502話 500回記念特別編《異世界への扉 4》ー後編ー






蜂と黄金虫の出した問題をクリアして 贈り物をゲットしたサクラは ようやく森の七匹の小人の家に足を踏み入れた。


きっとあの七匹のうさ耳小人もイケメン化してるだろう。

自分のことはわかっている。

想定内!


サクラは歩き慣れた前庭を通り、家に帰るような気分で玄関へと到着した。


「ただいまー!」


あっ、間違えた。

イシルさん家と全く同じ家だから、つい いつものように声を出し、玄関の扉を開けてしまった。


「なっ!?」


玄関の扉を開けて、サクラは驚愕する。


「「「お帰りなさい!サクラ」」」


玄関にいたのは ちまっと可愛い小人ではなく、七匹の美少年。


それは、いい。

想定内。


背も手足もスラリと伸び、華奢な手首足首腰回り。

それは、いい。

自分の好みはわかっている。

ショタ萌え もえもえ想定内。


しかし、、


しかし何故なにゆえ全員バニーボーイ!?

垂れ耳ウサギじゃなかったっけ!?


(これは、、想定外 _| ̄|○)


あどけなさの残る少年ウサギ達は、白シャツにピッチリ黒ベストに黒く長い耳は垂をピンとたてて、ぴこぴこゆらし、

腰パン気味のズボンはスッキリ、長いおみ足素敵です。


アウト!アウトですサクラさん!!

ご奉仕スタイルのもえもえバニーボーイ逆ハーレム、

こんな物語、誰とも共有しちゃイカン!!

どんな乙女ゲームだよ。


自分で自分にツッコミを入れる。


「どうしたの?サクラ、さ、中に入ってよ」


玄関で己の隠れた欲望に愕然と膝を折るサクラに、お気楽ファニーがかけより サクラを中へと招き入れる。


「早くしてよね、待ってたんだから」


「……すみません」


せっかちファスティー容赦ない。

どうもこの七匹の前では謝り癖がついてしまった。


サクラは七匹のバニーボーイに連れられて リビングのソファーへと座る。

七匹はサクラを囲んで、久しぶりのお客さんに嬉しそうだ。


「早速遊びに来てくれて嬉しいよ、サクラ♪」

「アリスが行っちゃって寂しかったから、、」


くりくりおめめの陽気なハッピーが瞳を輝かせて、

悲しみサッドはうるうるな瞳でサクラに話しかける。


「そうだね。でも、これからきっと沢山の友達に会えるよ」


「大丈夫かな、ボク」

「うまくやれるかなぁ」


怖がりフィアーと人見知りシャイは肩をよせあって不安そう。


「大丈夫だよ、七匹もいるんだから、ビクビクすんなよ」


怒りんぼアンガーが カツを入れる。


「ところでサクラ、、」


ウンウン、と同意していたサクラにアンガーが話を戻す。


「お土産は?」


「は?」


ピコピコっ と、そろって耳をしばたかせる七匹。


「お・み・や・げ♪」


″ピコピコっ″


「あ、、えーと、、」


期待に満ちた七匹×2つの瞳=14の眼差しがサクラにささる。

熱烈歓迎の正体はサクラではなくおみやげ品!!


「あ!そうだ、途中で贈り物をもらったんだった!」


サクラは急ぎ リュックを開け、中から四つの包みを取り出した。


「うわあ!なんだろ」

「なになに?」

「何かなぁ~」

「楽しみ!!」


「「楽しみ♪楽しみ♪」」


陽気なハッピーの気持ちが増幅し、全員に伝達され、わくわくが七倍に増長!


サクラはプレゼントの包みを開けた。


「?」


何だこれ?


ロバのロシナンテがくれたのは『ミルク』

三日月亭でもらったのは『小麦粉』

卵肌婦人がくれたのは『卵』で、

蜂と黄金虫がくれたのは『砂糖』


(ホットケーキでも作れってこと?)


