第70話 次なる戦い

 さすがに人数が増えたことで、ゴーレムも対応が追い付かない様子だ。


 シン助たちの攻撃を捌き切れずに、どんどん体力が削られていっている。文字通り岩でできた身体も削られている。


 特に攻撃が集中している右足は、彼らの一撃一撃で徐々に脆くなっていき、再びその時がやってきた。


 ――バキィィィッ!


 ゴーレムの右足が砕け、またもや膝をついて頭が下がった状態へとなってしまう。


「よっしゃあ! 今度こそはトドメを刺してやるぜ!」

「いいや、そいつは俺たちがもらう!」


 シン助の言葉を追って発言したのは、カイラのチームメイトであるジャヴだ。巨大な斧を両手でしっかり持ちながら、ゴーレムに向かって駆け出す。その隣には負けじとシン助が並走している。


「「うおらぁぁぁぁぁぁっ!」」


 二人がほぼ同時に、ゴーレムの頭目掛けて武器を振るう。


 物凄い衝撃を受けたゴーレムは、その頭部を半壊させながら、そのまま前のめりに倒れる。しかしまだ息はあるようで、必死に立ち上がろうともがく。


 ただもう身体をバラバラにさせて攻撃してくるような力は残っていないようだ。あとは文字通りトドメを刺すだけ。


「シン助、トトリ! 最後の仕上げだ! 一気に頭部を砕け!」


 俺の言葉に二人が返事をして弾かれたように動き出す。


「こうなったらボス討伐はこちらが頂く! ジャヴ、先に仕掛けるんだ!」


 カイラも負けじと指示を出し、ジャヴがゴーレムに向かって駆け出していく。


「――《翠月流・二日月の太刀》!」


 いつかゴブリンを討伐したシン助の技が炸裂する。それに追いすがるように、トトリの勢いのついた鞭が飛ぶ。


「何の! ――《大破断》!」


 跳躍し、落下の勢いを利用した直線的な攻撃をジャヴもまた放つ。 


 三つの攻撃が身動きの取れないゴーレムの頭部に命中し、ガラスを砕くかのように、見るも無残な形で頭部は粉砕した。


 すると先程もがいていたゴーレムだったが、完全に停止してしまい、俺たちの勝利が確定したのである。


「「うっしゃあぁぁぁぁぁっ!」」


 ダンジョンボスを討伐したことで、シン助とジャヴが同時に叫ぶ。その表情は嬉々としたものになっている。

 声こそ出していないが、トトリもどこか嬉しそうに頬を緩めていて、


「や、やりましたよ、アオスさん!」


 傍にいる九々夜が俺の手を取ってブンブン振ってくる。


「あ、ああ……みんなよく頑張ったよ」


 俺もつい労いの言葉が口から出た時、ゴーレムの身体が淡く発光し始めたのである。

 その光が段々と収縮していき、それが別の形へと変貌と遂げた。


 それはまさしく器型の優勝カップの形をしていて、眩しいばかりの黄金の輝きを放っていた。


 恐らくはそれが攻略の証。つまりはコレをもって地上に戻ることで勝利チームが決まる。


 だが――。


「ひゃわっ!?」


 俺は喜んでいた九々夜を横抱きに抱えて、その場から横っ飛びをして距離を取った。

 九々夜はいきなりの俺の行動に声を上げていたが、当然意味の無い行動ではない。


 すると俺たちがいた場所に、火球が衝突しその場を焦がした。

 無事に着地した俺は、その火球を放ってきた張本人を睨みつける。


「……ジェーダン」


 そう、カイラだった。明らかに俺たちを……いや、俺に向けた攻撃である。


「アオスッ! おいこらお前、いきなり何しやがる!」


 シン助が今の一連の光景を見てカイラに牙を向ける。

 カイラは不敵な笑みを浮かべたまま、静かに口を開く。


「何しやがる? そっちこそ何を勘違いしているのか知らないけれど、これは勝負なんだよ?」

「……!」

「一時的に協同することはなったけれど、あくまでも僕たちは敵同士。それ理解してる?」

「うぐぐぐぐぐ……!」


 反論できないのか、シン助が悔しそうに唸っている。


「その通りだぞ、シン助」

「っ……アオス」

「ここからが本番だ。……やれるな?」

「! おうよ! 次はコイツらを倒せばいいんだよな!」


 俺は九々夜を下ろすと、トトリにも視線を向ける。

 トトリもまた「問題ないわ」と頼もしい言葉を返してくれた。


 そしてそれぞれのチームが集い、殺伐とした空気の中で対面する。


 皆の意識が優勝カップに向けられていることは分かっていた。アレを手に入れて、地上まで戻るまでが勝負なのだ。


「おいカイラ、こっからは作戦通りで行くんだろ? アイツらは俺らが引きつけるからよ!」


 ジャヴの言葉に、カイラが「……頼んでもいいかい?」と尋ねると、ジャヴだけじゃなく、他のメンバーも頷く。

 そしてカイラは優勝カップを手にするべく走り出した。


「行かせるかよっ!」


 シン助がカイラを妨害しようと一歩を踏み出したが、突如足元に魔法陣が浮かび上がる。


「な、何だこれぇっ!?」


 魔法陣から鎖が伸びてきて、シン助の身体を拘束してしまった。


 ……トラップ!? なるほど、階段とかに仕掛けたのはアイツだったのか。


 ゴーレム戦でも、戦闘には極力参加せずに、ずっとカイラの傍に控えていた。回復、あるいは支援専門かと思っていたが、あの時にここら一帯にトラップを仕掛けていたのだろう。


 恐らくはカイラの指示だ。ゴーレムを倒した後のことを考えて。


「うぐぬぬぬぬっ、こぉんもぉぉぉんっ!」


 力任せに鎖を切ろうするシン助だが、その隙にカイラは優勝カップを手にしてしまった。


「ククク、あとは持ち帰るだけ。アオス、この勝負は僕の勝ちだよ!」




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