「恋のビギナーなんです (T_T):これはゾンビですか? オブ・ザ・デッド ED」 ご両親は、ラブラブなのですわね。

「お待たせしました」


 イルミネーションに囲まれて、私は唱子さんを迎える。


 クリスマス当日、私たちはショッピングモールまでやって来た。お互いのプレゼントを探すのだ。


「CDは、ナシに致しましょう」

「被る可能性もあるもんね」


 どっちも音楽をたしなむ関係上、音楽系はダブってしまう可能性が高い。


「持てない殿方だと、ベストセレクションのカセットテープなどをプレゼントなさるのでしょうけれど」


「わー。それウチの父だー」

 私が乾いた笑い声を上げると、唱子さんが低姿勢に。


「も、申し訳ありません! モテないなどと決めつけてしまって」

「いいのいいの。実際、父なんて母しか相手にしてくれなかったので」


 今でもリビングのCDコンポからは、父フェイバリットアニソン集が流れる。学生時代から父がかき集めた大量のCDが、コンポに詰まっているのだ。

 それを母は、喜んで聴く。交際当時を懐かしんで。


「ご両親は、ラブラブなのですわね」

「身内から見ると、気持ち悪いよ」


「そうでしたのね。ところで、ご両親の馴れ初めは?」

 食い気味に、唱子さんが尋ねてきた。


「え? そんなこと聞きたいの?」

「参考に致したいのです。優歌さんのこと、もっと知りたいですわ」


 いつになく真剣な、唱子さんの眼差しが突き刺さる。 


「わたくしは、恋のビギナーなので」

「これゾンかー。懐かしい」


『恋のビギナーなんです (T_T)』という歌は、『これはゾンビですか?』の二期EDである。顔文字まで曲名だ。


「大学の音楽サークルで一緒になったみたい。その頃は、エヴァブームでアニソンが認知され始めてた頃だよ」


 ただ、アニソン界は「一般曲タイアップすれば、歌とドラマとあってなくてもいいのか」が、問題視されていたらしい。

 私たちの時代では当たり前になっている現象が、意見を二分するほども軋轢を呼んでいたという。


「お父様は、どちら側でしたの?」

「中途半端に擬態していたからね、ハブになってた。でも、お母さんも同じように孤立していってさ」


 結局、二人してマイナージャンルばかりをかき集めては自己満足に浸っていたという。仲間とつるもうとせずに。


「当時は同族嫌悪が凄かったからね。オタップルってだけで風当たりが強くて」

「たくましく愛を育んでおられたのですね」

「好意的な言い様をするんだね。ウチの両親、当時のお友だちなんて誰もいないよ」


 今思えば、それがマイナージャンル進出への一歩だったのかもしれない。


「優歌さんがマイナージャンルに足を踏み入れるのは、遺伝子レベルで決定していましたのね」


「そうかも」

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