この材料でサクラが作れるのはそれしかない。


「わーい!おみやげ♪おみやげ♪」


お菓子ではなく材料だったプレゼント。

落胆するかと思いきや、七匹はさらにテンション高く、四つの材料を手に取ると キッチンへと入っていった。


(何するんだろ?)


七匹は料理出来るの?


サクラがキッチンをひょっこり覗くと、、


″ポイポイ、ポイっ″


七匹は電子レンジのような魔法具に全ての材料をぶちこんだ。


(卵、殻ごと!?レンジ、爆発する!!)


″ピッ″


せっかちファスティー、構わずレンジ型魔法具のボタンを ぴっと押した。


「「「わくわく~わくわく~♪おいしくな~れ!」」」


″バチバチッ、ピシッ″


レンジの中に青いイナズマ見えますが大丈夫?


「「「ドキドキ~ドキドキ~♪素敵にな~れ!」」」


″バリバリバリバリ″


レンジの周りに火花散ってるけど大丈夫?


「「「まだかな~まだかな~♪早くしないと捨てちゃうゾ!」」」


″チン♪″


サクラの心配とは裏腹に、レンジ型魔法具は ″チン♪″ と軽やかな音を立てて、出来上がりを示した。


「出来た!」

「出来た!!」

「出来上がったよ!!!」


陽気なハッピーが魔法具に手を突っ込んで 材料を乗せていた鉄板を引き出す。

全員が見守るなか、でてきたのは、くしゅっと軽やかな――


「シュークリーム!?」


山盛り、大量のシュークリーム。

しかも、既にクリーム入り。


シュー生地とカスタードクリームは、材料がほとんど同じです。


甘~い香りが漂い、鼻腔から脳へ入り込み、伝達され、食欲を刺激する。


「食べよう!」

「食べようサクラ!」

「オヤツだよ!」


シュークリームを持ってリビングへ移動しながら、小人達がはやしたて、サクラもそれに便乗する。


「うん、食べよう!」


さっきドーナツ食べ損ねたからね。

口の中が甘いものを欲してます。


「ちょと待った!」


手をだそうとした全員が アンガーの制止の言葉にピタリと止まる。


何?もしかして ここでも言葉クイズ出されちゃうの?


「もっと、甘く!もっと、美味しく!」


アンガーは食材ボックスに手を突っ込む。

ワンダーランドの食材ボックスは、人が思い描く食材は何でも取り出せる夢の魔法具。


アンガーが取り出したのは、、


「ジャジャ~ン!」


チョコレートソース!


「いくよ~」


「「「チョコ♪チョコ♪チョッコチョッコチョッコ♪」」」


みんなのかけ声と共に、アンガーが たら~り、山盛りシュークリームの上から チョコレートソースをかけてゆく。


「「チョコ♪チョコ♪チョコットじゃなくて、たっぷりチョコ♪」」


た~っぷりとチョコがかけられた魅惑のシュークリームタワーに 七匹のイケメンウサギの顔がとろけ、ほころぶ。

サクラの顔もやっぱりとろけ、ほころぶ。


イケメンに囲まれて甘いオヤツの時間、ここは桃源郷かっ!!


「あはっ♪チョコソースとろとろだけど、サクラの顔もとろとろだね///」


はにかみやシャイが頬をそめてサクラにぴっちょりくっつく。


「ねぇ、サクラ、ずっとここにいようよ///」


シャイが甘~くはにかむ。

上目遣い卑怯だシャイよ。


「毎日一緒に、オヤツ食べよう?」

「あはっ♪明日は何にする?」


お気楽ファニーが爽やかにサクラを誘い、陽気なハッピーが明るい笑顔を向けてくる。


「ロールケーキ?」

「ミルフィーユ?」

「ミルクレープも良いよね」



ツンデレ気味の怒りんぼアンガーに、大人っぽいせっかちファスティー、か細い声の怖がりフィアー。


「行かないでよ、サクラ」


うるうる瞳の悲しみサッド。


うんうん、イイね///イイね///ここにいれば糖質関係ないもんね///


「ほら、サクラ、食べてよ」


お気楽ファニーがタワーからシュークリームを取り、サクラに差し出した。

受け取ろうとするサクラに、ファニーはそうじゃなくて、と、笑う。


「チョコが手についちゃうからさ、口、あけて」


(誰も、いないし、ね)


