第50話 明日に向けて
最後のダンジョン実習も問題なく攻略して地上へと戻って来ると、アリア先生から明日の本番についての説明があると四人全員が並ばされた。
「まずはこれまでの実習、お疲れ様でした。最初の内はいろいろ不安でしたが……」
チラリと俺を一瞥したのち、皆の顔を見回しながらアリア先生は続ける。
「……及第点くらいは上げることができるでしょう」
あ、やっぱり及第点だったらしい。まあ本当のチームワークという感じにはほど遠いだろうしな。あくまでも結果的に俺が皆をコントロールして、全員が各々の力を発揮することができただけだ。
本来ならそんなことをせずとも、それぞれが仲間のために行動し、最良の結果を得る。それがチームワークだろうし。
「これならば明日の〝攻略戦〟も無様な姿を観衆に晒すことはないでしょう」
「ハイハーイ、質問しつもーん!」
「何ですか、シン助?」
「明日の〝攻略戦〟って、どんなダンジョンで行うんだ?」
「それは私にも知らされていません」
「えー何で?」
「過去にダンジョンの情報を事前に与えて攻略を有利に進めた教師がいたらしいので。それでは公平な勝負にはなりませんから」
「あ、なるほどな。けど教師なのにズルすんのかよ」
教師だって仕事だしな。それで金を貰うってことは、評価が高ければ給料も比例するだろう。優秀な者たちを育てたという実績は何よりの評価になるはずだし。
「はぁ……明日は目立つんだろうなぁ。面倒だわマジで……」
本当に騒がれるのが嫌なようで、トトリは大きな溜息を吐いている。
「……トトリ」
「!? ご、ごめんなさい! 明日は頑張りますぅっ!」
叱られると思ってか、トトリが先生に名を呼ばれて居住まいを正す。
「……今日の動きは良いものでした」
「……へ?」
「明日もその調子で、皆の力になりなさい」
「えっと…………分かりました」
褒められたことがそんなにも衝撃的だったのか、唖然としたまま信じられないといった面持ちで、トトリがアリア先生を見つめている。
「これまで培ってきたものすべてを出し尽くせば、必ず良い結果を得ることができるでしょう。今日は十分に休息を取って明日に備えるように」
「「「「はい!」」」」
「それと明日は時間厳守です。冒険者というのは信用が第一です。依頼に遅刻をするなどといった行為は許されません。ですから遅刻だけは決してしないように。もしすればその時点で失格となり得ます」
結構シビアな面もあるようだ。まあ冒険者のみならず、仕事に遅刻は厳禁だと思うが。
ただ即失格というのは気を引き締めないといけない。
ここで心配なのは……。
俺、九々夜、トトリ……そしてアリア先生の視線が一人へと向く。
「んあ? 何だよみんなして俺見てよ? 何か顔についてっか?」
本人は分かっていないようなので、ここは俺が釘を刺しておこう。
「シン助、明日は絶対に遅刻はするなよ?」
「ダイジョーブだっての! 俺が今までに遅刻なんて――」
「ダンジョン実習のうちその半分以上、あなたは遅刻していますが?」
アリア先生の鋭い言葉がシン助を射抜く。
そうなのだ。彼は時間にルーズで、寝坊やら鍛錬に夢中になっていたなどの理由で、いろいろな授業に遅刻している。
「あ、あはは……ダ、ダイジョーブダイジョーブ! 俺って本番には強いからよ!」
「……はぁ。だといいのですが。アオス、明日はこちらに来る前に彼の部屋を訪ねてください」
「それしかないでしょうね」
何もせずに失格なんて、さすがに俺も嫌だし、相手が相手なだけに負けたくはない。
〝クラス代表戦〟で相対したカイラは、当然〝攻略戦〟にも出てくる。せっかくだから気持ち良く二連勝といきたいところだ。
それに負けたらまた鬱陶しいくらいに絡んできて嫌みを言ってくるだろうし。
「なぁなぁ九々夜ぁ、俺ってそんなに信用ねえ?」
「うん!」
「満面の笑顔で言った!? ……うぅぅ、見てろよ! 明日はぜってーに遅刻なんかしねえんだからなぁ!」
何だか盛大に危険なフラグを立てているようにしか見えないが、明日はアリア先生の言う通りに彼の部屋に寄っておこう。
「それでは解散です。明日、楽しみにしています」
そう言うと、アリア先生が踵を返して去って行った。
「何だかアリア先生、最初の頃よりちょっと柔らかくなったような……」
九々夜が先生の後ろ姿を見て言う。そしてそのままトトリに、「そう思いませんか?」と尋ねた。
「……どうだろ。じゃあアタシ、さっさと家に帰って寝たいから」
トトリもまたアリア先生の変化に気づいた様子ではあるが、それ以上何も言わずに去って行く。
「んじゃ俺は九々夜を寮に送ってくからよ!」
「アオスさん、明日は頑張りましょうね!」
九々夜たちもその場から離れて行く。
そして俺も真っ直ぐ寮へ戻るために歩いていると、不意に殺気を感じて一歩後ろへ飛び退いた。
――ザクッ!
すると目の前に小刀が突き刺さったのである。
すぐに小刀が飛んできた方角に視線を向けると、傍にある木の上に黒装束で身を隠した人物が立っていた。
「……何だアイツは?」
するとまた小刀を俺に向かって投げつけてきたので、それを指二本で挟み込んで取る。
刃を見ると、ベットリと何か薬品のようなものがつけられていた。
……毒か?
こんなものを使うのは暗殺者くらいだろう。
「どうやら俺に用があるみたいだが、誰の差し金だ?」
俺の問いに答えず、黒装束は木の上を飛んで学校の敷地内から出て行く。
「――逃がすか」
俺は奴を追って駆け出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます