顔を、心を欲した。

 この笑顔を自分の物にするためには自発的に自分の物にならなければ手に入らない。

 一瞬で、無意識的にそう判断したフューリはネリアナにそう訊ねる。


 これは交渉だ。

 ネリアナは頭をフル回転させた。


 彼女は自分の容姿の価値を分かっている。

 自分より美しい女など存在しない。

 それぐらい自信もあるしそう言われ続けてきた。


 だからこそ男は私の言いなりになる。

 それはこれまで言い寄って来た男たち相手に実験済みだ。

 男に靡くようなことはなかったが、アレンがいなくなってからのことを考えて、そいつら相手に密かに交渉術も鍛え上げてきた。


 そしてこのタイプの男は、単純だ。

 自分に自信があるからこそ、回りくどい言い方をしない。

 回りくどくないから、無駄な言い回しは必要ないのだ。

 ただ互いの願望をさらけ出すだけでいい。

 そして褒美のために、この男は力を振るうであろう。

 

 そう考えるネリアナは、いつも通りの声で願望を口にする。


「どうしても、消したい女がいるの。私の人生を邪魔しようとするモンスターみたいな存在よ」

「ほー……」

「あなたがそれを排除してくれるなら……約束するわ。私はあなたの女になる」

「お、おいネリアナ……いいのかよ?」

「いいに決まってるじゃない。自分の絶対安全を確保したいの。そのためならこの男の女になるぐらいどうってことないわ。それに、私のこと大事にしてくれるそうじゃない。案外優しそうだし」

「当たり前じゃねえか! 俺は優しくて有名だぞぉ? なあ?」


 周囲の盗賊たちは曖昧に返事をする。

 フューリは上機嫌でネリアナの肩に腕を回す。


「じゃあ前払いってことでよ――」

「私はそんな安い女じゃないわ。本気で私が欲しいなら、あなたの本気を見せて」


 フューリの手を払うネリアナ。

 フューリは苛立ちネリアナを見下ろす。


「…………」

「交渉決裂かしら? ただ女が抱きたいだけなら、そこらの適当な女でもさらってらっしゃいな。それとも、無理にでも私を自分の物にする?」

「……分かった。だが、約束は守れよ」

「ええ。でもその女はとても強い獣人の仲間がいるのよ。なんとかなるのかしら?」

「当然だ! 俺は世界一強い! 獣人だろうが魔王だろうが、倒してきてやらあ!」


 がははっと笑うフューリ。

 ネリアナは分かりやすく女神のような笑みをこぼし、その腹の中では喜びにほくそえんでいた。

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