ここはサクラの夢の世界。

ここでの出来事は全てサクラ一人の胸の中に。


サクラは″あーん″と 口を開けた。


″ぱたん″


はぐっ、と噛みつくが、何の味もしない。

味がしないどころか、食感もない。


「あれっ?」


サクラは空を噛み、目の前からは七匹の子ウサギが消えていた。


「あれれっ?」


目の前にあったチョコがけシュークリームタワーも消えていた。


「あれあれ?」


リビングには、サクラ一人。

いや、誰かいる。


サクラは目のはしに入る人物を見上げた。


「イシルさん?」


ソファーに座るサクラの目の前には、本を手にしたイシルが立っていた。


(なんでイシルさんがここに!?)


イシルが持っていた本は、サクラが読んでいたはずの『冒険の書――ωσи∂єяℓαи∂――』


ここは先程のワンダーランドではなく、本の中ではない、本物のイシルの家のリビングだった。


サクラの読んでいた本をイシルが閉じたから 全部が消えたのだ。


(ああ、私の桃源郷が!!!)


結局何も食べられなかった。


「随分、楽しそうでしたね」


イシルはニコニコの笑顔だけど 言葉にトゲを感じるのは 自分の心に後ろめたさががあるからだろうか?


「本の中に出てくる食べ物が美味しそうでして……」


「それだけですか?」


出てくるイケメンも美味しそうでして、なんて言えない。


イシルは納得していないようで、疑いの眼差しでこっちを見ている。


どうする?


→誤魔化す

茶化す

丸め込む

知らを切る

笑いを取る

闇に葬る

逆ギレ


おおっ!選択肢に正直に話すが入ってない!

全部口を閉ざす方向ですな。


「それだけ、、です///」


「……没収」


イシルは本を亜空間ボックスへしまおうとした。


「えっ!」


サクラは思わず抗議の声をあげる。


「何ですか?」


「いえ……」


気のせいではない、イシルは何か勘づいている。


「読み終わっていないなら 僕と一緒に読みましょうか。まだわからない文字もあるでしょうし――」


「ええっ!!」


「何ですか?」


にイシルは連れて行けない!

てか、誰も一緒になんか行けん!


「いえ、もう読み終わりました」


「そうですか。ならばもう必要ありませんよね?」


「……はい」


あう、、さよなら、ラワンダーランド。

サヨナラ、食べても血糖値上がらないお菓子達

サヨナラ、心の栄養イケメンうぉっちんぐ!!


イシルはしょんぼりするサクラの隣に座ると、ケーキの箱を差し出した。

この箱は ディオのお菓子やさんの箱だ。


「イシルさんハーフリングの村に行ってたんですか?」


「ええ、まあ。開けてください」


なんだろう?

誰か誕生日とか?


さんざん甘いものをじらされたサクラは、いそいそとケーキの箱をあけた。

中から出てきたのは――


「シュークリーム!!」


何てこったい!イシルさん!

今、一番食べたいヤツですよ!!


″ゴクリ″


しかし、、

ああ、糖質、、

ううっ、糖質うぅぅ、、


身悶え苦悩するサクラを見てイシルが笑う。


「じれじれの顔は見ていて可愛いですが、このシュークリームは砂糖は控え目に、ミルクのコクで甘さを引き立ててありますから、食べても大丈夫ですよ」


「本当に!?」


やっぱりうちのイケメン最高デス!


