おそれず何度でも(別れ、妄想、心の穴)

「よっ! ひっさしぶりー!」


 待ち合わせ場所に着くと、イタズラっぽい笑みを浮かべた旧友が出迎えてくれた。同じだけ老けたはずなのに、彼女は幾分いくぶんか若々しく見えてやけに羨ましい。


 居酒屋に入り、頼んだ酒が来るや互いのグラスを軽く打ち合わせて無言であおる。それぞれのペースで一杯目を空けるまで、言葉を交わさず飲むのが二人の約束事だった。

 出された〝おとおし〟はそのままで、店のにぎわいをさかなにちみちみグビリとやる。こうして飲むのは何年ぶりだろう。二十年か三十年か……。高校の同窓会で再会して以来、よく二人で飲んでいたのに。


 梅酒とウィスキー。入っていたものは違えど、等しく残った氷がカラリと底に落ちた。


「別れを恐れて出会いを避けるんじゃ、つまらないと思うのよ」

 唐突に彼女が切り出す。その〝別れ〟の意味するものを察して、聞きに回った。


「たくさん出会って、何かをあげたり貰ったりして。そうやって得たものは、別れが来たからって失うものばかりじゃないはずよ。だって、〝私〟は此処にいるもの。妄想なんかじゃなく、確かに此処に」


 力強く言い切られた言葉は、自身に言い聞かせているようにも思える。そうやって心の穴も、絆創膏でふさいでしまったのだろうか。長く連れ添った人を亡くしてくのは、決して小さな穴ではないのに。


 頼んでいた料理が届き、テーブルが華やいでいく。遅れて来た2杯目を持って、私は軽く咳払いをする。1杯目の終わりに話を切り出さなかったほうが仕切り直しの音頭をとる。それもまた二人の約束事だった。


「それでは改めて。美味いもの飲んで食べて、取っておきたい思い出以外は忘れてしまいましょ」

「そうだそうだ。それでもって美化していけばいいのよ」

「あのころ君は若かった」

「いやいや、今も若いから。気持ちだけは、ね」


 笑いあいながら、二人揃ってグラスをクイと持ち上げた。




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【おそれず何度でも】 2020.02.18 作


夕月檸檬さんからのお題

「別れ、妄想、心の穴」より即興創作

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* まだ、もう少し直したり書き足したい気持ちもあるけれど、ただでさえ数日かけてしまって「即興とは?」と地味に凹んで、一旦これにて、と逃げた。飲み歩くこともなかったから居酒屋のシーンは想像でしか書けぬ…。(2020.04.25)


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