KARTE ルノアール page⒉

 神父様の名はナターナエル・マルクス・フォークト。

 白髪なのに、何故だかその表情は若々しく、身体は肉付きが良かった。

 ただ、貧弱な雰囲気を漂わせる、不思議な方だった。


「君は……、ある企画に参加してみないか」


「企画、ですか」


「ああ、私達の力を、権力を、何もかもを見せつけるために。……そして、肉体と魂を奪う瞬間を、君は知っているね、ルノアール?」


 シビル・ルノアール。本名は忘れてしまったので、私に与えて貰った名前。もちろん、命名者は彼。


 青い、透き通った瞳を見つめていると、吸い込まれそうになってしまう。だから、あえて私は視線をわずかにずらす。思考が読まれてしまいそうで、なんだか、怖いかもしれない。


 そう、私は当たり前に殺人を犯す快感を、目的の達成感を、虐殺する瞬間を、全てを知っている。


 わずかにうなずくと、神父様は納得した表情を浮かべた。


「そう答えると信じていたよ。……よし、君は地下1階に配置する。存分に


 それだけの話だった。この時間の中での会話の意味は、いくら考えたって謎のままになる。

  その時、扉をノックする音が聞こえてきた。部屋の中に入ってきたのは、白いスーツを身にまとったボーイッシュな女性と、いかにも旅行中という雰囲気のアジア系の男性だった。


「神父様、入信希望の方ですよ」


 女性の方は、いかにも猫撫で声という感じで姿と性格が噛み合ってない。男性は、20代前半だろうか、随分と若い。ただ、今は夏なのに長袖。潔癖症なのか、よくわからなかった。私にとって肝心の目は、感情をほんの少しだけ含んでいた。


「……幸せそうですね」


 神父様に全ての視線を注いでいた男性は、私が発した言葉に耳を傾けた。


「……どうして、そう思うんだい?」


「貴方の求めているものが、今、手に入ろうとしている瞬間を感じているからですよ。貴方の目は……、私の好みじゃない」


「好みじゃないから? それは君の勝手だ。……そんなことを言っているということは、に執着しているんだね。

 僕は文山フミヤマ玲生レオだ。君は?」


「シビル・ルノアール。16歳」


 図星であっても、損得は何もないのに、ぶっきらぼうに名乗る。

 次に、神父様が口を開いた。


「では、レオ、


 もう、この地下室には用がなくなったので、私は部屋を後にした。

 それに、私もを長時間嗅いでいると、しばらくの間吐き気が襲ってくる。


 協会の外に出ると、空はすっかり茜色に染まり切っていた。

 あの男―――文山玲生―――と、数時間後に再び顔を合わせるとは思いもしなかった。

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