イシルから免罪符をもらい、サクラは我慢できずにシュークリームをひとつ手に取った。

ずっしり、重みのあるシュークリームだ。


「カスタードは糖質が多いですからね、中はホイップクリームで、シューの皮は薄めにして小麦粉の量を減らし、クリームをたっぷりと味わえるようにしてあります」



生クリームは100gあたり433kcal・糖質3.1gと、高カロリー・低糖質。

カスタードクリームは100gあたり176kcal・糖質24.5gで、比較すると低カロリー・高糖質と言える。


カロリーダイエットにはカスタードクリームを

糖質制限ダイエットには生クリームをチョイスするのがいい。

(※入れる砂糖の量でかわります)



「″してあります″って、もしかして、このシュークリーム、イシルさんが作ったんですか?」


サクラの質問にイシルは笑顔を以てそうだと返す。


「じゃあ、、じゃあこの間のアーモンドの粉のクッキーも、買ったんじゃなくて――」


サクラが帰って来た日に、ランが″とっといた″と渡してくれたクッキーは、小麦粉ではなく、わざわざアーモンドを粉にして作られていた。


「ええ。ディオに習いに行きました」


(糖質の少ないナッツで、私が食べられるようにと、イシルさんが考えて作ってくれたってことだよね)


あの日帰れなかった事が悔やまれる。

サクラのために イシルはクッキーを焼いて待っててくれたのに……


サクラの胸に感情がせりあがってきて胸がいっぱいになった。

思いがせりあがり、押し寄せ、溢れ出す。


(私、この人が――)


「好き」


いとおしくて、もう一度。


「好きです///」


「良かった。サクラさん、そんなに好物だったんですね、シュークリーム」


((ん?))


サクラとイシルは 二人してフリーズする。

サクラの真っ赤な顔を見て、イシルがやっと気がついた。


「あれ?サクラさん、今の……」


イシルがサクラに聞き返す。


「僕、今大変もったいない返しをしましたか?」


「いえ!好きです!大好物ですシュークリーム!嬉しいなぁ!あはははは///」


サクラは恥ずかしくなって シュークリームをはむっ、と口にいれた。

薄めのシュー皮の中からぶわっ、と クリームが溢れだす。


「うん!たっぷりクリーム、最高!」


もったりと甘く舌に残る生クリームのコク。

脂肪分が多いから、いつまでも口の中に風味が残ってくれている。

たっぷりで、指ベタベタだけどね。


「これにコーヒーとか最高ですね!今いれて来ます」


舌の上にミルクのコクを残したまま飲むコーヒーは絶対に旨いはず!


お茶をいれに立ち上がろうとするサクラの手をイシルが掴んだ。


「もう一度、言って」


「え?」


切ないイシルの眼差し。

切なさの中に 嬉しさと期待がみえる。


「もう一度……」


先程の言葉をもう一度言えと。


「シュークリーム、好きです」


「……」


サクラの言葉にイシルの目が ″まったく、もう″と 非難してくる。

サクラは先程の出来事は″闇に葬る″事にした。

さっきの言葉は無かったことに。


「イシルさんも食べてくださいよ、ホントに美味しいですよ!」


「……」


そんな抗議の目を向けられても 我に返った今、「好き」だなんて言えるわけがない。


「わかりました。いただきます」


イシルは握ったサクラの手を口元まで持っていくと――


″ちゅぷっ″


(!?)


クリームのついたサクラの指を口にふくみ、唇でちゅぷっとなめた。


「あう///あうう???」


「うん、美味しい」


隣の指も、、


″ちゅっ、ちゅるっ″


口にふくんで 舌先でペロリ。


(ひいいいい///)


「そうじゃなくて、、」


「そうでした、食べて良いんですよね?」


イシルはサクラに顔を寄せる。


「いただきます」


サクラのくちびるに――


♡♡♡ちゅ――♡♡♡


「あう///イシル、、さんっっ」


「ん///甘くて美味しい」


ちゅっ♡♡♡


♡♡♡ちゅっぷっ


ちゅるん♡♡♡


「も///もう、、ヤメ、、」


「もっと、食べたい」


♡♡♡ちゅ――♡♡♡


(あうぅぅ///)


甘い 甘い イシルの反撃は容赦なかった。


















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