第94話 記録会二日目

 初日の最高視聴率は、俺の四百メートル走の時間帯で五十パーセント越えを記録したらしいよ!

 国際大会でも無い、国内の記録会の中継でこんな数字が出るのはあり得ないような事態だけど、それだけ俺の注目度が高かったんだろうね?


 今現在国内では文句なしにNO1アイドルグループのGBN12が番組全編を通して出演してたし、今年からの活動テーマになった世界中の難民支援を打ち出しているのも、好感度的に良い影響を出している。


 今泉さんが俺のスポンサー企業に対しても、難民支援の社会活動に協賛を要請して、概ね好意的に受け入れられたので、結構な社会現象になるだろうしね。


 『ホープランド』出身の陸上選手を世界に送り出すのも、いいかもしれないね。

 才能のありそうな子を見つけて育ててみようかな?


 大隈理事長に相談して、中学生くらいから留学生で引き受けが出来ないか相談してみよう。

 現在『ホープランド』では英語教育は行っているけど、希望者に日本語教育も始めようかな?

 美緒とビアンカが居れば何とかなりそうだしね?


 俺が参加する世界陸上の当日に合わせて二十四時間番組ならぬ四十八時間番組を作成して、難民支援をテーマに特別番組を制作するんだって。


 それに合わせて夏休みに入るとすぐに『ホープランド』での実際の活動の体験などもGBN12には仕事で入ってるらしいよ。


 香織やアンナは結構頻繁に行ってるけど、普段は『カラーレンジャーズ』の格好じゃ無いとウロウロ出来ないから、自分の姿で行ける事には少し喜んでた。


 遊真が頑張って装備の改良をしてくれてるので、今の『カラーレンジャーズ』は見た目的には最新の戦隊物と比べても、引けを取らない程度にはデザインも洗練されてきたんだから、そんなに恥ずかしくはないと思うけどね?


 そして大会二日目は昨日の俺の記録ラッシュで更に大盛り上がりで迎えていた。

 オリンピックの時を彷彿させるように、競技場を取り囲む人も集まっていて、商機に聡い冬本さんが急ぎでGBN12の完コピ軍団を呼べる範囲で呼び出して、競技場前広場でもお祭り騒ぎになっている。


 当然トレーラータイプの大型プロジェクションも用意され、競技の様子や実況番組の画面が流れ、俺関連のスポーツグッズ販売や、募金活動も盛り上がってるよ。


 でもこんなのよく一日で用意できたよね。


 ◇◆◇◆ 


 そして二日目の競技は始まった。


 十種競技デカスロン二日目。


百十メートルハードル

円盤投げ

棒高跳び

槍投げ

千五百メートル走


 以上の五種目が行われる。


 通常の場合だと、体力の疲労がピークを迎える最終種目の千五百メートル走が鬼門となるらしいけど、俺にはスタミナの心配はいらないぜ!


 スタートラインに並ぶ直前まで、桜井先輩がハードルの注意事項を熱く語ってたけど、きっと俺の側に居たかっただけだよね?


 公式記録を持ってない俺は、端っこの八レーンでの登場だ。

 テレビ局的には、端っこの方が目立ちやすいから助かってそうだよね?


『On your marks』


『Set』

 

