高校生編

第79話 春休みって忙しい?

 俺は中学校の卒業式を終えると、今まで以上に忙しくなっていた。

 先週の加山祭が終った翌日には、黛さんと倉田さんと綾子の四人でアメリカへと旅立った。


 先生としての仕事は俺達の卒業で終わった綾子は、残りの期間は有給消化で使う事にしたんだって。

 倉田さんの所属するスポーツメーカーはとっても太っ腹で俺の移動には、マネージャーの綾子、倉田さん、黛さんまで全員ファーストクラスで移動させてくれる。

 席が広くてめっちゃ快適だよ! CAのお姉さん達もすっごい綺麗な人が揃ってるしね!


「松尾翔君ですよね?」と飛行機の中で、俺からサインを貰おうと近寄って来る他の乗客も何人か現れたけど、CAのお姉さんたちが、文字通り体を張ってブロックしてくれてたよ。


 この三月末の二週間で、ある程度の成績を残せば、四大トーナメントの出場権も獲得できるし、俺以上に気合が入って居るのは倉田さんだ。


「倉田さん、現役復帰はしないんですか?」って聞いて見た。

「翔君。実はね、翔君と一緒に行動するようになってから、体調もいいし実際飛距離なんかも全盛期の時に近くなって来てるんだ。俺も自分でしっかりと夢の切符は手に入れたいとも思ってる。でもそれは翔君がメジャーでの勝利を挙げてからになるな」


 やっぱりなぁ、最近の練習場での倉田さんのスイングが鋭すぎると思ってたんだよね。

 スイミングスクールや、ボクシングジムで一緒に居るだけでも効果が明らかなのは実証済みだし、それよりも遥かに長い時間を一緒に過ごしてる、倉田さんに効果が無いわけが無いよね。


「俺以上に、俺の思い描く弾道で球を飛ばせる翔君の姿を見る事も、俺の中では自分でプレーするのと匹敵する位に楽しいのも事実だ。でも今年翔君がもしメジャーでの勝利を上げたら、今度は来年俺が、翔君への挑戦者として、立ちはだかりたいと思ってるよ」

「なんだかそれ凄い楽しみです! 絶対実現できるように、俺がまず今年の四大トーナメントを狙いますね!」


 ロサンゼルスの空港からほど近いシェラトンゲートウェイにチェックインした。

 予選ラウンドまでは二日あるから、時差ボケを直さないとね!


 本当は俺には関係無いんだけど……


 ディナーも今日は四人でロスの高級レストランをリザーブしてあった。

 いかにもな高級レストランに入り、席に着くとギャルソンの人がメッセージを預かっていると伝えて来た。


「俺ロサンゼルスには流石に知り合い居ないけどな? と思いながらメッセージを見ると、日本人でも誰もが知ってるような、元州知事のハリウッドスターからだった」


『一緒にどうだい?』


 とだけ書かれたメッセージを目にして、周りを見ると、大きな筋肉質の爺ちゃんたちが手を振って居た……

『エクスペンダ〇ルズ』かよ! でも、憧れのハリウッドスター達が揃ってる席に座れるチャンスなんて滅多に無いし、挨拶だけはしに行ったよ。

 流石に倉田さん達は、ハリウッドのビッグスター達にはちょっとビビッてたけど、俺はジョージも友達だし、今更ビビることも無いからね!


 食事の後は、倉田さん達とは別れL.Aの街並みを綾子と二人で歩いてみた。

 なんだか凄い嬉しそうにしてくれたから、俺も嬉しくなったぜ。


 イニスブルックリゾート&GC コパーヘッド・コースで行われるバルスパー選手権へ出場するために、翌日は朝からフロリダへ向かって移動した。


 結果は、パットの不調もあって三位で終わったけどアメリカのツアーに初参加で三位なら上出来だと倉田さんは、喜んでくれた。


 その大会で優勝したのは、最近は一時期ほどの圧倒的強さを感じる事の無くなったライガーさんと言う黒人系の選手だった。

 最終日に一緒に回れたので、結構仲良くなれたぜ。


 次の、テキサス州のオースティンCCで行われる大会に向けて一緒にライガーさんのプライベートジェットで移動した。

 倉田さんも、現役時代に面識があったそうで、ライガーさんと何か話してたけど、どんな内容なんだろうね? ちょっと黛さんの方とか見てたしタイプだったのかな?

 女性関係で苦労したニュースを見た覚えがあるし……ほどほどにね?


 そして始まったこの大会、いつものストロークプレーと言う形式ではなくマッチプレーと言う形式の大会だ。


 ストロークプレーだと単純にスコアで競うんだけど、このマッチプレーと言い競技はちょっと特殊だ。

 常に二人で回り、トータルスコアでなくホール毎の勝敗の数で競う競技方法なんだよね。


 六十四人の参加者で始まったこの大会は、六日間の長い大会となる。

 俺は倉田さんのサポートを受けながら、順調に勝ち進み最終日を迎えた。


 海外だとゴルファーの俺なんてそんなに騒がれないと思ってたけど、やっぱりオリンピックの金メダリストのネームバリューが凄くて、日本からの応援団も結構な数が来ててビビったぜ。

 流石にGBN12は来てないけどね。


 黛さんが所属メーカーの本社があるこの国でも、連日ハンカチセットやクラブバッグにサインを求めて来るけど、ここでも凄い売れ行きだったみたいだ。


 最終日の優勝を争う対戦相手は、ライガーさんだった。


「HeyBoy 今日は負けないぞ」と浅黒い肌に白すぎる歯をキラキラ輝かせながら声を掛けて来た。

 マジで歯がキラキラ光る人なんて、存在するんだなぁって改めて思っちゃったぜ。


 勝負は一進一退で最終ホールを迎えた。

 ここまでの勝敗数は、俺の1ダウンで負けてる。


 でも本当にこの人が凄いのは、ドライバーの飛距離が他の選手と比べると桁外れなんだよね。

 俺が本気で打つともっと飛んじゃうけど、常識の範囲内でしか飛ばさないからライガーさんの飛距離はちょっと衝撃的だったぜ。


 最終ホールの、ティーショットでライガーさんが、三百九十ヤードパ-4のこのホールイーブンでも勝利が確定だから、刻んで来た。


「チャンスは此処しかないぜ」


 低い弾道で撃ちだされた、俺のティーショットは大きくライガーさんをキャリーオーバーしてグリーン手前まで届いた。

 ライガーさんも二打目を確実にグリーンに乗せてきたが、距離はある。

 対して俺はアプローチをピン側十センチメートルにつけたぜ。

 

 次のホールのプレーオフに持ち込んでやるぜ!

 と思ったけど、ライガーさんはやっぱり強かった。


 十五メートルはあるパットをねじ込まれて惜しくも俺は準優勝で終わっちゃった。

 賞金はちゃんと出るって言われたんだけど、日本ルールで言うとプロじゃ無いし賞金を貰うのは色々言われちゃうと思ったから「『ホープランド』の難民基金に寄付します!」って、テレビのインタビューで答えたよ!


 こうして、俺の春休みは忙しく前半戦を終えて、日本へと戻った。

 明日から四月だ。


 東京での新しい生活が始まるし、頑張らないとね!

 因みに両親は一度もゴルフ場に顔を出さず、アメリカ中をハーレーで走り回る生活を楽しんだみたいだよ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る