第63話 文化祭【後編】
「副島、相手は強いぞ、俺が許す全力で行け」
ボクシング部の監督の輪島さんが、俺の対戦相手に指示を出した。
「マジで? 勘弁してほしいなぁ」とは思ったが、勝手に参加しちゃったのは俺の方だししょうがないな。
この際だからインターハイチャンプの実力を確かめさせてもらおうかな。
チャンプ君が急に切れの良い動きで、ステップを刻み始めた。
やっぱりアンダージュニアの選手とは一味違うな。
でもね、俺が普段スパーリングしてるのは世界チャンピオンの健人さんなんだ。
ゴメンネ。
普段より重い十四オンスのグローブは、クッション性が高いからヘッドギアの上からだと大丈夫なはず!
と思って、チャンプ君のジャブを二発華麗に避けて、次に打ち込んできたワンツーに合わせてカウンターを放った。
見事に頬に突き刺さって、首が真横むいちゃったよ、大丈夫?……だよね……
流石に高校生のチャンプはタフだな。
膝をついただけで、すぐに立ち上がった。
「まだ続けますか?」と一応確認してみた
輪島監督が「そこまでだ」
と声を掛けてきたので、俺は「ありがとうございます。勉強になりました」と頭を下げて、リングを降りた。
「副島、今の相手は松尾翔だ。強いだろ? 」
「あ、輪島監督、駄目だよそれ言ったら」
時すでに遅しだ、会場中が騒然としてその場にいた二十人くらいの人の歓声が上がって取り囲まれた。
「遊真、脱出だ」
「OK」
再び、逃げ出した。
「輪島監督! また遊びにきまーーす」と言いながら、走り去った。
ジュース貰い損ねたぜ……
体育館に逃げ込むと、バスケ部のイベントをやってた。
2対2でバスケ部の人と対戦して、ゴールを決めればジュースが貰えるイベントだった。
遊真に「やってみるか?」と言って受付をした。
俺はもちろんマスクを着用してるぜ。
センターサークルからスタートして、最初はボールを持たせてもらえるみたいだ。
遊真が最初にボールを持ち、スタートと同時に俺にパスを通した。
そのままドリブルで相手の二人を抜いて、お祭りだからちょっと派手目なのがいいかな? と思ってスラムダンクを決めた。
しっかりとゴールリングをつかんで、アピールしたぜ!
体育館にいた五十人程の人達から歓声が上がった。
「「「すげぇ」」」」
あまりにも目立つシュートに遊真もあきれ顔だ。
「翔、隠す気まったく無いだろ?」
対戦したバスケ部の人からも声を掛けられた。
「凄いね君、今は何年生なんだい?」と聞かれたから
「まだ中三です」と答えた。
「ここの文化祭見に来る位だから、来年はここに進学希望なの?」
「そうですね、受かればいいですけど」
「君ってバスケ部じゃないの? バスケ推薦なら楽勝だよ?」
「部活やる余裕がないから、推薦は無理なんです」
「そっかぁ勿体ないな」
と言いながら景品のジュースをくれた。
氷水に突っ込んであったから、冷え冷えで気持ちいいぜ。
「あ、いたよーーみんな体育館囲んで」
背筋に悪寒が走った。
「遊真、どうしよう」
「もう百人近くいるじゃん。無理だよ諦めなよ」
その様子を見て、バスケ部の人も不思議そうに俺をのぞき込んで「君なんか追われるような事したの」と、聞いてきた。
「別に悪いことはしてない筈なんですけど、なぜか追いかけられたから逃げてたんです」
「捕まえて、その子、松尾翔君だよ! 絶対握手とサイン貰うんだからね!」
「マジか、超有名人じゃんかよ」
「もう諦めましたから、今から三十分だけの時間制限でお願いします」
と、臨時で握手会をはじめさせられた。
その噂を聞いて、剣道部の顧問の柳生先生が理事長と一緒に来てくれて、一時間後にやっと解放してもらえた。
「助かりました。このまま文化祭の終了時間まで拉致られるかと思いましたよ」
理事長の大隈さんと剣道部の柳生先生が、理事長室に連れて行ってくれて、そこでお茶を出されてやっと一息付けた。
「一緒にいるのは友達ですか?」
「はい、土方遊真と言います。僕もこの高校を受験させていただきますので、今日は松尾君を誘って下見に来てたんです」
「そうですか、受験頑張ってくださいね待っていますよ」
「柳生先生、お願いがあるんですけど、もし合格出来たらインターハイの個人戦の剣道大会だけ、僕と箕輪さんが参加できるように取り計らいは可能でしょうか?」
インターハイは、高校からの出場じゃないと無理みたいだから俺と香織が出場できるか聞いてみた。
「箕輪さんもこの高校受験してくれるんですか? 推薦断られてたから、違う高校に行くのかと思ってたよ」
「彼女も俺と同じで、部活動での時間が殆どとれないから、推薦は断ってたんです」
「そうだったんですね、出来れば団体戦も出て欲しい所ですが、個人戦だけでも松尾君と箕輪さんがうちの高校の名前で出てくれれば期待できますね待ってますよ」
