第3話 斬首
ヌールドたちは強かった。
数多くの敵を倒しながら、奥へ奥へと歩を進めて行く。
ほとんど苦戦することなく、常に前進し続けていた。
しかし――
「はぁはぁ……さ、さすがに疲れてきたぜ……」
「こ、こんなに汗をかくなんて……華麗ではないな」
4人とも戦いに次ぐ戦いに、大きく息を切らせていた。
一匹一匹は彼らから見れば大したことないようだが、如何せん数が多すぎる。
どれだけモンスターを倒そうとも、湯水のように敵は沸いて出て来ているようだった。
俺はみんなの体力を心配し、そろそろ引き返した方がよいのではないかと不安になり始め、ごくりと息を飲んだ。
「み、みんな……このまま進んで、帰りの体力は大丈夫なの?」
「帰りか……そうだな。突き進むだけじゃダメだもんな。帰りも同じぐらい体力を消耗するかもしれねえしな」
ノードが肩を揺らしながら、チラリと俺の方を見た。
「…………」
ハリーは遠くに視線を向けたままで俺と視線を合わせようとしない。
どうしたんだろう?
急にハリーの態度がおかしくなったような気がする。
「……崖か……下までどれぐらいあるんだろうな」
周囲の敵を倒し、ヌールドは底の見えない崖を見下ろしている。
敵がいなくなったというのに……俺はなぜか敵がいる時以上に危険を感じていた。
なんだ……何かがおかしい。
「……アレン」
「ヌ、ヌールド……?」
俺に視線を向けるヌードルの目は、あまりにも冷たかった。
これは、モンスターと対峙している時と同じ目だ。
まるで標的を見据えているような……そんな瞳。
「な、なんだよ……ヌードル」
「いや。この迷宮を攻略できたら君に通達しようと考えていたことがあるんだ。だけど残念ながら、今の俺たちではこれ以上先に進めそうにない。まさかここまで難易度の高い迷宮だとは思っていなかった……だから順番は変わってしまったけれど君に大切なことを言っておくよ」
「…………」
ノードはニヤニヤと口角を上げながら俺を見ている。
ネリアナは心配そうに俺を見つめていた。
「君は――役立たずだ」
「そ、それは理解している。だけど、なんで今そんなことを言い出すんだ」
「君を連れているとね、評判が良かったんだよ。俺たち最強のパーティーに、最弱クラスの君を仲間として受け入れてあげるなんて、なんて美しい優しさ……とね」
ヌードルは端正な顔で、ため息をつく。
「だけどいつかは君をこのパーティーから外したいと思っていたんだ。だってそうだろ? なぜ俺たちが築き上げてきた栄光なる戦果を、一緒のパーティーだというだけで君までその脚光を浴びようとしているんだよ。このダンジョンを攻略したら、君までリバイロードを制覇したパーティーの一人として、後世まで語り継がれることになるんだ。そんなの不公平だろ? 必死で戦っている俺たちと、無能で何もできない君。それが同じ評価を得るなんて、俺は許せない……だから俺は、俺たちは――君をパーティーから追放する」
「だ、だったら、最初からそう言えばいいだろ……そう言ってくれていたら、俺だって喜んでこのパーティーを抜けたってのにさ」
そうだよ。
こんな実力差があり過ぎるパーティーに、無理に置いてもらわなくたって良かったんだ。
俺だって気にしてたんだから、もっと早く言ってくれよ。
「だから、周囲からの評判が良かったと言ってるだろ。弱いからって君を追い出したら……当然の処置だと思われるだろうけど、それじゃ上がった評価を下げるだけだ」
「…………」
嫌な予感がする。
予感と言うか、確信と言うか……
これはどう考えてもマズいとビンビン感じる。
「でも、このダンジョンでアレンが死んでしまったとしたら……高難易度の迷宮で仲間を失ってしまったということにしたのなら……美談として終わり、俺たちの評価は下がらない。あははっ! 役立たずの君は最期の最期で俺たちの役に立つと言うわけだ。どうだ? 光栄であり、素晴らしく美しいシナリオだろ?」
「お、俺をここで……殺すつもりなのか?」