 呼吸を整え深く腰を落として、号砲と共にスタートダッシュを決めた。

 俺は、桜井先輩との練習通りに最初の十五ヤードを七歩で走り一台目のハードルを飛び越える。

 それから先は三歩で十ヤード毎のハードルを、高くなりすぎない様に気を付け丁寧に飛んだ。


 最終ハードルを飛び越えて、そのままゴールを先頭で駆け抜けた。

 タイムは……WRの表示と共に12秒70が表示された。


 感極まった様な感じで、桜井先輩が飛び出して来て俺に抱き着き、競技委員の人に注意されてた。

 その様子を応援席で眺めていたGBN12のメンバー達に一瞬静寂が訪れ、どす黒いオーラが舞い上がったように感じたぜ……


 得点は1149点だ。

 ここまでの総合は7475点。

 日本記録が8308点だから、恐らく次の競技で到達しそうだね。


 インターバルを挟んで次の種目に進むけど、この種目も俺は公式記録を持って無いので一番目の登場となる。


 円盤投げだ。


 俺は陸連のコーチの筒井さんに習った、フルターンでの投法を結構まめに練習していたので、それなりに自信はあるぜ。

 因みに今日の大会には筒井さんも選手として、円盤投げの単独種目に参加しているよ。


 フルターンでの投法はこんな感じだ。


①投げる方向に背を向け、肩幅よりやや大きく脚を開く。

②円盤を持った手を左右に振り勢いを付ける。

③身体を勢いよく右側に捻りターンに備える。

④左脚を軸に右脚を浮かせ三百六十度回転させる。

⑤右脚の着地は三百六十度回転した投げる方向と逆向きの着地となる。

⑥左脚を着地し円盤をリリースする。


 頭の中でイメージを反芻はんすうさせてゲージに入り、勢いよく一投目を投げた。

 飛距離は、若干角度が低くなった為に思った程は出ていなかった。


 70m85


 日本新ではあるけど、世界記録には三メートル以上足らない。

 この競技は競技人口の問題なのか、もう長い事世界記録が更新されていない。


 この大会の映像は、三十四年ぶりとなる世界記録の更新の瞬間を見たいと、世界中のテレビ局が番組の放送権利を買い付けに来たそうだ。


 日本国内の記録会ではあり得ない事だらけだよね……

 でもね……何度も言うけど参考記録ですから!


 他の選手の一投目を終えて、当然の様に大きく引き離してこの種目も現在首位だ。

 日本記録でも、62m59だからね……


 そして迎えた二投目の投擲は、今度は逆に少し高く上がりすぎちゃったけど、それでも飛距離は七十五メートルラインを超えた。


 75m14


 俺に指導をしてくれた筒井さんも、いつの間にか側に来ていて、ガッチリと握手をしてくれた。

 イケメンスポーツマンって感じだよね。


 得点は、1406点だった。


 この時点で、総合得点は日本記録を超えて8881点となった。

 もう世界記録まで三百点を切っていて、五桁越えも確実になってきている。


 ただし十種競技は十種目でそれぞれ記録が必要だからね、もし残す三種目で不参加が有れば得点は零になっちゃう。

 確実に怪我をしないようにしなくちゃね!


 スタンドの盛り上がりも凄いよね!

 

 今日の三種目目は棒高跳びポウルボールトだ。

 走高跳と同じように、全員が脱落するまでパスを続けた。

 5m10cmで全員が失敗したので、俺はその高さで一回目の試技を迎えた。


 明石さんの用意してくれたポールはとても良くしなり、俺を空高く舞い上がらせる。

 かなりの余裕を持って飛び越えた。


 次は一気にバーを6m20に設定して貰った。

 室内世界記録の6m18を超えて前人未到の高さだ。

 俺の使うポールの長さは6m。

 完璧にタイミングが合わないと無理だろう。


 会場を大きな手拍子が埋め尽くす。

 俺はポールを構えて走り出し、スピードが乗り切った所で、ボックスにポールを突き立て舞い上がる。


 少し手前で上がりすぎちゃった。

 高さは十分だが、バーに手が触れ落としてしまった。


 会場からため息が漏れた。

 二跳躍目、今度は角度もばっちりだが、ポールがマット側に倒れてきちゃってそこに目が行ってしまい、再びバーに触れてしまった。


 あらら……後一回しか飛べないや。

 まぁ記録なしでは無いから、良いけどね。


 そして三回目の跳躍は、俺的にもばっちりだ。

『正に鳥人!』って言うアナウンサーの叫びが俺の耳にも届いたぜ。


 6m20をクリアして試技を止めた。


 得点は1298点 この時点で世界記録を塗り替え一万点を超えた。

 スタンドではGBN12のお姉さん達も感動して抱き合って喜んでるぜ。


 スタジアムの外からも大歓声が沸き上がっているし、さぞかし盛り上がってるんだろうね?


