第35話 攻略完了

「おおー! 宝箱はっけーん! アオス、さっそく取りに行こうぜ!」

「待てシン助! モンスターの気配がする!」


 そう口にした時はすでに遅く、素早いシン助は宝箱の近くまで走っていた。


 すると天井を崩しながら、巨大な〝ナニカ〟が降り立つ。


 そこでようやくシン助もマズイと悟ったのか、全力でブレーキをかけその場に留まる。


 宝箱を守るように現れたのは――。


「――ゴブリンジェネラル」


 弱小モンスターであるゴブリンの上位種だ。その体躯はゴブリンよりも五倍ほど大きく、鎧を纏い人間の首を簡単に刈れるほど巨大なサーベルを手にしている。


 恐らく宝箱を守る番人といったところだろう。


 ゴブリンジェネラルが、目前のシン助に向かってサーベルを振るう。

 体勢が崩れてしまっているシン助は防御態勢が取れない。


 だがそこへ――。


「ああもう、しょうがないわね!」


 するとシン助に向かって振り下ろされようとしていたサーベルに、細いものが絡みついて動きを止めた。その状況を生み出したのは、トトリである。


 彼女はいつの間にか手にしていた鞭を放っていたのだ。

 なるほど。確かにあれなら近・中距離の対処が可能だな。


 これまでシン助のせいで、彼女が戦う機会などなかったので初めて見る。


「シン助のお蔭で楽できたからね! その分を返すわ――《ランボルト》!」


 トトリの持つ右手に魔法陣が浮かび上がると、そこからバチバチバチと放電現象が起き、鞭を鞭を伝ってゴブリンジェネラルへと電流が走る。


「グガガガガガガァッ!?」


 感電したゴブリンジェネラルが、苦しそうな声を上げて身体を硬直させる。

 その隙に、体勢を立て直したシン助が、すぐさま刀を抜いてゴブリンジェネラルへと迫っていく。


「――《翠月流・二日月ふつかづきの太刀》!」


 そのままゴブリンジェネラルに向かって、真っ直ぐ縦に一閃される刀。

 煌めく銀の閃きがゴブリンジェネラルの頭上に迫っていた直後、奴は咄嗟に身体を右側へとズラした。


 ――ズシュゥゥッ!


 ゴブリンジェネラルの左腕が、シン助の一撃によって切断され宙を舞う。


 攻撃こそかわすことができなかったものの、感電していたにもかかわらず回避行動が取れるとは、さすがはダンジョンボスといったところ。


「グガラァァァァァァッ!」


 武器を拘束され、左腕も飛ばされたゴブリンジェネラルだったが、最後の悪足掻きと言わんばかりに、大きな口を開けてシン助を頭から喰おうとしてきた。


「あ、危ないっ、お兄ちゃんっ!」


 九々夜が兄の身を案じて叫ぶ。シン助もすぐに刀を戻して防御態勢をしようとする。


 ――パァァンッ!


 だがその時、ゴブリンジェネラルの頭部が――一瞬にして弾け飛んだ。

 誰もが呆気に取られたが、それを成した人物――俺に注目する。


 まあ、別に俺が矢を放たなくとも、シン助なら対処できていたとは思うが、ここに来て何もしないのも何だから手を出した。


 何せ後ろでアリア先生が、「あなたも実力を見せなさい」的な感じで俺を睨んでいるから。

 ゴブリンジェネラルはそのまま仰向けに倒れた。


「ああもうアオス! 何でトドメ刺しちまうんだよ! せっかく俺が倒そうって思ったのに!」

「悪いな。つい手が出た」

「ちぇ……けど次は俺にやらせてくれよな!」


 そんなにトドメを刺したいのか……。別にパーティとして動いているのだから、誰が倒しても良いと思うのだが。


「すみません、お兄ちゃんってば我儘で」

「別に気にしてない。それよりもさっさと宝箱を取るぞ」


 トトリは「ふぅ、ようやく帰れる」とホッとしている様子。


 シン助が不貞腐れながらも宝箱に手を掛ける。罠があるかもしれないというのに不用心な奴だ。思わず溜息が出てしまう。

 ただ宝箱には罠などなく、そこには一本の鍵が入っていた。


「鍵ぃ? 何だこりゃ? これがお宝なのか? なあ先生?」

「はい。間違いありません。それがこのダンジョンにおける攻略報酬です。その鍵は、次のダンジョンに入るために必要なものなのです」

「おおー! つまりこれがあればまたダンジョン攻略に行けるってわけだな! よっしゃ、今から行こうぜ!」

「いいえ。それはまた明日です」

「ええー、何でだよぉ!」


 子供のように不満の声を漏らすシン助。


「今日の課題はここまでですから。時刻も夕方を超えていますので、さっさと戻りますよ。各々、最後まで気を抜かないように」


 そうだ。攻略したといっても、これから戻らないと行けないのだ。気を抜けば、またモンスターに襲われ怪我を負う可能性だってある。


 そうして俺たちは、無事外へと帰還し、見事初のダンジョン攻略を成功させたのだった。







 寮に帰ってきた俺は、ベッドの上に寝そべり放課後のダンジョン実習について振り返っていた。

 結果だけを見れば文句なしの攻略だろう。


 しかし外に出た時に、アリア先生からは、


「個人の能力としては、全員光るものを持っていることが分かりました。しかしダンジョン攻略を行う冒険者としては最低レベルでしたね。ギリギリ良かったのは最後の連携だけです」


 それだけを言うと、あとは自分たちで考えなさいとでも言うように去って行った。





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