第67話 ダンジョンボス戦
扉の奥にある空間はだだっ広く、床も壁も天井も固い岩盤のようなもので構成されていた。
そしてその中央には、まるで今まで挑戦者を待っていたかのような仁王立ちで、一体のモンスターが佇んでいる。
「……! アレってもしかして……ゴーレム?」
トトリが目を見張りながら口にした。
ゴーレムというのは、全身が鉱物で形作られたモンスターだ。しかもゴーレムは自然に生まれるモンスターではなく、人工的に生み出された存在なのである。
魔法と科学を融合させた産物であり、今もゴーレム研究は多くの研究者によって追究されているのだ。
学校側が用意したボスとしては、確かに手頃だし強さも調整することができるから、ゴーレムほどの適用者はいないだろう。
「けど……デケえなぁ」
シン助の言う通り、ゴーレムのその体長は遠目で見る限り十メートルくらいはありそうだ。
大樹のようなその腕で繰り出される拳は、岩でできた壁や床なんて簡単に砕くことができるだろう。
これは下手に攻撃を防御しない方が良いな。
「シン助、トトリ、お前らでゴーレムを引きつけてくれ。しかし攻撃をまともに防御するな。受け流すのもあまり得策じゃない。できるだけ回避するように」
「だな。頑丈そうだし、受け流しに失敗しちまったら、俺の刀も折れちまうかもしれねえし」
「アタシは元々回避特化で行動しようと思ってたから問題ないわよ」
「そうか。……いまだゴーレムが動き出さないところを見ると、一定距離に近づいて戦闘開始になるようだ。本当なら無視して宝をゲットといきたいところだが……見る限りじゃ、どこにも宝はない。つまりゴーレムを討伐して初めて宝が現れるパターンなのだろう。……九々夜」
「はい、すでに《魔狸紅》を召喚する準備は整っています!」
どうやら全員覚悟はすでに決まっているようだ。
「じゃあ戦闘開始だ。シン助、トトリ、頼むぞ!」
「「おう(うん)!」」
二人が武器を手にしながら、まずは先制攻撃でもと思ってかゴーレム目掛けて駆け出す。
そしてゴーレムから十メートルの距離に二人が入った瞬間、それまで動きを見せなかったゴーレムの目に鈍い輝きが光る。
「グオォォォォォォッ!」
まるで暴風が鳴らす音のような咆哮を上げながら、ゴーレムはその剛腕をハンマーのように地面に叩きつけた。
その衝撃は爆風を生み、接近していたシン助たちの足を止めてしまう。
「ちっ、やっぱボスだな。そう簡単には近づけなかったぜ! じゃあこっからはガチンコだ!」
「シン助、アオスの言ったこと忘れないでね!」
「おうよ! まずはアオスの分析が終わるまで時間稼ぎすりゃいいんだろ! さあ来い、デカブツ!」
シン助の挑発に応じたように、ゴーレムがその巨体を動かしてシン助に詰め寄っていく。そしてド迫力に大きく開いた手をシン助へと伸ばす。どうやら彼を掴むつもりのようだ。
だがシン助は、持ち前の高速移動を発揮させ、その場から素早く移動する。
ゴーレムの攻撃力、防御力はずば抜けて高いが、やはり素早さはイマイチのようだ。シン助の動きにまったくついていけていない。
だがゴーレムは決して慌てる様子は見せずに、シン助たちが逃げようがお構いなしに拳や足を地面に叩きつけてくる。
確かに直接攻撃を受けているわけではないが、攻撃の際に起きる風圧で吹き飛ばされようになったり、破壊された衝撃で床の破片などが飛ばされてくるので気が抜けないのだ。
そんな戦闘を遠距離で見守りながら、俺は周囲の様子とともにゴーレムを観察していた。
今のところ、周囲には別段変わった様子はない。
ゴーレムに関しても、今のままらな十分シン助たちが対応できるので問題ない。攻撃こそまともに受けなければ、シン助たちの素早さなら、少しずつ相手の体力を削り取っていくことなど簡単だろう。
だがこれでもダンジョンボスとして設定されている。何かしら隠し玉はあるだろうが、まだそれを見せるつもりはないようだ。
なら今のうちに体力を削っておいた方が無難だろう。
「シン助っ、トトリッ、攻撃を許可する! ただし右足だけに集中させること!」
俺の指示に、二人は返事をする。
「うおっしゃあ! やっと許しが出たぜ! 右足だな! おっらぁぁぁぁっ!」
ゴーレムの足元に素早く入ったシン助が、右足に向けて力任せに刀を振るう。
――ザクッ!
「ぐっ……か、かてえっ!?」
刀は多少めり込んだが切断までにはいかなかった。
「どいてシン助!」
背後から届くトトリの言葉を聞き、すぐにその場から飛び退くシン助。
するとトトリが放った鞭が、凄まじい遠心力をつけながらゴーレムの右足を叩く。
――バキッ!
「うわっ、頑丈過ぎでしょ!」
直撃したものの、ひび割れたくらいで、まだまだ右足は絶好調に動き回れるようだ。
……やはり一撃二撃じゃ粉砕まではいかないか。
「二人とも、それでいい! 何度も攻撃して砕いてやれ!」
そうすればいずれは傷も広がっていき潰れてしまう。塵も積もれば山となる作戦である。
まあ、俺一人で片づけることもできるが、それじゃチームとして攻略する意味がないからな。
俺の導術なら、ゴーレムくらい軽く粉砕することはできる。ただそれは俺だけの力であって、それは〝攻略戦〟で教師たちが確認したいモノではない。
すでに俺の個人としての能力は〝代表戦〟で見せつけている。なら、ここはチームとしての実力を見せつつ、さらに俺の指揮官としての能力を確かめてもらうだけだ。
そして何度も何度も、ゴーレムの攻撃を回避しては右足に攻撃をするという戦法をし続け、そして――。
「これでどうだぁぁぁぁぁっ!」
シン助が目一杯振り切った刀の威力に負け、とうとうゴーレムの右足が砕けてしまった。
当然支えの一本を失ったゴーレムは膝をついて身動きを失う。
ゴーレムには頭部のどこかに核があるという話は聞いたことがあった。今なら頭も下がっているし、攻撃だって容易に届くことだろう。
「よし、今のうちに頭部に攻撃を集中させ――っ!?」
だがその時だ。ゴーレムの周辺の地面から、次々と小さなゴーレムが浮き出てきたのである。
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