Over the Moon
金曜日
第1話 傷心旅行
7年付き合った彼女に振られてしまった。あんなに愛しあって、誰よりも大切にしていたのに。
「誰にでも優しすぎるのよ」
彼女から言われた理由だ。優しくて何が悪いのか。貴方のやさしいところが好きって言ってたじゃないか。本当は他に理由があるんじゃないか?嫌なとこ、ダメなとこがあるなら直すからって泣きついて。情けないよな。
友人づてに聞いた話だが、別れてすぐに別の男と楽しそうに歩いてたとかなんとか。他に好きな男ができたならそう言えば、、、すんなり諦めれないと思うけど、あんな惨めに泣きすがったりしなかったのに。いや、それでも泣きすがっただろうな。7年は永いよ。
二十歳の時に居酒屋のバイトで知り合い、大学卒業のタイミングで告白。見事に振られるも翌日に、実は付き合うとか初めてでどうしていいか分からなくなって振ってしまった。と大逆転劇。彼女も俺に気が合ったけど告白なんてどうしたらいいか分からなくて困っていたというではないか。卒業してバイトも辞めてお別れしちゃうどうしようって時に、急な告白で気が動転して振ってしまったと後々聞いた時は思わず笑ってしまった。
確かに楽しい思い出ばかりではなかったよ。不器用な俺はサプライズなんてできなかったし、仕事が忙しくて連絡が取れない時なんかしょっちゅうあった。
それでも、年に1度は旅行にもいったし世間一般でいうところのイベントの日はどんなに忙しくても時間を作った。
今日だって。今日だって、せっかく掴んだ宇宙旅行のチャンスを二人で楽しむつもりが、傷心旅行になるなんて。隣にはキャンセルで空いた席に知らないおじさんが座っている。離陸してスグはこんなの耐えれないと傷心も忘れるほどの加圧に意識が飛びかけたが、無事宇宙へ出ると生きているという事に感動し、青々と輝く地球など眼中になかった。落ち着いた頃には隣の知らないおじさんと握手し、酒を酌み交わしていた。
宇宙旅行なんてまだまだ普及しているわけではないが、月は建設ラッシュだ。宿泊施設にアクティビティ年々開発が進んでいる。
月に到着すると、浮遊感こそあるが航路よりは感じる重力に安心感を覚えた。地球から見る月はあんなに遠いのに、月から見る地球はさほど遠いように感じないのは単純に天体としての大きさが違うからなのか、一度の天体からの離脱経験がそう思わせるのか。地球に帰ってから見る月は前よりも近く感じるのだろうか。
二人の気持ちとは正反対だ。あんなに近かくて強い引力がはたらいているかのように惹かれあったのに、今となっては遠いだけでなく見つけだすことも困難な程に気持ちが離れてしまって。俺の引力だけでは届かない。
宇宙船から降りると地球で聞いた月でのルールを再度聞かされた。
1.必ず案内用のアンドロイドと行動して下さい。月では開発が進んだとはいえ地球とは大きく環境が違うので、危険を察知した時の警報、危険にあった時の救難信号等瞬時に対応してくれるアンドロイドが月での安全を担保してくれます。
2.AM9:00~PM11:00以外の時間は外出を避けるだけでなく就寝に充てて下さい。年々月への観光客が増えているのとは裏腹にインフラが追い付いていない為、酸素不足が深刻な問題となっております。酸素生産/その他設備点検・整備を行っております。活動時間の完全な安全も保障できない状況にありますので、活動時間外の自粛をご理解いただきますようお願いしたします。
3.月は基本治外法権化にあります。各国開発エリアにより法律もその国家に準ずるとされておりますが、そもそも月自体の所有権がどの国家にないことから、トラブルは自己責任とお考え下さい。※このことから開発エリア間の行き来はパスポートなどは必要ありませんが、エリアごとにルールが変わりますので、自分が今どの国家下の開発エリアにいるのかは必ず確認下さい。
4.・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
まぁ、まだまだ未開の地だから自分で責任取れよという事だ。月での支払いについても基本は開発国の管理エリア毎に違うが、ステイブルコインで電子決済が普及してきているので、端末で決済ができる。そういえばこのスマホカバー。彼女がプレゼントしてくれたものだ。キャラもののカバーを使っていたら、そのカバーもいいけど、これあなたに似合いそうだと思って買ったから使ってくれたら嬉しいな。って優しい言い回しでくれたカバー。30超えてキャラものって思われてたのか、、もっと大人になれって事だったのかな。
一通りの説明が終わると、アンドロイドの引き渡しとなったのだが。なぜか日本人には、女性型のアンドロイドが目立つ。嫌というわけではないが何か日本人の印象というか。まぁ、地球で使われている生身の人間に近いものでなく、形状が女性の様で、音声も女性であるというだけなのだが、選択権はなく引き当てられた。
「はじめまして。HS-76型。エリスといいます。藤堂様のエスコートをさせていただきます。まずは、ホテルへ荷物を置きに行きますか?長旅でしたしお食事でもされますか?」
中に人が入ってるんじゃないかというくらい近年の音声生成技術は進歩していると感じた。
「に、荷物を先に置きたいのでホテルへの案内をお願い致します。プリンスホテルを予約しております。」
周りはフランクな口調や上からの口調でアンドロイドとコミュニケーションを取っているが、ついつい自分まで丁寧な話口調になってしまう。生身の人間でもない女性型をしているというだけだというのに、ましてや彼女には振られた側だというのに、女性を模したアンドロイドとコミュニケーションをとることに、罪悪感というか、尻の軽い男と思われたくないというか。変に意識してしまう。変えてもらえないのだろうか。
通信システムで、各アンドロイド同士は勿論各種システムと連動しているようで、タクシーの手配は自動で行われており待つことなく乗車できた。
これから、月での一週間が始まる。
Over the Moon 金曜日 @kinyoubi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。Over the Moonの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます