第57話 一掃
妖精さんのお蔭で、トトリが監禁されている場所を発見することができた。
そこは街の外れにある娼館などの風俗店が軒を連ねるエリアで、その一画の木造住宅が目的地だ。
住宅の入口には二人の男が立っていて、いかにも中に大切なものがあるって言っているようなものだった。
恐らく外だけじゃなく、中にも数人の暗殺者が待機していることだろう。残念ながら窓は目隠しされていて中を確認することができない。
まずは外にいる連中を倒して……と思っていたその時、妖精さんからトトリが男に襲われそうになっているという話を聞かされる。
これはのんびりと外から攻略している場合じゃないと、急いで駆け出し窓に向かって飛びこんだ。
そしてその先にいた男の顔面に蹴りを放って、トトリを間一髪で救うことができた。
服もそう乱れていないので、何とか間に合ったようだ。
しかし当然俺の突入に気づいた暗殺者たちが、室内へとなだれ込んでくる。
「!? お、お前は――アオス・フェアリード!?」
入ってきた男の一人が俺の名を呼んで驚愕の表情を浮かべる。
だがすぐに小刀を構えて臨戦態勢を整えた。
やはり昨日俺を襲った連中で間違いないようだ。
「お前……どうしてここが分かった?」
「俺には強い味方がいるんでな」
「何? 誰のことだ?」
きっと男たちの脳裏には、シン助や九々夜などの、この街で出会った者たちの顔が浮かんでいることだろう。しかし残念。
「――妖精だ」
俺の言葉に「は?」となる面々。ま、言ったところでこうなることは目に見えていた。
「っ……とにかくコイツは殺してもいいって許可が出てる。こうなったら絶対にしくじるなよ!」
昨日は逃げたくせに、と言いたいが、向かってくるなら都合が良い。
「悪いが急ぎの用があってな。すぐに終わらせてもらうぞ」
「我ら『影狼』を舐めるなっ! クソガキが!」
室内は結構広い。奴らが俺の周りを囲んで、やはり死角を狙おうとしてくる。
そして一斉に駆け寄ってきた。
「今日は逃がすつもりはない――《万物操転》」
天井と床に導力を流し込み術を行使する。
すると男たちの頭上と足元の木材が四角い筒状に変化し、そのまま真っ直ぐ伸びて合体したことで、男たちは木造の檻に閉じ込められてしまう。
しかしその中で一人だけが、素晴らしい反射能力で回避した。
「な、何だこれは!? くっ、出られない!」
「くそっ、固い! 壊せないぞ!」
「出せコノヤロウッ!」
木を操作して分厚い檻にしたのだ。早々壊れるものではない。
そしてまだ続きが……ある。
「「「「ぐがぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」」」
檻の中から男たちの断末魔のような声が響き、たった一人残っている男が「一体何をしやがった!?」と叫んでくる。
もちろん奴にご丁寧に説明する気など毛頭ない。
今、檻の中は形態操作させた無数の鋭い針状の物体に全身を貫かれ絶命している男たちがいるはずだ。
穴も開いていないので確認することはできないし、大量の血液だって流れ込んでこない。まるで拷問器具で殺したようなやり方だが、こんな奴らには似合いの末路である。
「残ったのは……お前一人だな?」
「くっ……くそっ!」
すると勝ち目がないと思ったのか、踵を返して扉の方へ走っていくが……。
「と、扉が無いっ!?」
すでに《万物操転》によって、この建物は完全な密室にしてあった。扉も、俺が男を蹴り飛ばして開けた穴や窓も塞いである。
「逃げ場などないぞ……殺し屋?」
「っ!? だ、だったらてめえを殺せばいいだけだぁっ!」
俺に向かって五本もの小刀を全力で投擲してくる。男がニヤリと笑みを浮かべていた。
その理由は簡単だ。俺は今、トトリを背にしている。つまり回避すれば、トトリに小刀が刺さってしまう。だから俺は避けられない。
「――《森羅変令》」
俺が放出している導力の領域内に入った小刀が、一瞬にして枯れ葉へと姿を変えて宙に舞った。
「は……はあああああっ!?」
当然男は、信じられない現象に愕然とする。
俺はそんな男に一足飛びで近づくと、首を掴んで壁に押し付けた。
そしてそのまま苦悶の表情を浮かべる男に導力を流し込む。
「んがぁっ!?」
すると男は大きく目を剥き、そのままガックリと項垂れて身動き一つしなくなった。
手を離すと、男は糸の切れたマリオネットのように床に倒れ込んだ。
男の心臓を圧縮して潰してやったのである。一溜まりもないだろう。
「す、凄い……!」
その光景を見ていたトトリが、瞬き一つせずに俺をジッと見つめている。
「……こ、殺したの?」
「ああ。暗殺者集団だしな。どうせ賞金首だ」
俺はトトリのもとへ向かい、彼女を拘束から解放する。
「怪我はないか?」
「う、うん、大丈夫。で、でもごめん」
「何で謝る?」
「だって……アタシのせいで迷惑かけちゃった」
「いや、これは俺のせいでもあるしな」
「どういうこと?」
「説明はあとだ。もうすぐ〝攻略戦〟が始まる」
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