第69話 強かなアオス
俺以外は、全員その声を聞いて驚いていた。
何せボロボロに破壊された扉の向こう側には、カイラたちの姿があったからだ。
「くっ……みんな無事か!?」
カイラがいち早く立ち上がって、仲間たちに声をかける。仲間たちも、大したダメージを負っていないようで、返事をしながら瓦礫の中から姿を見せた。
……残念。今ので全滅してくれれば楽だったんだがな。
仲間の無事を確認したカイラが、ギロリと俺を睨みつけてくる。
「今の……わざとだな?」
「さあ、そんなところに息を潜んで隠れて様子を見ていたなんて知らなかったぞ」
俺の白々しいまでの言葉に、悔しそうに歯噛みするカイラ。
当然俺は気づいていた。
カイラの作戦では、俺たちが必死こいてボスを倒したあと、そこに現れた宝を奪って即座に逃げるつもりだったはず。
もしくはそのまま消耗し切った俺たちを倒すことまで視野に入れていたかもしれない。
だからカイラたちは、扉の向こう側でボスが倒されるのをジッと待っていたのだ。
しかしカイラの作戦なんて最初から筒抜けだったし、あまりにも軽率な行為だったために、せっかくだからボスの攻撃を利用して、彼らに痛い目を見せてやろうと考えた。
わざわざ扉の近くで待機せずに、地下四階に留まるか、あるいは階段のところで待ち伏せしていれば良かったのである。
そうすればボスの攻撃は彼らには届かないのでダメージを負うこともなかった。
だがカイラは恐らく、ボスを倒したあと、俺たちに回復の余地を与えないように、すぐに突入するために、できる限り近くまで来て様子を見ることにしたのだろう。
それが逆に仇となったわけである。
悪いがカイラ、お前の思い通りにはならないんだよ。
「アオス……いや、フェアリード、本当にお前は僕を苛立たせてくれるよ」
「それはこっちのセリフだ。回りくどいやり方ばかり取ってないで、真正面から来たらどうだジェーダン?」
またもや俺たちの間で火花が散る。
だがそうしている間にも、バラバラになったゴーレムが元に戻っていく。
俺はそれを見てフッと口角を上げる。
「これでお前たちもゴーレムのターゲットになった。尻尾巻いて逃げるか、ジェーダン?」
「っ……上等だよ。格の違いというものを教えてやる。みんな、戦闘開始だ! 行けるな!」
カイラの言葉に、彼の仲間たちも大丈夫だと返答をする。
「シン助、トトリ! こちらも攻撃に移行だ! 先と同様にまずは相手の動きを奪ってやれ! 俺も援護する!」
矢筒から矢を構えると、ゴーレムの右足に突き刺さる。
そこへシン助たちだけじゃなく、カイラたちもまた攻撃に加わっていく。
※
「おお、おお、おお! 何か盛り上がってきたじゃない!」
観客席でモニターを見ながら興奮しているのはアトレアだ。それに彼女だけではなく、観客たちも突然の状況変化に湧き立っている。
何せ一度は遭遇しながらも衝突することがなかった二組が、ボス部屋で一緒になってボスを倒そうとしているのだ。盛り上がらないはずがない。
「にしてもアオスの野郎、さっきのミニゴーレムを弾き飛ばした時の技は何だ? 分かるか、アイヴ?」
バリッサは、今の状況よりも、少し前にアオスが繰り出した導術に興味が惹かれているようだ。
「さあ……正直なところは分からないわねぇ」
「お前でもか?」
「アイズの観察力でも分からないなんて、アオスくん……一体何したんだろ?」
バリッサもアトレアも、アイヴの観察には一目置いている様子だ。ただそんな彼が分からないと評したことが意外だったようで目を丸くしている。
「アオスくんが攻撃する時、魔力の輝きが見い出せない。つまり彼は『武闘士』である以上に、もしかしたら『魔力無者』である可能性が高いわね」
「そ、そんなわけないでしょ! 幾らなんでも『魔力無者』が特待生なんて前代未聞じゃない! いいえ、それ以上にこの学校に通えたことがおかしいし!」
アトレアの言う通り、魔力を一切持たない『魔力無者』が特待生になった事実はこれまでにないのだ。
「じゃあやっぱアオスが持ってやがるあの武器の仕業か?」
「その可能性は高いわねぇ。というより、そうじゃなかったら説明がつかないもの。恐らくあの弓は、風や大気を圧縮させて放つ力を持ってるんじゃないかしら?」
「んん? どういうことよ、アイヴ?」
アトレアの問いに、アイヴは顎に手をやりながら、モニターに映るアオスを凝視しつつ答える。
「アオスくんが弦から手を離した直後、ミニゴーレムたちが次々と吹き飛んだ。しかしミニゴーレムたちの身体が直接破壊された様子は見当たらなかったわ。つまり実体がないものを放ったということになる」
「なるほどな。実体あるもんなら、当たれば傷ついたりするもんな普通は」
「そういうことよ。だから恐らく風や大気。目に見えないそれらを圧縮して撃ち出したと考えれば辻褄が合うわ。ただ……相当な威力なのは確かね。人間ならあれでも骨が折れたり脳震盪を起こすくらいはしそうよ」
「まあ、あんだけ吹き飛ぶ威力だもんね。けど見えない攻撃って……凄過ぎじゃない、あの弓? あんなマジックアイテム見たことも聞いたこともないんだけど」
「風や大気を操るマジックアイテムは存在するわよ。けれど、自然を操作するアイテムは扱いが非常に難しいし、使うためにも魔力は必要となる。それなのにアレは魔力を必要としない武器であり、なおかつあれほどの威力を備えている。……驚異的よ」
アイヴは険しい表情を浮かべながら、いまだなおモニター越しにアオスを注視している。
「けど何でアオスくんてば、〝代表戦〟の時にあの弓使わなかったんだろ? 持ってはいたのに」
「フン、そいつはただ単に使う必要もない相手だったから、だろ?」
「あー……確かにカイラくん、完全に油断してたもんね。アオスくんを舐め切ってたし」
だからこそたった一撃で終わってしまったのだ。
「でもあの弓がなくても、アオスくんってとんでもなく強いよね。それに仲間の扱い方も上手いし」
「ああ。それにジェーダンたちが隠れていたことに気づいてたしな。まあ、ゴーレムの攻撃を利用して引っ張り出した時は度肝を抜かれたが」
「ハハ、だよねだよね! アオスくんって意外にもドSだよね!」
「はぁ……いいわぁ。本当に彼はいい。……ゾクゾクしてきちゃう」
今度は恍惚そうな笑顔を浮かべてアオスを見つめるアイヴ。
「うわぁ、もう完全にアイヴはアオスくんを食べるつもりみたいよ。どうすんのよ、バリッサ?」
「知るかよ。それにコイツの気持ちも分かる。アオスか……一度タイマン張りてえぜ」
「げっ……そういやコイツもバトル馬鹿だったわ。けどこれで舞台は整ったって感じよね。どっちが宝を手にして戻ってくるのかすっごく楽しみ!」
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