第三回召喚実験報告書
――零元五十年年、冬の月
長きに渡る準備期間を経て、遂に第三回召喚実験が実行された。
対象は日本国の中心部と思わしき地域からほど離れた場所、その中にある多数の気力反応が定期的に集まる地点。
学校というのは、七日の内の二日は休みになるという。他にも、夕刻を過ぎれば大体の人々は帰宅し、あまり内部には人が残っていないとのことだ。
そういった常時多くの人間が存在している病院や、他の施設との違いを徹底的に調査した上で、我々は今回の召喚目標地域を選択した。
前回の失敗の原因は上層部の無知、言わば情報不足が原因である。
同じ轍を踏まないためにも、そういった失敗に繋がる可能性は徹底的に排除すべきだ。
他にも我々が注意を払ったことや、この準備期間で確立させた技術は山のようにある。
だが、ここにそれを記すことはただの自己満足にしかならないし、既に上層部に提出した報告書と同じ内容を書くのも億劫だ。
ここに記すのは、そういった我々の努力がどのような結果を生み出したか、という部分についてだけでいい。
そう……我々の入念な準備は遂に結実し、戦力となる若者たちの召喚に成功したのである。
上層部の命令通り、人数は約三十名程度。若い男子が十七名、女子が十五名、中年の男性が一名の計三十三名が召喚に応じて大和国に呼び寄せられた。
この三十三名のほとんどが大和国の人間の平均を軽く超える気力を有しており、彼らに武神刀を与えれば強大な戦力として運用することが可能であるとの見通しが立っている。
その中でも八名の若者が高い気力を有していることが判明したので、我々は彼らを中心としての集団を形成することを上層部へと進言した。
上層部も我々の提案を飲み、大和国初の異世界人部隊の結成が認められることになった。
上層部からすれば、目玉が飛び出るほどの気力を持つ若者たちが一気に三十三名も増えたことを大きな収穫だと思っているようだが……我々が最も喜んだのは、そこではない。
我々が最大の幸運だと思っているもの。それは、若者であるが故の状況への適応性である。
第一回の召喚に応じた異世界人たちは、状況も判らないままに手にした銃を乱射し、多くの犠牲を出した。
しかし、今回の若者たちはそういった行動は取らず、なにがなんだか判らない状況ながらも我々の話を素直に聞くという反応を見せたのである。
これには戦場で殺気立っていた人間と、平穏な日常を送っていた穏やかな気性の人間という差があるというのは間違いないだろう。
だが、そこから先に我々の説明を聞いた時、この若者たちは異世界召喚という異常な状況をすんなりと受け入れてくれた。
中にはむしろこの状況を喜んでいる者も居て、こちらが意外に思ったくらいだ。
適応性、順応性が高いということは、第二回に召喚した異世界人のように心労で体調を崩すこともない。大和国の風土や自分たちの状況に早く慣れてくれれば、こちらとしても色々なことがやり易くなる。
無論、一部の若者たちの中には戦いに出ることや異世界に召喚されたこの状況を受け入れられない者もいるようだが、そういった者たちもじきにこの空気に慣れ、その感情を薄れさせるはずだ。
その証拠に、幽仙さまをはじめとした七星刀匠が打った武神刀を渡された瞬間、若者たちの間には確かな興奮の感情が溢れていた。
未知の体験というものには、誰だって胸を躍らされるもの。恐れ知らずで好奇心旺盛な若者であればそれは猶更の話。
この順応性を訓練でも活かし、一日でも早く気力を使いこなせるようになってほしいものだ。
この異世界人部隊が戦果を挙げれば、我々の研究に意味があったことが認められるはず。
お力を貸していただいた幽仙さまたちの恩義に報いるためにも、第四回の召喚実験を現実のものとするためにも、彼らには死ぬ気で働いてもらうとしよう。
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