第2話 最強パーティー②
どんよりとした雰囲気のルーの森を抜けた先にある、リバイロード迷宮。
――そこは入った瞬間、最高潮だった。
天井は高く何メートルもあり、薄暗く石造りの人工的な迷宮。
魔石が所々で緑色の光りを放ち、ほんの少しだが視界はある。
雄大な空間がどこまでも広がってそうな、地獄までつながっていそうなそんな場所。
だけどそれでいて、迷路のように複雑な作りになっている。
そんな場所に、自分の首を左腕に抱えている騎士の姿をしたアンデット系最強クラスのデュラハンや、灰色の肉体を持つ一つ目の大型モンスターサイクロプス、3つ首を持つ魔犬ケルベロスなどが大量に存在していた。
俺たちを率いるヌールドも、それらを見て固唾を飲み込んでいる。
「い、いきなりバケモノばかりだな……まったく美しくない」
「美しくないからバケモンだろうが。で、どうすんだよ?」
「もちろん……突き進むに決まっているだろ」
ヌールドの返事に、ノードはニヤリと笑い、両手に斧を持って駆け出した。
「ハッハッハッ! 俺様にやられたい奴はどいつだ!!」
ノードはサイクロプスと激突し、敵の拳を左の斧で受け止めた。
「やるじゃねえ――か!」
背の高いノードが子供に見えてしまうほど大きなサイクロプス。
そのサイズは天井に頭が届きそうなほどだ。
彼らは一瞬拮抗するが、ノードは右の斧でサイクロプスの右拳を断ち切った。
強烈に。強引に。剛力で。
腕から血を噴き出しながらも、敵はもう一つの拳でノードに襲いかかろうとする。
「爆ぜなさい」
だが、ネリアナの爆発魔術がサイクロプスの胴体に炸裂し、黒焦げとなった敵はゆっくりと後ろに倒れていく。
ドスーンと激しい音を立てサイクロプスは地面に倒れ、そのままピクリとも動かなくなってしまった。
「私、強くなったでしょ?」
「あ、ああ」
ネリアナは元々強かったが、この半年間でさらに強くなった。
もう強くなりすぎて、ドンドン肩身が狭くなる思いだ。
また夜に落ち込む材料が増えてしまった。
「…………」
ハリーもノードに続き、ケルベロスに攻撃を仕掛ける。
素早いケルベロスよりも速く駆け、敵を翻弄し、隙を狙って短刀で切り刻んでいく。
ノードのような豪快さはないが、確実に敵の体力を減らしていくスピードタイプ。
ただ黙々と戦うその姿は、まるで職人のような印象を受ける。
敵を静かに殺すだけの仕事人。
彼の戦う姿はまさにアサシンだ。
ヌールドの方に視線を向けると、彼は巨大な剣を両手で握り、サイクロプスの攻撃をヒラリとかわしていた。
「蝶のように舞い――完膚なきまでに叩きのめす!」
かわした勢いを攻撃に転換するように、クルリと回転し魔力と力を乗せた大剣をサイクロプスの胸に叩き込むヌールド。
敵はその強烈な一撃に、体が真っ二つに引き裂かれていた。
細い体をしているというのに、凄いパワーだ。
あまりに強すぎて俺は乾いた笑い声をあげるしかできなかった。
なんと情けないことだ。
俺は大きなリュックを背負いタイマツを掲げるだけで、4人の戦いを傍観することしかできなかった。
俺と仲間たちの間には絶対的な力の差がある。
それは、まるで心の距離のようにも感じられてしまう。
4人は本当の仲間で協力し合い、俺は別の世界の住人。
同じ場所にいるのに違う世界にいる気分。
俺にも力があったらなぁ……
勇者みたいにみんなを率いる力とか。
あるいは魔王のように最強の力があったら、みんなの役に立てるのになぁ。
そんなことを考えている時だった。
「! ヌールド!」
ヌールドの背後に、剣を振り上げたデュラハンがぬるりと迫っていた。
俺の叫びに反応したヌールドは敵の方向に向きを変え、剣に力を溜める。
「醜怪な魔物よ、せめて美しく散るがいい――〈
ヌールドの剣を氷が覆う。
冷たい冷気が周囲に漂い、彼の足元が氷ついていく。
温度が急速に低下し、俺は白い息を吐きながらヌールドの剣筋を見た。
氷の剣はデュラハンの上半身と下半身を一撃で切り分け、切り口を凍り付かせている。
美しく、冷酷なる一閃。
これがヌールドの〈
この世界にはマナが溢れていて、人の魔力に呼応し、姿かたちを変えると言われている。
そして使用者の心情を顕在化させ、力として振るうことが可能となり、この力をみなは〈マインドフォース〉と呼んでいた。
ヌールドのマインドフォースは〈
美しさにこだわりを持っているのは知っているが……
正直なんで氷なのかは分からない。
ネリアナはターゲットを爆発させる〈
なんで穏やかなネリアナの能力が、爆ぜる感情なのかこれもよく分からない。
もしかしたら爆発するぐらい俺のことが好きだとか?
そうだったら嬉しい気持ちはあるけど、ちょっと恥ずかしいな。
「オラオラ!」
そしてノードは〈
純粋な力で純粋に破壊するという至極分かりやすい能力だ。
〈
淡い光を纏う両斧でサイクロプスを十文字に斬る。
敵の肉体は4つに斬り分けられた。
みんなの強烈な能力に、俺はただ息を飲み拳を握り締めるしかなかった。
俺も力が欲しい……みんなのように敵を圧倒できる力を。
「…………」
「?」
ハリーはなぜか一瞬俺を見て、戦いに戻る。
あいつは能力もそうだが、何を考えているのかよく分からない。
一番怪しく、一番理解しがたい奴。
ただネリアナたちと同じく、強いということだけは確かだ。
そしてハリーの戦いっぷりを見て、俺はまた小さくため息をついた。
本当に俺も戦う力が欲しいよ……
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