未定 [Flower Voice Collection 小説シリーズ1]

はいしょう 虹音

第1話 Reset

紫色の空を知った春。

その足でルカのところへ向かった。


「アキー!」

ルカは笑顔で駆け寄ってきた。

いつもの公園のベンチに腰掛けた。

何も言わない俺に何度か目配せしてから少し顎を引いたルカが言った。

「・・・アキ、どうした?」

俺はまぶたをゆっくり閉じて、代わりに口を開いた。

「ルカ、別れよ。」

「嫌。」

その言葉を察してたかの様に即答した。

「なんで別れるの?あたしなんかした?悪いとこあったら直すから。」

「そんなんじゃない。」

「なんで?」

「理由は特にないんだけど・・・強いて言えば・・・自分の夢、本気でやりたくなった。」

そう言って俺は顔を上げた。

ルカはしばらく俯いて考えていた。ルカにも大きな夢があるから言っていることがわかるのだろう。


黙るルカに言った。

「ごめん、ルカ。戻るつもりはない。」

答えはもう決まってる。ルカにノーはなかった。


しばらくの沈黙の後、口火を切ったのはルカだった。

「・・・勝手にして。」

涙声でそう言い残して歩いて公園を後にした。


何も感じない自分に少し苛立ちさえ覚えた。

しばらく公園で空を眺めた。この半年のいろんな出来事が頭をよぎった。


認めたくない憧れとそれを取り繕うように付き合っていたルカ。正直、俺は無理してた。

目を瞑って最後に浮かんだのは痩せ枯れたあの人が指した空の光景。

そんな想いを捨てようと前を向いて立ち上がった。

ふとキレイな髪の長い女の子がじっとこっちを見ていた。


5秒ぐらい目が合ったかと思うとその子はふわっと立ち去った。

少し気になりながらも、俺はその足でエンカレのスタジオへ向かった。


無性にギターが弾きたかった。今ならいい曲が書けそうな気がした。

別れを決めたのは俺。でも、振られたみたいな胸の痛みがあった。

その胸の痛みを俺は曲にしたかった。


スタジオに着いてそのままギターを持った。

イスにも座らずただギターを弾いた。

「あ。」

弦が切れて左手の甲を切った。

滲んだ血を見ても何も感じない自分がいた。そんな自分に少し嫌気がさした。


時間が止まった様に感じた。でも、今日はやめる気になれなかった。

久しぶりに指が擦り切れるほど弾いた。弾きまくったって何も生まれてはこなかった。


まだやれる。まだやれる。まだやれる。まだやれる。

そう心の中で呟いて、倒れそうになるまで弾き続けた。


「・・・・・」

何度やっても今の自分の気持ちがメロディーになることはなく、虚しさのあまりネックを持つ手がすり落ちた。

そのまま茫然とした。どれだけの時間が経ったかはわからない。


しばらくしてスタジオを後にした。

帰りたくもない家に向かった。


「あっ」

途中立ち寄ったコンビニに見たことある女の子がすれ違い様に声を発した。

「えっ?・・・・・あっ」

ほんの数秒後にその女の子が公園で見かけたキレイな髪の長い女の子だと気づいた。

彼女はにっこり笑って静かに去って行った。

髪のキレイさと穏やかな笑顔が印象的だ。


俺はまるでジェットコースターみたいに過ぎた1日を終えた。

何故か眠れた翌日。すっきりしたまま学校へ向かった。


学校へ着くなりすぐに昨日曲が書けなかったスタジオに向かった。

スタジオではミクが既にギターの練習をしていた。


「アキ君、おはよっ!」

「ああ。おはよ。」

「もしかして昨日スタジオ来た?」

すかさずミクが笑顔で話しかけてきた。

「なんで?」

「切れた弦が捨ててあったから・・・」

そう言われて昨日のことが蘇る。

何も答えず残りの弦も全て交換し始めた。

「ほら。弦・・・切れてる。」

隣に立ったミクが少しのぞき込むようにしてネックを指差した。


それでも俺は不機嫌さを隠さなかった。ただ黙って弦を替えていた。

10分後にはギターをアンプに繋いで、無心で好きなフレーズを繰り返し弾いていた。


~♪

メロディーがなんとなく出てくる。

トンネルを抜けたかの様な爽快感。そんな気分で今日は弾いていた。

F#が心地いい。


満足できたところで、イスに座った。

すかさずミクが向かいのイスに座る。


「いつもの練習しようか?」

2人で一息ついたところで、自らミクに言った。

一瞬驚いた顔したミクはすぐに満面の笑顔で顔を立てに振った。

「うんっ!やろ!」


飲みかけのペットボトルをテーブルに置いていつものイスに並んで座った。

「Tu Tu Tu~♪」

クリック音に合わせて、躰が縦に動く。その波に乗るかのように指を動かす。

ミクの指の動きに合わせてリズムをとる。

何も言わずに休憩の呼吸が入る。

「早くなったな。」

「ん?何が??」

「ミクの上達っぷりが。」

「えっとねぇ、アキ君に早く追いつきたくて家でもいっぱい練習してる。」

そう言ってミクは照れた。

「えらいな。家でも練習って。」

「アキ君だってギターには凄くストイックじゃん。」

「ギターにはね。」

「・・・・・・。」

・・・ギターには。それ以外のことには全然ストイックになれない。興味がないから。

ちょっとの沈黙のあと、

「アキ君!もうちょっと続きやろ?」

そう言われてまたスタンドからギターを取った。


俺とミクはその後夕方まで籠って練習した。

「俺、そろそろ帰るわ。」

そう言ってギターをバッグにしまった。

「あっ、えっ、アキ君待って。ミクも帰る!」

慌ててミクもギターを片付けた。


スタジオを後にしてキレイな満開の桜がオレンジ色に染まる。

ふとミクを見るとニコニコしながら空を眺めて歩いていた。


小さい体にギターを背負ったミクが子供に見えた。

「キレイだな。桜・・・。」

「うんっ!」

重そうに背負うギターを一生懸命背負って歩くミクがかわいらしかった。

「桜ってなんでこんなにキレイなんだろうね。」

答えに困った。正直、今の俺は桜にいろんな色があると知ったから、理由を考えたくもなかった。


「明日もスタジオ来る?」

「まだわかんない。」

「じゃあ・・・明日もスタジオ来るんだったらまた練習付き合ってくれる?」

「あ~、行ったらな。」

他愛もない話をしながら、気付けば駅についていた。

「じゃあまたな」

不意に裾を掴まれて、俺は振り返った。

「・・・だいじょうぶ?」

ミクが不安気な顔でうつむいていた顔を少し上げた。

「だいじょうぶ、だけど?」

俺は相変わらずの顔で言った。

「わかった。また明日ね。」

そういうとミクはスタスタと先に改札へ入っていった。


ミクとは反対の電車に乗った。最寄りの駅を通り越して、二つ先の駅で降りた。

意味もなく、そこから歩いて帰りたくなった。

途中の公園を通った時、噴水が上がっていた。


噴水なんて久しぶりだ。

心の中でつぶやいた。しばらく見ていたくなった。

もう陽が落ちて街頭が灯った。

気付けば噴水の前のベンチに座りながら、俺は、声を上げて泣いていた。

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