「……君はここで儚く散ってしまうんだ。殺すんじゃなくて殺されてしまうんだよ。
そう言ってヌールドは大剣を手に取った。
どうあっても、俺を殺すつもりか……
俺はジリジリと数歩下がるが……抵抗する術がない。
どう考えても俺はこのままだとこいつに殺されてしまう。
俺は悔しさに歯をギリギリと噛んだ。
「!」
ノードがいつの間にやら俺の背後に回り込み、両肩をガッシリと抑え込んできた。
尋常ではない力で押さえつけられた俺は、ジタバタしようがビクともしない。
「は、離せ! 離せよ!」
「ハッハッハッ! いつもみたいに爽やかに笑えよ! そして潔く逝っちまえ!」
「そんな急に死ぬことを受け入れられるか! 頼むから許してくれ……この迷宮から出たら死んだってことにしておいてくれたらいいだろ? このことは誰にも言わないからさ」
「でも君が知り合いにでも会ってしまったら……言い訳が必要になる。確実なんだよ。ここでアレンが死んでくれた方がね」
「っ……」
俺は俯いたままのネリアナに大声で叫んだ。
「ネリアナ! 助けてくれ! 一緒に……一緒に逃げよう!」
「アレン……」
ネリアナはゆっくりと顔を上げ、ニッコリと微笑む。
俺は彼女の笑顔にホッため息をつく。
大丈夫だ。彼女は味方だ。
「一緒に逃げるわけねえだろボケが! これを提案したのは私なんだから!」
「……え?」
「お前みたいなダセーのが許嫁とか、最悪だろ? なんで美人で最強に強い私が、冴えない能無しのあんたと結婚しなきゃならないんだよ? お前がここで無様に死んでくれたら、私は金持ちでいい男を見つけて優雅な生活を送れる。だからここで死んで、モンスターの餌になってクソにでもなれ、カス!」
「…………」
俺は言葉を失った。
綺麗な顔で醜い笑みを浮かべ。
天使のような声で、悪魔のような言葉を口にしている。
こんな……ネリアナがこんな女性だったなんて知らなかった。
こんなことを考えているなんて知らなかった。
こんな汚い言葉を平気で口にできるなんて知らなかった。
俺はずっと騙されていたんだ。
ずっと俺のことを陰ではそう思っていたんだ。
「ぷっ……あはははは! 何あんた泣いてんの? 悲しくて泣いてんの? まぁ、私みたいな超美人と結婚できるなんて、夢物語のような事実があったものね? それがこんなあっけなく終わるなんて、確かに泣きたい気持ちは分かるわぁ!」
腹を抱えて笑うネリアナ。
俺は、自分の情けなさに泣いた。
ずっと一緒だったネリアナのことを見抜けなかった。
それが情けなくて、悔しくて……涙が止まらない。
そして、こんな情けないまま死んでいく事実が……許せない。
「じゃあな、アレン。最期ぐらいは美しく死んでほしかったが……醜い泣き顔のまま逝け」
俺は大地に口づけするようにノードに力づくで押さえつけられた。
最後の抵抗を試みるが……やはりビクともしない。
もう、死を受け入れるしかないのか。
「ガハハッ! お前のドリンク、美味かったぜ! だが実力が無さ過ぎたのが不味かったな」
「実力があっても――お前たちみたいなクソにはならないよ」
「ああ、そうか――い!」
「ガッ……」
ノードの強烈な拳が俺の顔面を捉える。
口から血が噴き出し、数本歯が折れた。
痛みと悲しみに涙を流す俺。
それを見て、ネリアナもヌールドもノードも大笑いしていた。
悔しい……
「じゃあな、アレン」
「さよなら。みんなにはアレンの勇姿を伝えておくわ。嬉しいでしょ?」
「くそ……くそっ!」
俺は涙を流しながらネリアナを睨み付けた。
彼女は口角を上げ、ゴミでも見るような目で見下ろしてくる。
悔しい悔しい悔しい悔しい!
だけど、何もできなかった。
抵抗すらもできなかった。
そして――
ヌールドの大剣が振り下ろされ、無残にも俺の首は胴体から切り離されてしまった。
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