第89話 ジャベリンスローとポウルボールト
円盤投げで、基本をしっかり習った後は、やり投げの基本を教わる事になった。
このやり投げと言う競技では他の投擲競技と大きく違う部分は、助走が三十メートルも認められている点だ。
走る速度を飛距離に乗せる事が出来る為、俺には一番有利な気がするよね。
陸連の溝田さんと言うコーチの人もさっきの円盤投げの筒井さんと同じで、既に現役では無いけど現在の日本記録の保持者なんだって!
「松尾君、ジャベリンは技術が最も記録に影響されるから、投擲フォームをしっかり覚えて置いてね」
「はい頑張ります」
「男子で二.六メートルから二.七メートルで八百グラム以上。女子で二.二メートルから二.三メートルで六百グラム以上のやりを持っての助走になるから、普段通りに走れる訳は無いからね。
やり投げでの助走距離は三十メートルだ。
この間で助走スピードを付け、ステップを踏み投げへと移行するから回数をこなして体で覚え込んでね。
まず、ジャベリンは必ず地面と平行に持ってね。
これは、やりへの空気抵抗を少なくし、バランスを保ちスピードを付ける為にある。
助走の前半は、正面を向き、ももを高く上げてテンポ良く走り、スピードを付ける。
短距離走のように前に進む意識では無く、やりとのバランスを考えたテンポが大切だ。
助走の後半では、投げに繋げる為にクロスステップを行う。
このクロスステップにより助走スピードがダウンする事を強いられるけど、よりスピードダウンを抑える事が記録へのカギだからね。
クロスステップに切り替えるタイミングは、投射四歩から六歩前が理想的で、助走のスピードを生かして、スムーズにクロスステップに切り替える事が大切だよ。
クロスステップに移り、投射前の最後のステップをラストクロスというんだ。助走スピードを生かし、やり投射に繋げる最も重要なステップだ。
ラストクロスはクロスステップの中で、一番大きなステップとなる事が大切だ。それと同時に、やり投射へ備え、後傾姿勢となる。
ラストクロスでの右脚の着地は、クロスステップ時よりも、投射方向に向けて着地する事が重要だよ。それと、右脚着地時に、既に左脚は右脚よりも前方に振り出している事が大切だ。小刻みな動きになるけど、スムーズに大きな一歩をとる事が必要だよ」
「何だか難しそうですね、見本を見せて貰ってもいいですか? その動きをトレースして覚える方が、理屈で覚えるより、自分に向いてると思います」
「そうか、まぁ俺も喋っててこんなに一辺に言われても、覚えれねぇよな? って思ってたからそれが良いなら一番助かるよ」
見本を見せてくれた溝田さんの投げたジャベリンは、七十メートルラインを軽く超えて行った。
助走中の槍が水平で、地面に対して揺れが少なくするのが一番難しいのかな? っていう印象だった。
後は投擲の角度かな。
投げ方自体は、一番野球のボールを投げるのと似てるから、結構いけそうだよねボールだと百五十メートルは投げる自信あるしね!
走り始めは太ももを高く上げながら足踏みをする様な感じで動き始め、徐々にスピードを付けて最初だから、ファールは嫌だと思い八メートル手前くらいから、フィニッシュに入ってみた。
角度的にはチョット低いかな? って感じで投げだした槍はぐんぐん伸びて八十メートルを超えた地点に突き刺さった。
「はははは、明石さん。俺が教える必要なんてどこにもないですよ、角度さえ合えば世界記録塗り替えちゃいますね、いやぁ良い物を見せて貰いました」
溝田さん的にも満足して貰えたみたいだった。
「いえ目の前で最高の見本を見せて貰えたからです。とっても感謝してますよ?」
「そう言って貰えると嬉しいよ。折角だからもう一つだけ! 槍を水平に保つコツは手首を柔らかく使う事だよ。若干揺れてたからね」
「ありがとうございます」
周りで見ている先輩たちも口々に「すげぇなやっぱバケモンだよ松尾って」と騒いでたけど、俺はバケモンじゃ無くて勇者だからね!
続いてフィールドに用意された棒高跳び用の場所に移った。
他のスポーツと違ってこの競技に使う棒は表面が滑らかって言う条件さえクリアしていれば、太さも長さも材質も自由なんだって。
更に助走距離にも制限が無いとか、自由度が高いよね。
一応跳躍競技には分類されるけど、競技者はジャンパーと呼ばれずにボールターと呼べれる所がこの競技の特殊性を現してるぜ。
明石さんは当然の様に俺用に最高品質のカーボンファイバー製の六メートルサイズのポールを用意してくれていた。
「松尾君、飛んだ後にこの長さのポールだとバー方向に倒すと、バーが落ちちゃうから反対方向に倒すようにね!」とだけ言われた。
澤田さんと名乗ったコーチの人が「説明するより見て貰った方が解り易いから」って言って最初は低めの四メートルの高さから飛んで見せてくれた。
助走の走り方が独特だよねピョンピョン飛び跳ねる様な感じで走りながら最終的にボックスと呼ばれる金属製の部分に、ポールの先端を当ててポールのしなりを利用して百八十度体をひねるような感じで、飛び越える。
女子の高校生記録で四メートル十二だからそんなに低い位置でも無いんだけどね……
それでも、見本を二度ほど見せて貰った後で、一回で超える事に成功した。
なんだか楽しいって言うか、気持ちいいよね。
ジャンプで高い距離を飛ぶこと自体は、俺はモトクロスでも慣れてるし、恐怖感も無かったので結構向いてるかもしれない。
ポールをボックスに突き立てるのも、イルアーダで長槍を振り回してた事もある俺には、そんなにむつかしくはくないぜ。
結局、試技をしながら少しずつ澤田さんに矯正をして貰う方法で、六メートルの高さまではクリアできた。
「日本記録超えちゃいましたね……」
この学校の用意してある設備ではそれ以上の高さに設定できなかったので、みんなびっくりするやら呆れるやらで、今日の実技練習は終わって明石さんに声を掛けられた。
「松尾君、今の現時点で松尾君の持ってる記録で十種競技の得点を計算してみたけど、余裕で世界記録を超えてる」
「あ、そうなんですか? じゃぁ大丈夫ですね。ハードルが少し不安だからゴールデンウイークまではハードルを中心に練習しておきますね!」
「テレビの方もよろしく頼むね」
「今日この後のバラエティーに出演予定有るし、ちょっと十種競技に挑戦するっていう話だけ出しておきますね」
俺がハードルを主に練習するって言ったら、桜井先輩が凄い嬉しそうにしてたのが気になるぜ。
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