第23話 現実を侵食する悪夢
夜のパトロールでは一切ナイトメアレヴナントを見かけることなく、珍しく平和に朝を迎えることができた。それは喜ばしいことなのだが、イズルやクイーンという強敵が全く行動しなかったということであり、明里達は不気味さと嫌な予感を感じている。
「戦闘が無かったってのは良いんだけどね・・・被害者も居ないということだし」
「そうですね。でも何かしら企んでいる敵が動かないというのもヘンですよね」
とはいえナイトメアレヴナントの潜伏場所など知らないので先手を取ることはできない。
「このまま何もせずに居なくなってくれればなぁ」
しかしそうはならないことは明里とて分かっている。魔結晶を手に入れたイズル達が黙っていなくなるわけもなく、近い内に必ず仕掛けてくるのは予言者でなくても言い当てることができる。
「二人して深刻そうな顔しちゃってどうしたの?もしかしてお弁当忘れた?」
ユメクイの世界とは無縁の千冬は能天気そうに明里の机に自分の弁当を置く。すでに時刻は昼となっており、生徒達の昼食の時間は始まっていた。
「いや弁当はあるよ」
「それじゃあどうしたの?」
まさかナイトメアレヴナントのことで相談するわけにもいかず明里は言葉を濁す。
「その・・・私と美月を困らせるヤツがいてさ」
「?ストーカーみたいな?」
「とは少し違うんだけどね」
「ほーん・・・まあ悩み過ぎないほうがいいよ。大人に相談するとかさ」
「大人・・・大人ねえ」
ユメクイで頼りになる大人など周囲には存在しない。だからこそ自分達で解決しなければならず、深刻にもなろう。
しかし千冬に心配かけても仕方ないので、明里は自分の弁当を取り出して普段通りにしようとした、その時であった。
「なんだ、この感覚は・・・!」
頭にズシンと響くようなプレッシャーに襲われた。それは美月も同じようで明里に目配せをする。
だが異変はそれだけではなかった。
「千冬、どうした!?」
目の前の千冬が頭を抑えて呻きだしたのだ。苦し気に震える手はまるで何かに憑りつかれたかのように小刻みに動いている。
「明里さん、他の皆さんも・・・・・・」
「どうなっているんだ!?」
千冬以外にも他のクラスメートたちも同様に苦痛に悶えており、次々と倒れて床に転がる。
あまりにも異常な光景に明里と美月は戦慄してナイトメアレヴナントとの戦いなど比較にならないほど恐怖を感じていた。
「明里・・・・・・」
「しっかりしろ!千冬!」
救いを求めるように明里に伸ばされた手は力なく机に落ち、千冬は気を失って突っ伏した。
「尋常ではありませんよ、これは。しかもあの感覚は結界に入る時の感覚に近いです」
「ということはイズル達が何かしたのか」
そうは言っても昼にナイトメアレヴナントが活動するなんて美月さえ聞いたことがない。ヤツらは陽が出ている間はまともに行動できないはずなのだが。
「外が暗くなって・・・・・・」
次第に校舎の外が薄暗くなり、霧のようなモヤがかかって窓から街の様子が見えなくなってしまった。
「常識を超える出来事が起きているっていうのか・・・・・・」
「かもしれま・・・明里さん、後ろ!!」
「何っ!?」
美月の指さす先、明里が振り返るとそこにはイービルゴーストが佇立していた。現実の世界で、これだけはっきりと実体化するように現れるなど前代未聞である。
「まさか、そんなバカな!」
明里は霊器を取り出そうとしたが、アニマシフトしていない状態ではただの人間だ。イービルゴーストに抱き着かれてエネルギーを吸い取られる。
「くそっ・・・!」
「アニマシフト!!」
そのピンチに美月が肉体から魂を分離してユメクイとなった。そして刀を装備し、ナイトメアレヴナントを突き刺して明里を救出する。
「アタシも・・・アニマシフト!」
明里もまたユメクイとなって大剣を取り出す。
魂の抜けた自分の肉体が美月の体と寄り添うように床に寝ているのを見下ろしながら、周囲の警戒を行ってナイトメアレヴナントの奇襲に備える。
