第51話 手練れの暗殺集団

 俺は建物の屋根を伝って逃げて行く賊を追いかけていく。


「むぅぅ! アオスさんをいきなりこうげきするなんて!」

「フフフ、あのかたにはこのわたしがじっくりとオハナシするとしましょう。フフフフフ」

「よっしゃ! バトルだ! アオス、あんなヤツはワンパンでしとめてやれー!」


 妖精さんたちがいると緊迫感が薄れるが、こういう状況も慣れているので問題ない。


 にしてもこの方向は……。


 賊が逃げて行く方角に何があるのか分かっていた。


 そして――。


「……やはりな」


 そこは建物が解体されて、空き地となっている場所だった。


 それに人気も少ないところなので……。


「囲んで戦闘するにはもってこいってわけか」


 逃げていた賊一人だけじゃなく、周りから数人が現れ俺を囲む。


 一、二、三……全部で六人。


「俺一人に大した数だな。見たところ暗殺者らしいが、もう一度聞く。誰の差し金だ?」


 しかし余計な言葉を口にせずに、静かに全員が武器を構える。


 そして一斉に俺に攻撃してきた。


 一人は鎖分銅を投げて俺の動きを拘束し、残った者たちは頭上を含め、四方から攻め込んでくる。


 へぇ、何も言わず。連携も大したもんだ。


 俺の〝攻略戦チーム〟にも見習ってもらいたい。


「……舐めるなよ」


 俺は全身を導力で漲らせると、俺の身体に巻き付いている鎖を力任せに砕く。


 全員がその様子にギョッとするが、俺はその隙を突いて、残った鎖を引っ張って鎖分銅を持っている人物を強制的に引き寄せる。


「うわっ!?」


 声を上げながら近づいてきた黒装束の頭を掴んで、そのまま地面に叩きつけてやった。さらに導力を流して意識を奪い取る。

 あとでコイツから情報を吐かせるつもりなので殺しはしない。


 すると頭上から攻撃しようとしてきた人物が、クルクルと身体を回転させて方向転換し別の場所へ降りると、ヒュヒュッと口笛を吹いた。

 何かの合図のようで、俺は警戒する。


 五人が同時に懐から取り出した小刀をこちらに向かって投げつけてきた。ただし気になったのは、小刀の柄の先に赤く光る珠があること。


 俺は反射的にその場から大きく飛び退くと、向かってきた小刀が気絶して倒れている人物の全身に突き刺さる。


 俺が避けたせいでそうなったのか知らないが、頭部にも突き刺さったことで、呻き声を一瞬上げたのちに即死した。


 だが事はそれだけで終わるわけではなく、小刀の赤い珠がカチカチカチと点滅し始め、そのリズムが速くなってくる。


 ……まさか!?


 俺はさらにその場から距離を取った直後、小刀が爆発を引き起こしたのである。

 周囲に血肉が飛び散り、こちらにも血の雨が降りかかった。


 かなりの爆発力で、遺体が無惨にも弾け飛んでしまっている。残っているのは血だまりだけだ。


「……逃げたか」


 そこで五人の姿が消えていることに気づく。


 今の爆発に乗じて逃亡を図ったのだろう。あたりに気配はないので、もう襲ってくることはなさそうだ。

 相手はプロ。俺の力量を読み取って、このままでは勝てないと踏んでの撤退であろう。


 しかもその際、自分たちの情報を一切渡さないために、仲間を処理するとは……。


「ずいぶんと冷徹な集団みたいだな」


 頬についた血を拭いながら溜息を吐く。


 生きていたら情報を抜き出すこともできたが、こうまでグチャグチャバラバラにされたらそれも無理だ。


 それにしても撤退を決めてからの動きが速い。余程訓練された者たちであることが分かる。


「俺を狙う理由。妖精さんたちはどう思う?」


 フワフワと俺の周りに寄ってきた妖精さんたちに問う。


「う~ん、アオスさんはだれかにうらまれるようなヒトではありませんよ!」

「……でもかのうせいがあるとしたら、やはりカレ……なのではないでしょうか?」

「ったく! アサシンなどおくりこみおって! どうどうとしょうぶしたらどうだぁ!」


 二番目に言葉を発した妖精さんの意見に俺も賛同する。


 俺に対し、こんな非道な行為をするなんてたった一人しか思い浮かばない。少なくともこの街にいる人物の中で、だ。


「やっぱりカイラ……だろうな。〝代表戦〟の仕返しって考えるのが自然だけど、アイツはプライド高いから、自分の手で俺を殺したいって思うんじゃないかな。……誰かに入れ知恵でもされたか?」


 以前、俺がジェーダン家を出る時も、こうして襲われたものだが、あれは間違いなくカイラか父親のジラスの仕業。仮にカイラだとしても、あの時は別に自分の手で下す理由がなかっただけだ。


 しかし先日の〝代表戦〟で、カイラは俺に敗北し無様な姿を衆目に晒してしまった。故にその評価を覆したいなら、俺を自分の力で潰すという選択肢を取るはず。


 だからこのやり方は、カイラの汚名を返上するという役目は果たせない。これはカイラのやり方じゃない。いや、カイラは関わっているだろうが、誰か第三者の姿がちらつく。


 それとも考え過ぎなのか。あのカイラも頭に血が上って、どんな形でも良いから俺を殺したいって考えたということも有り得る。


「……ふぅ。どちらにしろ、しばらくは警戒を続けないとな」


 とはいっても夜はオルルのところへ向かうので安全といえば安全だが。


 しかしこれがカイラの仕業にしろそうでないにしろ、俺を殺そうとしている者がいることは間違いないということだけは理解しておく必要があると認識した。



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