第7話 愚者①
「〈アルカナフォース〉……〈マインドフォース〉は、自分の心情が力の源となるのだけど〈アルカナフォース〉は、神秘なる運命の力――アルカナが作用し、大きな力を与えられると言われている」
「はぁ……」
「そして、先代魔王ニーデリクはアルカナフォースの〈
「…………」
そこら中で飛び跳ねている青い物体、スライムを無視しながらケイトは続ける。
「愚者に宛がわれている数字は『0』。0には全ての可能性があり、何者にでもなれる力がある。ニーデリクはその〈
「……要するに、俺がスライムの力を手に入れたってこと?」
「そう言うことだ。そして〈
「……何それ? 最強じゃん」
「だからこそ、最弱の魔族だったニーデリクも、最強の魔王になれたみたいだな」
最弱だった魔族が、最強になった……
俺が、その力を手に入れた……のか。
最弱だった俺が、最強の魔王と同じ力を。
「…………」
ブルッと身震いをする。
最強になれる可能性に胸が果てしなく熱くなる。
心がどこまでも燃え上がる。
猫の肉体だけど、メラメラと全身が燃えるようだ。
「そしてもう一つ」
「え?」
「お前自身の力。お前は気づいていないようだが……なかなか凄い力があるみたいだな」
「……無い無い無い無い」
二本足で立ち、俺は前足で否定した。
だってそんな力があったなら、もっと戦えていたはずだ。
「お前のドリンク、少々おかしいと思わないか?」
「お、おかしいって……美味かっただろ?」
「味の話じゃないよ。味は美味しかった……問題は効力の方だ」
「効力……? 元気が出るようには作ったけどさ……」
「元気が出る……これはそんなレベルの物じゃない」
「ええっ?」
元気が出るだけじゃない……?
どういうことだ?
自分が作った物なのに、それ以外の効力が思い当たらず少し不安になる。
「これを一口飲んだ瞬間、私の力が大きく増したのが分かった。これは元気が出るどころか、飲んだ者の力を爆発的に跳ね上げる効果があるみたいだ」
「……そ、そりゃ、少しぐらいは力が増すだとか魔力が増すなんて言われていたポーションも入れていたけど……それでもそこまでの効力は無いはずだ」
「それがあるんだよ。お前が気づいてないだけで、そういう効果がお前のドリンクにはある」
「…………」
「今まで、これを飲んで戦ったことは?」
「いや……俺は無い」
そんな効能、自覚無かったけど……あるの?
確かに俺自身これを飲んで戦ったことはない。
でもケイトが言う通りなら、俺には凄いドリンクを作る力があるってこと?
「俺にはドリンク作りにおいて天賦の才があるということか……」
「そう断言するのは早いんじゃないか。ドリンク作りだけに特化した能力なんてあるのだろうか?」
「さぁ……でも、みんなの為にいいドリンクを作りたいって思ったのは間違いないけど」
「それがお前の〈マインドフォース〉かい?」
「俺の……?」
〈マインドフォース〉。
俺はこれまで何の能力も発現しなかった。
悲しいぐらいに。
力なんて何も無いと思っていた。
だけどそれが俺の勘違いだったとすると……
力が発動しているにも関わらず、確認できていなかった。と言うわけか。
それがドリンク作りに現れていた。
これが俺の能力……。
「俺の能力……〈
俺は胸を張って高らかに宣言した。
ケイトは俺のその姿を見て嘆息した。
「だから、ドリンクに限定するな、こだわるな。もしかしたらもっと違う使い道があるかも知れないんだぞ」
「違う使い道……だけどさ、今までドリンク以外に効果なんて出たことないんだけど。戦いにだって役に立たない」
「ドリンク以外に効果が出たことが無いとはいうけど、今の今まで能力に気が付かなかったじゃないか」
「それは……そうだな」
ドリンクの効能をアップさせる能力?
だけどそれがドリンク以外にも効果があるとしたら、他の物にも期待できると言うわけか。
「ま、のんびり確認してみるよ。まだ他には調べようもないしね」
「ああ、そうしてくれ。一番大事なのは可能性を信じることだ。自分の能力はこう使うしかないと考えるのは自分の力を狭めること他ならない。それは人生においても同じ。常に自分の力を、自分の未来を信じることだ」
「自分の未来……か」
俺の未来……
世界を統一するか破壊するって?
統一する気なんてさらさらないし、どっちでもいいや。
「……考えておきます」
「お前は考えていることが顔に出るようだな。思っていることが筒抜けだよ」
「……意思疎通ができているようで光栄です」
ため息をつくケイトと共に、俺は迷宮を脱出するために先へ進むことにした。
この様子なら、当面は楽に戦えるだろうと俺は高をくくっていた。
でも一番上、最上階付近ではどうなるのだろうと、少々不安に感じる部分もある。
だけどケイトの言う通り、とりあえずは自分の未来を信じて進むしかないよな。
せめてこの迷宮を脱出できる運命ぐらいは信じておこう。
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