刀工、質問攻める・2
「さて、次です。僕は貴女に色々と質問していきます」
「……はぁ」
「剣のこと以外……ミシュアさん自身のことを色々と聞いていきますが……」
「はい、何なりと」
「あの……急にそこまで緊張しなくとも」
「ええ、その、さきほどの剣を見ていた貴方と違って、急に柔らかいような雰囲気なので」
「……ん? そんなに違います?」
「ええ……あぁ、あと……武具師との面談? とでも言うのでしょうか、初めてですし」
「ん~そういえば、僕のところに来る剣士は質問というと、皆さん緊張なさいますね。でも、気軽に答えて下さい。ああ、答えたくないことは答えなくともいいです」
「承知しました」
すっと背筋を伸ばした彼女は緊張しているようだったが、話していく内に和らいでくれるだろう、とギレイは構わず続けた。
「ミシュアさんは何故、騎士に?」
「理由……そうですね、自然とそうなった……というか」
「はぁ、自然と、ですか?」
「少し長くなってもいいですか?」
「はい……ちょうど良いのでは? 僕らは約束よりも早くから始めちゃってますし」
「ふふっ、確かに」
緊張が緩んでいくように、彼女は口を開いた。
「わたしは幼い頃から、父や祖父にせがんで武芸を教えて貰っていたのです」
「ん? 僕らが子供の頃って、」
「ええ。女に武芸など、という頃でした。でも、わたしは、その……」
「言いたくないのなら……」
「いえ、少し恥ずかしいだけです」
顔をまた紅潮させるミシュアに何となく、ギレイも気恥ずかしいような心持ちを覚えた。互いにそうだったのかもしれない。彼女の方がいち早く、語り始めた。
「わたしは子供の頃、リュッセンベルクを魔族から勝ち取った騎士の伝説に憧れてしまっていて……それで、わたしも武芸をと」
「子供の頃なら伝説とかに憧れるのは普通ですよ。その騎士の伝説は神話の類とは違ってどうやら、現実にあったことらしいですし。恥ずかしがることでもないような?」
「いえ、あの、今でも少し……」
「……何か、ごめんなさい」
「いえ、謝らないで。恥ずかしいので」
「…………」
「すいません、わたし……」
「いや、話が逸れちゃいましたね。ええっと……」
「ああ、武芸を子供の頃から教わって……自分で言うのも、またも恥ずかしいのですが、才があったのでしょう、同い年くらいの男の子にはすぐに勝てるようになりました」
「うん。だと思いますよ」
「はい?」
「さっき、柄に巻いてある革の損耗でも確認できたのですが、ミシュアさんは指の長さのバランスがいいんです。剣を振るう時に、剣身に力が乗せられる、普通の人よりも」
「……初めて言われました、そんなこと」
「あ、邪魔しちゃいましたね。えっと、子供の頃から剣術を覚え、同年代を打ち負かして……」
「その言い方だと、わたしが暴れまわっているような気が……」
「…………ええっと、」
「あ、いえ、事実です。十三、四の頃は武芸大会に男装がてら甲冑を着込んで潜り込み、戦いました。覚えているだけでも、ルベン、アギュア、ああ、リュッセンベルクの武芸大会も……」
「…………すごい。今、言われたどの都市の武芸大会は騎士であれば出てみたいと思うような有名なものですね。それも十代前半で……まさか、勝ってないですよね?」
「……勝ってしまいました。優勝です、どれも」
「それは……えっと」
「言い淀むのも、分かります。実際、困ったことになりました。あらゆる騎士団、領主からの誘いを受け……でも、あの当時は女だとバレてしまうと、わたしが負かしてしまった身分の高い人間達の名誉が傷つくので……」
「はい、どうしたのです?」
「優勝して逃げました……むしろ敗者のように」
「………………はははっ」
「笑わないでっ、昔の話とはいえ傷つきますっ!」
「ごめんなさい、いやいや~それにしても、おもしろい。あれ? でも、そんな事件ならもっと有名になっても……ああ、もみ消したのか」
「お察しの通り。不名誉を嫌う騎士が必死に。父にも迷惑をかけましたね、きっと」
「ん~なるほど……それで、ああ、五年前の身分評議会の発足で」
「そうです……甲冑で正体を隠しても分かる人には分かっていたし、認めてくれていたのでしょう……すぐに騎士としての評価……位を正式に貰って」
「今に繋がる、と」
「はい。わたしと同様に女性でありながら、剣……に限らず、武芸の才があるものが集められて白蘭騎士団が出来たのです」
「なるほど……では、」
質問を続けかけたギレイに、ミシュアが言った。
「ギレイさん、言わねばならないことがあります。評議会の話題が出たので、ちょうど良い」
「……はぁ、何でしょう?」
「評議会が数日前……位を一つ下げ、わたしはフォーススターになっています」
「はぁ、そうですか」
「……想像はついていましたが、そこまで、どうでも良さそうに言わずとも」
「……と、言われても」
「評議会の位は不特定多数の人間、監査官、また不可視の監視妖精による報告……それらを集積して生み出されるもの。生まれによる身分よりも、確かなものだとは思いませんか?」
「だとしても」
真剣な彼女の眼差しに答えるように、ギレイも真剣に応えた。
「僕は自分の目で貴女を見定めたい、さきほどの剣もそうだったように。僕はだからこそ、貴女とこうして話している」
戸惑うように唇を震わせてから、ミシュアは微笑んだ。
「ありがとう……ギレイさん。少し、楽になった」
言われて、ギレイはけれど、ゆっくりと、頷くことしかしなかった。
自分としては普通のことを言っただけだったからで――もっと言えば。
彼女の微笑をさきほどのように、自分が余計なことを言った所為で、壊したくなかった。今度は、もう少しだけ見ていたかった。
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