523話 女子旅 part2 ⑦ (本性あらわる!)




「山の中のお菓子の家の庭にあるキャラメリゼ固めナッツの壁の納屋の奥には牢があり、その中には猫耳の男、ランが囚われていました」


「え?ラン?ヘンゼルじゃなくて?」


「名前は何だっていいでしょ」


「……いいけどさ」


アイリーンは サクラ、イシルに続き、ランの名前を借りて話の先を続ける――






檻の中の囚われの男、ランは、とても綺麗な顔をした猫耳男で、サクラはしばし言葉をなくして見惚れてしまいました。


そんなサクラに ランが 極上の笑みを浮かべて話しかけてきます。


「おい、アホ面」


「へ?」


「出せよ」


「えっ?お金?」


「チッ、、アホじゃなくバカかよ。状況見りゃわかんだろ、こっから出せ」


何ということでしょう、顔はまたたく星のごとく綺麗なのに 言葉使いは地を這う獣のごとく粗暴。

どこの極道か、態度はモラハラパワハラ最悪最低俺様猫様魔王様(←アイリーン談)


不躾な態度のランに サクラは訝しげに返答する。


「出せといわれましても、、悪いことしたから牢にいるんじゃないの?」


「ちょっと家を食っただけだろうが」


いや、食っちゃダメでしょ、人の家。

住居侵入、器物破損!

現世なら食い逃げは、窃盗罪、強盗罪、場合によっては詐欺罪に問われますよ?


「じゃあ、ちゃんとおばあさんに謝ったら?そんな態度じゃなく、心からの謝罪をすれば おばあさんはきっと許してくれるよ?」


「……お前」


ね?と サクラはランに笑いかける。


「アホでバカでマヌケかよ」


おっと来ました三連発。


「お前、アイツの正体知らねーの?」


「え?正体?」


「アイツはな、最近出没しているヤマンバだぞ」


「あの、、優しそうなおばあさんが!?」


嘘だ、と サクラはランに抗議する。


「ここから出たいから嘘ついてるんでしょ?おばあさんは、私にお菓子の家の作り方を教えてくれる優しい人だよ」


「へぇ、あのばーさん、何か教えてくれたか?」


「いや、まだ……」


サクラは水飴汲みして、金平糖集め、薪割りをした。

お菓子の家の作り方は基本の部分を サクラが勝手に見ただけだ。


「今はおばあさんの具合が悪いから、私が手伝ってあげないと大変なの、だから……」


だからきっと、体調が良くなったらあの本を貸してくれるよ。


「とんだお人好しだな、大丈夫かよお前、そんなんで世間渡ってけるのか?」


「う///うるさい」


そりゃ、消火器買いそうになったけどさ(←制服に惑わされた)

浄水器買いそうになったけどさ(←ビーカーの水の色の変化に騙された)

変な美顔器買いそうになったけどさ(←信じてた友達が詐欺師だった)


「もうじき日が暮れる。嘘だと思うなら ばーさんの部屋こっそり覗いてみろよ」


納屋を出たサクラは 嘘だと思いながらも こっそりおばあさんの部屋の方へ回り、気づかれないように窓の外から部屋の中を覗きこんでみた。




おばあさんは部屋の中にいた。


″シュッ……シュッ″


しゃがみ込んで何かしているようで、背中がゆっくり前後に揺れている。


″シュッ……シュッ″


この音は何?何かを擦る音がする。


(具合が悪いのに、何してるんだろう?)


″シュッ……シュッ″


おばあさんは向こうを向いていて 顔がみえない。


″シュッ……シュッ″


″キラッ″


(ひっ!!)


おばあさんが顔をあげ、手に持っていたものをかざすのを見て、サクラは声をあげそうになった。


(包丁!?)


おばあさんは 包丁を研いでいたのだ。


「ふふふ……」


おばあさんが包丁の研ぎ具合を見てニヤリと嗤う。


(うわっ!)


その顔は日の光のもとでは先程の優しいおばあさんだが、光の届かない陰に入ると、口は耳まで裂け、のぞくギザギザの牙は鋭く、恐ろしく大きな目は爛々と輝き、獲物を狙う獣のような顔をしていた。


(ヤマンバ!!?)


ランの言うことは正しかったのだ。


サクラは腰を抜かしながらも 這うようにして納屋へと引き返した。


「や、や、ヤマンバ、、ヤマンバだったよ、どうしよう」


サクラは怖くて、ランのいる牢にすがりついた。


「言った通りだろ」


こくこくとうなずくサクラ。


「何してた?ばーさん」


「包丁、研いでた」


「……喰う気だな」


「えっ!?ランを!?」


「お前だろ」


「えっ!?私!?何で!?」

!!)


「ばーさんは俺を肥らせてから喰う気だったんだよ。だからここに閉じ込めて、毎日食事を運んできてたんだ。だけど今はお前がいる。筋肉質で固くて細いオレと、太らせなくても柔らかく脂ののったお前、どっち喰うと思う?」


私、ですね。


「わかったか?わかったならそこにかけてある鍵で牢を開けろ」


「わ、わかったよ」


サクラは納屋の入り口に走り、牢の鍵を手にすると、ランの入っている牢の扉を開けた。


″ガチャリ″


「サンキュー」


牢から出たランはうーん、と 背伸びをすると、手を伸ばし、サクラの腰を抱えた。


「なっ、何を、、」


「柔らかい肉――」


すりっ、と 頬をサクラの肌に滑らせる。


「ちょ///」


捕えたサクラの胸に顔をうずめ、すうっ、と 匂いを嗅いだ。


「旨そうないい匂い」


「なっ///」


ランは離すどころか サクラを抱く腕に力をいれた。


「お前、やっぱりマヌケだな。ばーさんの飯、喰わなかったって言ったろ、俺」


「やめっ///」


顔をうずめたまま喋んな!くすぐったいわ!


「腹へってんだよ」


ランは口を開けると――


″かぷっ″


サクラに噛みついた。


「うわ――!!、、むぐっ」


ランに柔らかい部分に噛みつかれ、サクラは悲鳴をあげた。

ランがあわててサクラの口を押さえる。


「シーッ、ばーさんに気づかれるだろ、喰われたいのかよ」


「むがっ///(先にお前に喰われるわっ!)」


暴れるサクラをランが抑え込む。


「活きがいいエサだな」


「むがーっ!(エサじゃないっ!)」


「どこから食べてほしい?」


「むが、むが、、(どこも嫌じゃ!)」


「腕?」


ちゅっ、と ランの唇がサクラの腕をくすぐる。


(ひいいぃぃっ///)


サクラはふるふると首を横に振る。


「耳?」


ぞくり、耳に甘い囁き。


(やめて~///)


再びふるふるとNOの返事を返す。


「首?」


ランが鼻先をサクラに近づけ、そっと触れるとつうっ、と 鼻先で首筋を辿る。


(うわああぁぁ///)


愉しそうに、サクラを弄ぶ猫耳ラン。


「やっぱり、、唇?」


ランの唇がサクラに近づく――


「ふわわっ///(イシルさん、助けて――!!)」







「ねぇ」


話の途中で サクラが またまたアイリーンに話しかける。


「何?」


「なんか、後半エロくない?」


「こんなもんでしょ、セクハララン大魔王なんて」


「いや、名前だけ借りたんだよね?ランの」


「″男は狼なのよ、気をつけなさい″ていう教訓よ」


ホントに?















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