「折角だから、武道場にも顔を出してもらえますか? 松尾君の顔が見れるだけでもみんな喜ぶから、さっきの状態にならない様に、私が一緒について歩きますので」
柳生先生と理事長室を出ようとすると、陸上の瀬古先生と、水泳の北島先生もそろって顔を出してきた。
「松尾君、折角だから陸上と水泳の部室も覗いて貰って良いかな? 文化祭の当日に金メダリストに出会えるとかみんなの一生の思い出になるから頼む」
と二人揃って頭を下げられた。
これは断れないよね……
「解りました。順番に伺いますからあんまり人が増えすぎないようにお願いしますね」
俺は大隈理事長に「お茶ごちそうさまでした、一息付けたので助かりました」
と挨拶をして柳生先生、瀬古先生、北島先生の三人と一緒に武道場に向かった。
その後は、武道場、屋内プール、陸上トラックの順で回っていき、歓声は凄かったけど先生たちがガードしてくれてたから、体育館のような惨状にはならずに済んだ。
でも楽しかったからまぁいいや。
最後にもう一度理事長室に挨拶に行き、遊真と一緒に新幹線で名古屋へと帰途に就いた。
◇◆◇◆
「これで、試験落ちたら悲惨だよね……」と俺がつぶやくと
「もう、名前さえ書いてあったら落とさないだろ?」少なくとも俺が経営者なら、落とさないよ」
と、遊真が言ったけど、私立の学校だからそういう事もあるかもね?
「なぁ翔、色々考えたんだけどさ『Hope Land』の手伝いって、させてもらう事は出来るのか?」
「日本でやってる活動では無いから、斗真さんの許しを貰えるなら構わないけど」
「そうだな、一度父さんと話してみるよ」
「一度『Hope Land』見てみるかい? アフリカの雄大な大地に感動するよ、当然パスポートとか持たずに出るから身バレは気を付けてくれよ? 」
「行ってみたい! いつだ?」
「今でしょ!」
新幹線の中で、遊真の手を取り転移を発動した。
日本で夕方の十八時頃だったけど『Hope Land』時間では朝の九時くらいだ、一番活気のある時間だな。
「すげぇええ」
「ここが、俺たちの『Hope Land』での拠点だ。『COLOR RANGERS』のメンバー以外では初めての訪問者だな」
サファリルックに着替えさせて、ランドクルーザーに乗り込む。
中心部の街区画だけなら、通常のSUVタイプの車でも問題ないけど、壁の外側では本格的なクロスカントリー車で無いと、とても走行できない。
因みに、ここの土地は団体としての『Hope Land』の所有地だから、免許証なんかは必要無い。
この国に運転免許制度があるのかも知らないけどね!
俺と遊真は、サバンナの中を走って野生動物を間近で見て回った。
「マジスゲェエエ」
「遊真、言葉の種類がさっきからそれしかないぞ」
「イヤイヤこの光景を見ると他の言葉必要無いだろ」
一通り敷地内を走り、取り囲んである壁の内側がすべて『Hope Land』でこの先の成果次第でこの国から、最大今の二十倍の区画を使わせてもらえるように、なることなどを教えた。
中心部に戻り、バチカンから派遣された司教様から、英語教育が行われている様子などを見て回り、子供達が笑顔で過ごす環境に感銘を受けたようだ。
「今の目標は、この中の人達が独自で産業を興して、国際的にも自立していけるようにして行くことなんだ。俺たちの知識も足りないし、試行錯誤の連続だけどな」
再び拠点に戻ると美緒が来ていた。
「あら? 遊真君だったよね。こんな所来ちゃうと斗真さんに怒られないの?」
「一応本人が斗真さんに、話すまでは内緒だな。遊真、彼女顔位見たことあるだろ。浅田美緒さんだ。この『Hope Land』の表向きの責任者として、運営会社の社長をしてもらってる」
「初めまして、土方遊真です。浅田さんは俺の事、知ってたみたいですね。よろしくお願いします」
「目立たないようにしてるけど、翔の側に結構いるからね。遊真君の姿も時々見かけてたわ」
「どうだ、遊真、俺達は難民の受け入れと同時に『COLOR RANGERS』として、主に世界の不条理で拉致された人たちの救出をしてここで、社会復帰を目指してもらう活動がメインで活動してる」
「本当に凄いな、想像以上だったよ。俺、なんとか父さんを説得してみるよ」
「そうか、でも命の危険が常に付きまとう活動だから、よく考えろよ」
「解った」
「ちょっと翔、いいの? 」
「ばれちゃったからな、仲間で居て貰ったほうが安心はできると思う」
「そっか、翔の判断に任せるけどね」
俺と遊真は転移で名古屋に戻った。
さぁ来週はいよいよゴルフのプロアマトーナメントだ。
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