「あり得ないことですが・・・この学校自体が結界の中にあるのかもしれません。だからナイトメアレヴナントが襲ってきたのでしょう」
「結界か・・・けれど結界特有のあの廃村のような光景にはなっていないけど・・・・・・」
「理由は不明ですが、今までの結界は異相空間のようなフィールドを展開していたために独自の景観になっていたのでしょう。しかし今回は現実世界を侵食するように展開されているために、元の姿を保ったまま結界に包まれているのかもしれません」
「なんてこった・・・よく分からんが、ついに敵は本気を出してきたってことかよ」
通常ならば人間の中に結界を作るのが精一杯なはずだが、クイーンとやらが何かしらの手段で大規模な結界を展開したのだろう。
「幸崎、稲田!無事だな!?」
「三島か。戸坂も」
「一体どうなってやがる。昼に、しかも堂々とイービルゴーストが闊歩しているなんてよ」
「わっかんね。でも他にもいるはずだし、倒さないと」
「そうだな・・・あたし達がやらなきゃ学校中の生徒がエネルギーを吸われちまうもんな」
恐らくナイトメアレヴナントは巨大結界の中に人間を閉じ込めてエネルギーを吸い出そうとしているのだ。それならば阻止するのがユメクイの使命である。
「とにかく守りを固めて・・・って、誰です?」
乃愛と広奈の後ろから一つの影が現れた。それはナイトメアレヴナントではなく人間の姿をしている。
「ワシじゃよ」
「誰!?って、校長先生!?」
なんとそれは校長だった。しかもユメクイの力を感じる。
「いやあ久しぶりにアニマシフトしたわい。おかげで若いころを思い出したよ。あの頃は美少女として名を馳せていての・・・・・・」
「校長先生もユメクイなんです!?」
「ああそうじゃよ。しかし衰えには勝てず引退していたのでな」
「初耳です・・・・・・」
あまりにも衝撃的なことが続いて美月も呆然としている。しかし事態は待ってくれない。
「この学校はワシに任せい。少しは戦えるはずじゃ」
「えっ?じゃあ頼みますが・・・・・・」
「外にもナイトメアレヴナントが出現しているようじゃ。もしかしたら街全体が結界に包まれているのやもしれん」
「それなら急がないと」
美月達は目を合わせて頷き、ここは校長に任せて外にいるナイトメアレヴナントの対処を行うことにした。どこかにイズルやクイーンがいるはずで、それを討伐すれば解決できるかもしれない。
「でも本当に大丈夫なんですか?アタシ達でも苦戦することがあるのに・・・」
「ワシはこれでもベテランだった。仲間内からはまるで妖怪のように舞う悪霊ハンターと呼ばれておっての。うひょひょひょひょ」
それは褒め言葉ではなく蔑称だったのではないだろうか。
「あっ・・・新木高校の七不思議・・・・・・」
校長が妖怪だというウワサが流れており、最初に千冬からナイトメアレヴナントのウワサを聞いた時に明里は校長のウワサと勘違いした。
「学校を守るのが校長の役目じゃ。若い者達に無理をさせるのは忍びないが、他に託せる者もおらん」
「敵は必ず倒してきますよ」
「そして必ず生きて帰ってくるんじゃ」
「はい」
明里達は窓をすり抜けてグラウンドへと飛び降りる。結界外なら飛行することもできるが、結界内では人間のように地に足を付けなければならない。
「マジで街全体に出現しているのか・・・・・・」
イービルゴーストやモルトスクレットが迫ってくる。
見慣れた街は変質してしまったようで、まさに地獄のような状況だった。
学校を後にした明里達はナイトメアレヴナントを撃破しながら街の中心部へと向かっていた。人が多く集まるであろう場所にはナイトメアレヴナントも集まると考えたからだ。本来なら四人が別行動して各地の敵を叩けばいいのだが、この異常事態で別行動するのは命取りになる。ただでさえ強敵が潜んでいるかもしれず、各個撃破されるのは火を見るより明らかだ。
「フッ・・・やはりやってきましたか」
