誕生日

儒翠 之治

誕生日

 私は誕生日というものが嫌いです。それは昔からではなく、丁度2,3年前くらいからのものでした。


 昔はよく誕生日と聞くと、ケーキやプレゼントを貰えたもので、大喜びで跳ね回っていました。最も、中学校あたりからは現金5千円あたりで済ませられていましたが、それでも嬉しかったのです。

 

 中学3年生時代、私は家族内、と言っても母親と仲が悪い状況で、頼れるのは姉だけでした。 私は往生際の悪い意地っ張りな人間だった為、誕生日ケーキは必要ないと一言強く言い放ち、貰ったのは机の上に置いてあった現金だけでした。無論、私がその状況を望んで作り出したものでした。後悔なんてありません。それでも嬉しかったのです。

 

 いつからか、私は誕生日というものがだんだん楽しめなくなっていきました。ケーキをもらう理由、それにひねくれた回答を解してしまったからかも知れません。一般的にはケーキをもらうとおめでとう、と周りから祝ってもらえます。勿論当の本人は嬉しいでしょう。ですが、私の場合その ケーキ と おめでとう になんらかの悪意を感じてしまうのです。

 

 「よくここまで生きてきたな」

「死にたいと連呼してきてこの様か」

「早く死んでしまえ」

 などと、遠回しに伝わってくるのです。私の性格上、よく「死にたい」などという癖や自殺未遂、リストカットなどという経験を幾つかしました。だからかもしれません。だからこそ、周りの目線が恐ろしく感じてしまうのです。その笑顔の裏に何かが見えるのです、腹黒い人間の本性が。

 

 私は 妖怪 とやらが眼に見えたりします。気のせいかもしれません、妄想かもしれません。が、それは唯いるだけなのですが、時折一方的に話しかけてきます、私の人格を乗っ取ろうとしてきます。勿論種類にもよりますが。

 

 その妖怪が私に告げるのです

「早く断とうよ」

「死んだら楽だよ」

「敬愛している故人にも会えるよ」

 そんな言葉は、無論信じていないと言えば嘘になります。私はその妖怪を自分の一部として見る時もあります。 多くは背後にいるものを自分の一部と思っております。

 

 私には敬愛している人は故人なのです。その人に焦がれている頃には既に死んでしまっているのです。勿論有名な方が大半ですから、お墓や博物館など多くあります。そこに足を踏み入れたいとは今でも思います。 ですが、如何してもその妖怪は私に話しかけてきます。幾度となく。私の心に漬け込んで。

 鬱陶しいと思うこともあります。ですが、ここに生きていても仕方ないと思うのです。

 方法は幾つでもあるのに実行できない自分が醜くて仕方ありません。如何したら良いかも今の私には見当もつきません。


 誕生日。また歳を取った。厄日、凶。

そんな感情を死ぬまで持ち歩くくらいなら、今ここで命を断ってしまいたい。 そう思う私でも、何故ここまでして生きるのか、怖いんだと思います。愚かです、もうこんな自分にお別れするためにも、死んでしまいたいと思ってしまうのです。

 

 少しでも自分を汚して、生きている価値を落としたい。その感情が高まっているから自傷行為をしてしまうのです。分かっています、ですが自分じゃ制御できません。 ですからその点では、少し妖怪にも感謝しています。誕生日を迎える前に命を断てるようにして言ってくれているのですから。


 

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誕生日 儒翠 之治 @genoaide

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