魔に虚ろうは:法か術
トマトと鳩と馴鹿の煮込み物
プロローグ#0
「『レオノティスの名のもとに。燃やし尽くせ』」
詠唱と共に構えられた細腕から花のような焔放たれ、咲き誇り、目の前の竜を跨る少女を原型残さぬ程に燃やす。
だが
「ラグスベルズイーサ」
呟くように。歌うように放たれた
「まだだ!!サンタンカの名のもとに、消し飛ばせ!!」
突如晴天のはずの空から法則すら無視して無数の雷が降り注ぎ少女を消し飛ばそうとする。
だが…
「面白みもない」
今度は呪文すら歌わず防がれる。
「レベルが違いすぎる…」
女とて今まで潜った修羅の数は両腕では足りないくらいには戦っている。
だが今まで戦ったどの強敵も霞むほど、目の前竜に乗った少女は強かった。
「今度はこちらから行こうかしら?ウルゲルシゲル」
取り巻くように魔力が集まり、魔法…いや別世界の魔術は火球を繰り出す。
しかし規模が違う。
まるで太陽かと見紛う様な大きさ、そして熱量。
迎撃を諦めた女は即座に撤退を選ぶが遅い。
ただ落とされた火球は触れるもの全てをその熱量を使い消し飛ばした。
□□□
「ふう...」
「お疲れ様でした」
その声は少女の下…すなわち竜から聞こえた。
「あいつの命で異世界に来てみたが存外大したことは無いな」
「そうですね賢者アイリ様」
のっそりと竜が首を上げて賢者と呼ばれた少女に頬ずりする。
「こらこら油断するんじゃない。例え雑魚しかいない世界であっても、だ」
もっとも、言葉ではそう言っているがむしろ竜に頬ずりしているのは少女のほうである。
「おーおーわざわざ異世界から来てまで化け物と盛り合うとはのんびりとしたものだなぁ…侵略者ってのは」
「誰だ!」
「んー?俺か?そうだなぁ通りすがりの教師とでも名乗っておくわ!以後はないのでさようなら」
手入れされいない無精髭にシワが目立つワイシャツ。一見するとただの労働者にしか見えないが自身の脳が油断するなと伝えてくる。
慌てて詠唱しようとするが間に合わない。
「『ブラックロータスよ。かの者の人生を終わらせろ』」
雷鳴のような音が響き、何かが竜を貫いた。
瞬間、5mはある竜の8割は消滅し乗っていた少女は地面に叩きつけられ、先程まで発情していた竜の首だけがベチャリと転がる。
「おーおー試作品とは言ってたがこれは便利だ」
いつの間にか男の手には鈍い鉄色をした筒状の何かが握られており、そこから煙が吹き出している。
「何をした!」
「言うわけねぇだろうが」
「イスハガッ…!!っああああああ」
またしても雷鳴のような音が響き、少女の片腕を吹き飛ばす。
「そしてお前にも言わせる訳がねぇだろうが」
「貴様っ!」
「誰だか知らんが…」
「嫌だ」
直感的に理解する。
「まだ死にたくなんて」
私の200年の人生は終わると。
「さよなら。『ハナミズキよクソ野郎に仕返しの時間だ』」
男はゆっくりと構え、撃ち抜いた。
□□□
「先輩よく殺りましたねこんな化け物」
「んー?つっても盛り合うくらいには油断してたからな。簡単だったよ」
「そうですか…。しっかしなんなんですかねぇ。未知の魔法に未知の魔力粒子。神秘に溢れる世の中とはいえこれは異質ですよ」
「まあそこら辺は解剖部がなんとかするだろうさ」
厳重に拘束され、口を縫い付けられた少女を前にそれでも男たちは冷酷だった。
「ですかねー。あ、時間大丈夫ですか?」
「げ、やっべ遅刻じゃねぇか!」
「あー今回は後始末しとくんで早く行ってあげてください」
「すまん!ありがとよ!」
「……やれやれ先輩は相変わらず落ち着きが無いなぁ。生徒さんが心配ですね」
後輩の呟きに返事は、無かった。
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