第99話 勧誘
「私のモノ……とは、このギルドに入れということでしょうか?」
「そうよ。私を王として支えなさい」
突然の勧誘。ただ驚きはあまりなかった。
実際にオブラやオリビアたちからも誘われていたからだ。もしかしたら、とは考えていた。
「すみませんが、そのお気持ちには応えられませんね」
「どうしてかしら? 私では不満?」
「あなたが不満というよりは、ギルド自体に興味はありませんので」
「……あなたは将来冒険者になるのよね? ならギルドに所属するのは当たり前のことよ?」
「たった一人……フリーで活動している冒険者も中にはいるはずです」
「ええ、確かに存在するわ。けれどデメリットも多いし、普通はギルドに所属して仕事をこなすのが効率は良いはずよ」
「そもそも俺は冒険者として大成したいとは思っていませんから」
「……どういうことかしら?」
少し剣呑な雰囲気を醸し出すソーカ。
「俺には叶えたい夢があります。その夢のためには、冒険者の資格が必要、ただそれだけですから」
「その夢の内容を聞かせてもらってもいいかしら?」
無論妖精さんについては教えることはできない。どうせ一笑にふされるだけだから。
「……世界制覇です」
俺の言葉にさらに鋭さを増すソーカ。今度はどこか敵意のようなものも含まれている。ただそれはソーカだけでなく、オリビアからも感じ取られた。
「世界制覇……あなたはこの世界を支配するつもり?」
「言葉が足りませんでしたね。俺は支配ではなく攻略したいんですよ」
「攻略……ですって?」
「世界のありとあらゆる場所に行って、いろんなものを見て、触れて、感じたい。知らなかったことを知り、たくさんの経験を培っていきたい」
「なるほど。世界を知り尽くす。だから世界制覇なのね」
俺が「はい」と答えると、ピリついていた雰囲気が一気に緩和した。
「安心したわ。もしあなたが世界征服を企んでいるのならば、私も黙っていられなかったところだからね。でも世界を攻略……か。ふふふ、面白いことを言うのね、あなたは。益々気に入ったわ」
あれ? てっきり諦めてくれると思ったのに、逆に興味を持たれてしまった。
「けれどそれはギルドに所属していても可能なはずよ」
「組織の中に在れば、必ず煩わしいしがらみが付き纏います。そのせいで自由が奪われることだってある。そもそもあなたの命令は絶対なのでしょう?」
「当然ね」
「ではそう簡単に頭を縦に振ることはできませんね。俺は誰かの下につくのはゴメンですから」
「あーアオスくん、命令とはいっても、ソーカ様は最大限に私たちの意思を尊重してくださる。それに仲間がいた方が、より君の夢も叶いやすくなると思うぞ? 何せ『無限の才覚』には実績がある。その名があるだけで有利に事だって進められる」
確かにオリビアの言うことには一理ある。
冒険者になったからといって、それで世界を網羅できるわけじゃない。
実績も何もない冒険者に立ち入りを禁止する場所だってあるだろう。しかし名のあるギルドのメンバーだと知れば、その制限が緩和されることだってある。オリビアはそう言っているのだろう。
「別に急ぐ夢じゃありません。ゆっくり人生をかけて制覇していくつもりなので」
「む……しかしそれでも……」
「いいわ、オリビア」
「で、ですがソーカ様……」
「あなたが私のために説得しようとしてくれていることは十二分に伝わっているわ、ありがとう。ただ……この子の意志も固そうだしね」
ジッと見つめてくるオリビア。そんな彼女の目を、逸らすことなく俺は見据える。
するとそこへ――。
「う~ん、それじゃあさー、仮所属ってことにすればいいんじゃないかなー」
今まで黙って和菓子を頬張っていたサンテが口を開いた。
「ね、姉さん、いきなり何を……?」
「んーだってぇ、仮所属なら必ずしもギルマスの命令を聞かなくてもいいでしょー?」
「それは……まあ違反には当たらないな」
俺は気になったので、その仮所属というものについて聞いてみた。
「仮所属というのは、文字通りギルドに一定期間試しに所属することだ。そうすることで自分に合ったギルドを探すための手法だな」
オリビアが丁寧に説明してくれる。
この制度は冒険者、あるいは冒険者候補ならばいつでも申請することができる。
そして申請が通れば、そのギルドに仮所属扱いとなって活動することが可能なのだ。
とはいっても仮所属なので、重要な会議やクエストには参加できない場合が多い。あくまでも体験入学のような感じである。
そうして幾つものギルドに仮所属して、自分に合うギルドを探し、今後の目標にするというわけだ。
「アオちゃんだってー、まだあたしたちのこと知らないでしょー? だったらまずは所属してもらっていろいろ知ってもらおうよー。そうすればアオちゃんの考えだって変わるかもしれないよー」
「……なるほど。確かにあなたの言う通りね、サンテ。そういうことだけれど、アオス。あなたはどうかしら?」
「……試しに『無限の才覚』に入ってみろってことですか?」
「ええ、もちろん強制はしないわ。それにこれはこちらからの推薦でもあるし、申請を出す必要もない。また肌に合わないのであれば、いつでも抜けることだってできる。どう? リスクは無いと思うけれど?」
とはいっても、俺が心変わりするとは思えない。
一人の方が楽というのは変わっていないし、将来もギルドに所属するつもりはない。ただ先にオリビアが言ったように、実績が力になることだってある。
仮所属といえど、『無限の才覚』に推薦されて所属した経験があるってのは、今後利用できるかもしれないな。
所属すればおいそれと抜けることはできないが、仮所属なら問題ない。簡単にいえばアルバイトみたいなものだ。嫌なら辞めればいいだけ。
「どうだろうか、アオスくん。一度私たちと活動してみてから決めてみてはどうだ?」
「そうそう、ウチは楽しいよー。おいでおいでー」
姉妹揃って歓迎ムードのようだ。
「…………分かりました。仮所属で良いのであれば」
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