 四種目目の槍投げは、はっきり言って置こう。

 俺はこれが一番得意だと言い切れる。

 恐らく遠慮なしで投げれば三百メートルは飛ぶだろう。

 向こうの世界でも普通に槍投げてワイバーン撃ち落としてたからね!

 人類の範囲で納めるなら一センチメートル刻みで、狙い通りの距離が出せる自信がある。


 狙ってみたぜ、この競技場で書いてあるラインは百メートルまでだった。

 これは……このライン超えたら危ないから超えないでね? って言うお願いなのかな?

 空気の読める俺は、きっちり狙ったよ一センチメートル手前を。


 99m99にきっちり突き刺さった。


 我ながら完璧すぎたぜ。

 一投で試技を止めて最終の千五百メートル走に備えた。


 得点は、驚愕の1530点だった。

 ここまではの合計は11534点。

 もう世界記録を確定させるために必要な事は、千五百メートル走のスタートラインに立って、完走さえすれば世界記録は認定される。


 俺は、日本中の期待を背中に受け、スタートラインへと並んだ。

 出場選手は、参加者全員で途中棄権一人の十五名だった。


 そして号砲が鳴り響くと同時に、俺は勢い良く飛び出し集団の先頭に立つ。

 満員のスタンドも総立ちだ。

 世界の歴史を塗り替える一瞬を大声援が包み込む。


 集団を形成する事も無く、俺は一気に引き離す。

 狙うのは自分自身が持つ世界記録の3分18秒25だ。


 三周目を回って二着との差は半周以上まで開いている完全な独走状態で、会場は翔コールで埋め尽くされる。

 俺はそこからさらに加速する。


 最下位の選手の背中を捉え抜き去った所でゴールした。

 タイムはWRの表示と共に3分17秒53を記録した。


 俺は会場中に響き渡る声援に応えて、三百六十度の観客の全てに大きく頭を下げた。

 十種競技に合わせて、十回を少しずつ向きを変えながらお辞儀をしたぜ。

 背筋を伸ばし直角九十度の角度での最敬礼の四十五度より更に深く頭を下げた。


 このタイムに対する得点は1291点だった。

 総合得点は実に、12825点に上った。


 表彰式を迎え世界記録の認定も受け、表彰台の中央で再度観客に対して大きく頭を下げた。

 俺はうちの高校の陸上部が集まっている場所まで行き、部員の皆に声援の感謝を告げると、みんなで胴上げをしてくれ記念写真を撮った。


 当然の様に俺の両隣は、瀬古監督と桜井先輩だったぜ。


 その後はテレビ局にも呼ばれているので、陸上部の人達とはそこで解散となった。


 その次はスタンドの最前列に陣取っているGBN12の所へ行くと、センターのポジションに立って、観客の方に対してもう一度頭を下げ、綾子先生と二人で先にテレビ局へと向かった。

 ちょっと気分がハイだったから、競技場の外で完コピパフォーマー達が立ってる簡易ステージにも上がってみんなに感謝を伝えて来たぜ!


 盛大な拍手に見送られて、テレビ局へと向かった。

 競技自体は、まだ明日まで開催されるので、GBN12は応援続けてたけどね!


 後二週間で十六歳を迎える俺は色々と忙しい。

 まずこれだけはやっておきたい事として、バイクの免許の取得。

 今は大型免許は十八歳からしか取れないのがちょっと残念だけど、普通自動二輪免許の取得はしないとね。


 教習所に行く暇は無いので、一発で受けるけど、やっと父さんとツーリングに行けるぜ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る