そんなユメクイ達をイズルが視界に捉える。いつか復讐しようと思っていたが、今こそそのチャンスだ。
「今日こそ年貢の納め時です!」
「イズル!?ってかなんでそんな言葉知ってるんだ・・・・・・」
ビルの上から急襲するイズルは腕のブレードで明里に斬りかかる。
「我々ナイトメアレヴナントが世界を手にするのも時間の問題です!」
「んなことやらせるか!」
大剣とブレードがかち合い火花が散る。明里はイズルのパワーが以前より増していることを実感しつつも引き下がらない。
「この街を結界で覆ったのか?」
「そうです。それによって我らは活性化し、より多くのエネルギーを集めることができるのです」
二人は一度距離を取り、再び切り結んで鍔迫り合いを演じる。
「エネルギーをそれだけ集めて何を!?」
「言ったでしょう?世界を手にすると。まあ安心してください、目的達成できるまでは人間共は殺さずエネルギー源として生かしてあげますよ」
「コイツ、人を弄ぶなど・・・それに、世界を手にするなんて現実的には思えないけどな」
「あるのですよ。その方法が。まあ教えはしませんがねえっ!」
活き活きとしているイズルは明里を弾き、配下のモルトスクレットと共に挟撃をかけた。動きの素早い両者に囲われてさすがの明里も焦りを隠せない。
「けれどもさ!」
明里も幾戦もの戦いをくぐり抜け、もうベテランの域に達しているユメクイだ。かつてのようにモルトスクレットに隙をつかれることもなく、槍の一撃を躱して逆に大剣で真っ二つにし、イズルの攻撃も紙一重で回避に成功した。
「やりますねぇ・・・ですがいつまでも避けられますかねえ!」
追撃を行おうとしたイズルだが、背後から美月に襲われてそちらに意識を向けざるを得なくなってしまった。
「アナタはここで倒します!そして街を元に戻してもらいます!」
「そう簡単にはやられませんよ!」
二人のユメクイをいなしながらイズルはキューブを取り出した。内部にはナイトメアレヴナントが収容されており、それを地面に放り投げる。
「また増援か!」
キューブは巨大化し、パカッと一面が開いて多数のナイトメアレヴナントを放出した。
「さあ、まだまだ戦いはここからですよ!」
「さっさとコイツを倒さないとヤバいな・・・・・・」
イズルはこうして仲間を呼ぶことができる。つまりナイトメアレヴナント発生源の一つということであり、早急に潰さなければユメクイはますます追い込まれてしまうということだ。
明里と美月は呼び出された増援を切断しながらイズルに接近していく。
「やっと私の努力が報われる時が来ているんです!」
「こんな努力が報われてたまるか!」
ブレードを弾き、明里の大剣がイズルの胴を掠めた。最初に戦った時より明里が成長していることに焦りを感じながらも反撃の隙を窺い、同時に美月の動向も視界に捉える。
「お前達の負けだ!こんなナイトメアレヴナント如きで止められると思うなよ!」
「我が主が合流すればアナタ達など一気に潰してくれることでしょう。それまで踏ん張ればいいこと!」
ナイトメアレヴナントはこの区画だけでなく各所に配置してある。それらとクイーンがエネルギーを回収する時間さえ稼げれば戦術的には勝ちなわけで、今のイズルはユメクイを引きつけておければそれでいいのだ。
復讐を誓っていたイズルだが、戦力を分散させている現状では明里達に勝つのは困難だと判断して自らに与えられた役目を果たすべく防戦に徹した。
「最後に勝つのは・・・私だ!」
今はまだ我慢の時だ。急ぎ過ぎて事を仕損じてはつまらない。
「クイーンだかなんだか知らないが、もう終わりにしてやる!」
クイーンが到着する前にケリをつけたい明里は大剣を力任せにブンまわす。
ぶつかり合うユメクイとソルシエール。果たして勝利を掴むのは・・・・・・
-続く-
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