第62話 文化祭【前編】

 十一月に入り秋らしさを実感できるようになった。

 

 今週末は遊真と一緒に出掛ける事にしている。


 出かける先は、俺達が進学予定にしている高校の文化祭だ。

 アンナや香織も行きたがっていたが、GBN12の活動で予定が合わなかったので男二人で出かける事にした。


 まぁ俺がアンナや香織と一緒に行動したら、文化祭がパニック状態になってしまう気がするし、これでよかったと思う。


「遊真と二人で出かけるとか、いつ以来だ?」

「そうだな、中一の頃は結構あったけど、中二の夏休みが終わってからは二人だけってのは一度もなかったような気がするな」


 新幹線で東京まで行き、山手線に乗り換えて目的の学校まで向かう途中で唐突に質問された。


「なぁ翔。今までさ触れないようにしてたけど、俺達に言って無い秘密抱えてるよな?」

 

 あー遂にこの日を迎えたか……こんだけ身近に居る遊真が気付かないなんて事はあり得ないしなぁ。


「遊真、何時かは話さなきゃならない時期が来るとは思ってたけど、そうだなスマン」

「なんで謝る? 別に嘘を付いた訳じゃ無いだろ? 言って無かったってだけで」


「まぁそうだけど、巻き込みたくなかったってのが一番だな」

「そうか、それってさ、まだ秘密のままにしておいたほうが良いのか?」


「知るだけの覚悟があるなら、伝えても構わないが一生付き合わせる事になるぞ?」

「なんだそれ、じゃぁ何も変わらねぇじゃん。俺たちの付き合いは何も無くても一生もんだろ?」


「ん、そうか? ちょっと意味が違うような気もするけど、そうだな」

「なぁ父さんはきっと知ってるんだろ?」


「そうだな、斗真さんにはマジで色々お世話になってる」

「やっぱりな。教えろよ何があっても、びびんねぇし」


「俺、異世界帰りなんだ……」

「そっかぁ、結構重いな俺に何かできる事あるか?」


「『COLOR RANGERS』入るか? 信用できる男手が足りてない」

「あれも翔なんだな、だが俺の羞恥心がそれは我慢できないかもしれん」


「やっぱ恥ずかしいか? あの格好は」

「それもかなりだ」


 遊真の言葉に少し落ち込んだぜ。


「まぁ一応内緒でよろしくな、香織たちにもな」

「解ってるよ、まさか父さん『COLOR RANGERS』のメンバーとかじゃないよな? あの姿を息子として許したくない」


「斗真さんは違うけど、そこまで言うのかよ」


 とどめを刺されたぜ。


「今日は文化祭思いっきり楽しもうぜ!」

「そうだな」


 山手線で最寄り駅に到着して、通学路の確認も含めて歩いて学校へと向かった。

 恐らく同じ文化祭目当てであろう人の流れが、迷う事無く俺達を学校まで無事に到着させた。


 俺はキャップとマスクを着け、身バレしないように気を付けて、遊真と二人で色々な催しを見て回った。


 昼食を取ろうと思い、軽食喫茶の出し物をしてる教室に入って、頼んだサンドウイッチが来るのを待ちながら、遊真に「高校では何か部活したりするのか?」と聞いた。


「そうだな、部活はやらないと思うが、ボランティア活動なんかをやりたいと思ってる。最近ネットで話題になった『Hope Land』ってあるだろ? あそこの活動なんて、俺の理想なんだよな。将来そういう組織に匹敵するだけの難民支援とかできるような活動をする為の勉強をしたいと思う」


「そうか、何かゴメンな遊真。あれも俺なんだ」


 ガタンっと遊真の座ってた椅子が大きめの音を立てて、立ち上がった。


「マジか!」

「マジだ」


 その時頼んでいた、サンドウイッチと紅茶が来たので取り敢えず座った。


 いきなり立ち上がった遊真を、メイドコスプレのJKの店員さんが不思議そうな顔をして見て「あれ? テレビ出てませんでした? 松尾翔君と一緒に?」


 ヤバイ、ばれた。

 と思ったが、遊真は冷静だった。


「気のせいですよ。こんな顔良くいるし、な、カズオ」


 ……カズオって誰だよ、もう少しかっこいい名前使えよな。


「ミツオどこの有名人と間違われたんだ?」


「なんか、オリンピックで活躍した松尾の友達? と思われてるみたいなんだよなぁ」

「俺にも紹介してくれよ」


 その会話の流れで、やっとメイドさんは「ゴメン勘違いだったみたい」と言いながら下がっていった。


 サンドウイッチを食べる為にマスクを外して、紅茶と一緒に食べ始めると今度はJKが十人くらいで囲まれた。


「あなた、松尾翔君だよね? で、前にいるのは土方遊真君だよね?」


 やっぱりごまかすのは無理だった。


「遊真逃げよう」

「あー了解」


 チケット制で前払いだったから、すぐに俺は遊真と一緒にダッシュで逃げた。

 こんなとこで正体がばれたら、どんだけ人だかりになるか想像がつかないからな。


 ボクシング部の部室を見つけて駆け込んだ。

 ここでは、部員のインターハイチャンプとのスパーリングをイベントでやっていた。

 インターハイチャンプを二人も抱える名門部活らしいな。


 一分間、好きなだけパンチを出して、当てる事が出来ればジュースが貰えるらしい。

 

 ヘッドギア付けてTシャツ姿になれば、取り敢えず撒けると思って、遊真と二人で並んだ。

「遊真、ボクシング大丈夫か?」


「翔のを見て少しシャドーとか練習したことあるから、何とかなると思う。向こうは避けるだけらしいし」


 順番が回ってきて、遊真が先に行った。

 中々様になってるじゃん。


 てか、パンチ早くないか?

 明らかに、俺がアンダージュニアで戦ってる選手の中でも上位のスピードだぞ。


 相手のチャンプ君も遊真のスピードに少しびっくりしたようだ。

 それまで上半身だけで避けていたのを、キチンとガードして避け始めた。


 一分間では、とらえきれず時間切れになった。


「君何年生なんだ?」

「今中三です」


「もしこの高校に来るなら是非ボクシングやらないか」

「もし受かったら考えてみます」


 へぇ遊真も意外にやるんだなぁ? もしかして俺のそばに一番いる事多いし魔素の影響か?

 さて俺の番だ。


 俺の相手は体の大きい選手だった。

 二年連続でインターハイを制しているらしい。


 その時になって、さっきの遊真のスパーで有望な子が居ると連絡を受けて以前会った、輪島監督が姿を現していた。


 俺の方をちらっと見たが、遊真の方に話しかけに行った。

 さっさと終わらせて脱出しよう。


 重めのグローブだったので、感覚が解らないから少しシャドーで手を振ってみた。


「ブォン」と大きめの風切り音が鳴り、その場の空気が変わった。


 輪島監督も遊真に話しかけていたけど、こっちに目がくぎ付けになった。


「なぁあの子は君の友達かい?」

「あ、はいそうです」


「私の見間違いじゃなければ、松尾君のような気がするんだけどな?」

「……すいません本人です」


「いや、別に謝る必要はないよ。この目で直接見れるのは逆にラッキーだ」


(後編に続く)

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