大地に降る宇宙の涙

武蔵 ゆう

序章

青い、青い空が広がっている。

ふっと、窓際にある応接席から窓を見て、女は思った。

どのくらいの人が感じているのであろう。

この青のありがたさに。

青の空は、大気のおかげ。

大気が惑星を包んでいるから青く見える。

恒星からの光を屈折させ、吸収し、柔らかく変えている。

人が生き、呼吸をし、大地を宇宙服無しで歩けるのは大気が惑星を守っているからだ。

その大気の外側は、空気のない宇宙だ。

漆黒の闇の空間が覆っている……真の「無」だ。

その無の空間に「有」である恒星や惑星などが存在する――。

そこまで考えて、女はふっと笑った。

報告書を読みながら、こんなこと思う者は、そう居ないだろう。

傍にあるお茶に手を伸ばしながら、自嘲した。

これは、元の職業が原因か?

いや、元というのはおかしいか……。

本来の職業といった方が正しいのか。

また、窓に目を向けた。

時折、無性に、あの「無」の中に還りたくなる。

自分の本来の職場は、あの「無」に中であったはずなのに……。

今は、大地に足を付け生活している。

縛り付けられていると思うのは自分だけかもしれない。

そう思うと、さらに笑いが込み上げてくる。

――なかなか思うようにならないとは、このことだな。

宇宙を渡る公務員、それが自分のはずなのに、宇宙に出たのはたった半年。

それを恋しく思う自分がいた。

――航宙船に乗りたい。

でもそれが許されるべき立場に今はいない。

――還りたい。

母なる大地に抱き込まれ、まるで揺り籠の中にいる自分が、何を思うのか。

――還りたい。

今の自分には、許されない願い。

――還りたい。

あの「漆黒の無」の空間に抱きしめられたい。

――還りたい。

その願いは、遠く封印されたまま。

――還りたい……。

思いは、空中に四散した。

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