第34話 攻略に向けて

「さて、明かりを手に入れたところで、次は隊列の確認ですね」

「もっちろん俺が前に立つぜ! 『武闘士』だからな! いいだろ、アオス?」

「何故俺に聞く? ……まあ、お前は近接系の『武闘士』だから問題ないと思う。俺は同じ『武闘士』でも、見ての通り遠距離型だしな。だから九々夜と一緒に後衛に立つ。あとは……」


 俺の視線を受け、目を泳がせるトトリ。


「確かお前は『魔法闘士』だったな? 近接系か?」

「え? それは……」

「トトリは近・中距離タイプですよ」


 答えてくれたのはトトリじゃなくてアリア先生だった。


 トトリは先生に対し「勝手に言うなよ」的な眼差しをぶつけているが、当の本人は涼しい表情のままだ。


 本当にこの二人の関係は何だ?


 トトリのアリア先生に対しての態度がどうも引っかかる。よそよそしいと思ったら、時々馴れ馴れしく話しかけたりする。

 まあ別に追及するようなことでもないか。


「それじゃ、トトリは遊撃手としての役割を担ってもらうか」

「うわ、いきなり呼び捨てだし」

「ん? 嫌だったか? ならローダーって呼んだ方が良いか?」

「え? あーいや、別にいいよトトリで。アタシもアオスって呼ぶけど」

「それは勝手にしてくれ。じゃあシン助とトトリは前衛で先導してくれ。ただしトトリは少し下がって。俺と九々夜は後衛に立って進む。問題ないか?」


 三人が返事をしたのを見て、最終確認のためにアリア先生に視線を向ける。


「ふむ。どうやら私が教えるまでもないようですね。ではその隊列を維持し、ダンジョン攻略へと向かってください」


 ルートは左右二つのうちのどれか。正直どっちが正解のルートかは分からない。


「よし、こういう時は棒倒しで決めようぜ!」

「お兄ちゃん! そんないい加減な方法はダメだよ!」

「えー、じゃあどうやって決めんだよ、アオス?」


 全員が俺を見てくる。だから何で俺に真っ先に聞くんだか。


「ふんふん、たぶんこっちのみちがただしいのです!」

「そうですねぇ。みぎのルートはよくないかんじがします」

「どっちだっていいぞ! どんなしょうがいでもわたしたちはのりこえていく!」


 妖精さんたちの意見を総合すると、左側のルートが安全らしい。


 妖精さんたちは悪意や害意に敏感だ。罠などの位置だって性格に把握することができる。故に彼女たちに従って行動すれば安心は安心だが……。


 しかしここで素直に妖精さんに安全ルートを聞きましたなんて言えば、また前の人生のような道を進むだけだ。


 それはそれで別に俺自身構いはしないが、また蔑まれると妖精さんやオルルが悲しむ。できるだけそういうのは控えておいた方が良い。


 それに導術を駆使すれば、俺にだって安全ルートを見つけることは容易い。ダンジョン全体に導力を流し込み、マップを把握すればいいだけの話だからだ。ただ消耗はするが。


「そうだな……左のルートへ行くか」


 するとアリア先生が眉をピクリと上げ、「どうしてその選択を?」とわざわざ尋ねてきた。


「……右側から嫌な感じが漂ってきているので」

「つまりは直感、ということですか?」

「簡単にいえば。こういう時の俺の直感は外したことがないですから」

「なるほど。……すみません、少し気になったもので」


 今のやり取りから、先生が右側ルートには罠か何かがあることを知っていたのだろう。あるいは行き止まりか。少なくとも安全ではないルートなのは確か。

 俺が躊躇せずに安全ルートを選択したから不思議に思ったのだろう。


「よーし! じゃあ左だな! 行くぞー!」

「ちょ、マジで直感でいいの!? ねえって!」

「いいのいいの! 間違ってても、やり直しゃいいだけだって! ほら行くぜー!」


 シン助の勢いに引っ張られ、動揺しながらもその後についていくトトリ。


「あ、あのアオスさん? 本当にこのルートでいいんですか?」

「問題ない。それにシン助だって言ってたろ。間違ってたら引き返せばいい。いまはまだやり直しが聞く状況だしな」


 これが最難関のダンジョンとかだと、恐らく取り返しがつかなかったりするだろうが、ここは初心者用のダンジョン。しかも学生のために人工的に造られたもの。いきなりルートを間違っただけで命を奪われるような非常さはさすがにないはず。


 まあ本当にヤバイ時でも、導術で何とか乗り越えることだってできると信じている。


 そうして俺たちは、左側ルートへと向かっていく。


 しばらく歩いていると、その先の開けた場所で初めての戦闘を行うことになった。


 ――モンスターとの遭遇である。


 しかし……。


「うおらぁぁぁぁっ!」


 僅か二体ほどの弱小モンスター。シン助が瞬く間に刀で斬り裂き一掃した。

 その次に遭遇した時も、やはりシン助だけが活躍し、俺たちはハッキリ言って暇。


「お、お兄ちゃん、あまり一人で頑張っちゃ体力が消耗しちゃうよ?」

「大丈夫だぜ、九々夜! こんなもん、ドモンズ先生と走った時と比べたら屁でもねえ!」


 確かに今のシン助を見ても体力が有り余っている状態だ。汗すらかいていない。


「はぁ~、アタシは楽できて助かるわぁ。その調子でクリアしちゃってくれて全然いいし」


 この状況を喜んでいるのはトトリだけだ。しかし後ろからアリア先生に睨まれて、すぐに居住まいを正す。

 そのまま下に降りる階段を見つけ、地下二階へと降りる。


 ルートに関しては俺の直感で進み、モンスターに遭遇してはシン助が一人で無双するというパターンが続く。


 そうして気づけば早くも地下五階へとやってきていた。


 最初のフロアには、四つのルートがある。妖精さんたちからは、すでに安全なルートは聞いている。


「……ここも直感ですか」


 俺が正しいルートを選択すると、後ろからアリア先生の低い呟きが聞こえてくる。さすがに怪しまれている感じだが、直感以外の何物でもないと言い張れば追及などできないだろう。実際妖精さんの直感ではあるし。


 すると進んでいると、またも開けた場所へと出た。

 しかし今度は、それまでと違って雰囲気がガラリと変わっている。


 規模もかなり広く、部屋は行き止まりではあるが、その突き当たりには台座があって、その上にはこれみよがしに宝箱が置かれていた。

 どうやらアレが目的の宝箱で間違いないないようだ。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る