165話 ラ・マリエ
ラルゴとハルが帰村中の森でチンピラに襲われた同じ日、サクラはバーガーウルフが終わると アスの館へと招かれた。
ゴスロリ制服のままパーカーを羽織りリュックを背負うと、迎えに来たマルクスに連れられて村を出て アスの館『ラ・マリエ』へと向かう。
「……なんじゃこりゃ」
ラ・マリエへの遊歩道にさしかかった時、サクラは唖然とした。
″わいわい、ガヤガヤ……″
遊歩道の両脇に 露店を広げる商人達。
それを楽しそうに物色しながら歩く貴族……
「仲見世通りかよっ!!」
突っ込まずにはいられない。
「マルクスさん、これは一体……」
「お館様が ショバ代をとって商人に場所を提供したのです」
ショバ代って!!
「店は10日ごとにかわるので、大変有意義なことでございます」
てか、いつのまにこんなに貴族が!?
どおりで今日バーガーウルフが忙しかったわけだ……
そういえば、今日は貴族の従者っぽいお客さんが多かったな。
露店はラ・マリエの門前まで続いている。
装飾品から乾物、食器、魔法道具、杖、薬……すごいな。
サクラがキョロキョロしながら歩いていると、ふわっ、と体が宙に浮いた。
「にゃっ!?」
「危のうございます」
人にぶつかりそうになっていたようで、マルクスがさりげなくサクラの腰に手をまわし引いてくれたのだ。
社交ダンスのような、優雅な身のこなしで……
「マルクスさん、今の……」
サクラが目をぱちくりさせる。
「今の微笑み良い感じでした!!」
「左様でございますか」
マルクスがニシャリと嗤う。
「…………」
まぐれか。やっぱり怖いよ、その笑顔。
早目にウイスキー・ダイスキー作戦を決行せねば……
リュックに入れたウイスキーは後で渡そう。
ラ・マリエの門を入ると前庭の咲き誇る薔薇にお出迎えされる。
いつ見ても見事な薔薇だなぁ……
「こちらへ」
「はいはい」
薔薇に魅入ってる場合じゃなかった。
マルクスの後を追い ラ・マリエへと入る。
「うお!」
中に入ったとたん、絶句した。
目の前に大きな大理石の階段が出来ていた。
階段を少し上がると踊り場があり、そこから2つに階段が分かれていて左右対称のらせん階段になっている。
大理石張りの床はツルツルのピカピカに磨きこまれていて、顔がうつるよ。
そのうえ、5階分の吹き抜けになっているから、開放感すごい。
「オペラ座だ……」
かの有名なオペラ座の大階段さながら!
もしや、渡した本にオペラ座がのっていた、とか!?
豪華絢爛!美しい曲線を描く階段に圧倒される……
そして、その階段に負けない美貌の持ち主が 優雅に階段を降りてくる。
薔薇の館『ラ・マリエ』の主 アスだ。
階段の手すりは少し低目になっていて、アスのスラリとした美しさががよく見える。
光も計算されてるのか、シャンデリアも階段のライトもアスもキラキラキラキラ……
「いらっしゃ~い!子ブタちゃん!どう?」
「スゴいですね……」
階段もアスもとどまるところを知らない美しさ!
圧倒されて言葉も出ませんわ!
マルクスはアスがサクラに近づくと、サクラのリュックとパーカーを預かり いなくなった。
「もう、子ブタちゃんが持ってきたホテル?の本が面白くて、頑張っちゃった♪今日は一階と二階を案内するわね」
どうやらアスが直々に案内してくれるようだ。
一階には意外にも店舗が入っていた。
階段下をぐるりと囲むように円形に店舗がならんでいる。
館の入り口近くの一番良い場所に 武器、防具が並んでいた。
「これはドワーフの村の商品よ。お互い、持ちつ持たれつってね。表の露店のショバ代も必要経費を差し引いて折半してるのよ」
「必要経費?」
「露店商人が夜営するテント広場を裏手に備えてあるのよ」
「なるほど、急に人が増えましたもんね」
「私が
バーガーウルフが忙しかったのはお前のせいかよ!
強制召喚してでも見せびらかしたかったんだな。
ということは、ドワーフ村の村長とも話しがついているということだ。
アスってこうみえてローズ商会の総頭だもんね。
色々考えてるんだなぁ……
隣の店舗を覗く。
婦人服関係のものが置いてある。生活に必要なものから装飾品、センス、手袋、ハンカチ、水着……水着!?湖があるからかな……あ!
サクラはそこに見覚えのある人物を発見した。
(カール様だ)
それはアイリーンの婿候補だったカール・キャンベル殿だった。
嬉しそうに頬を染めながらお買い物なさっている。
(アイリーンへのプレゼントかな)
今日のプレゼントはエナメル編み上げニーハイブーツだった。
勿論即アウト。
今買ってるのは 靴じゃなさそうだけど……
気になって チラッと見てみる。
(うん。アウトだな)
カールが買っていたのは黒いレザーの手袋……しかも肘まであるロングサイズ。
サクラは見なかったことにして 店を通りすぎる。
店の隣は奥へと続く廊下だ。
「この奥はなんですか?」
「スパよ」
「スパも作ったんだ……」
だから水着があったのか。
「見に行く?」
「いや、人が寛いでる所にお邪魔するのはちょっと……」
「そう?じゃあ今度お友達と一緒にくるといいわ」
(いや、水着着れないよ)
「痩身マッサージもやってあげるから♪」
「……そりゃどうも」
スパへの通路をはさんで隣は紳士服のお店。
やはり生活用品の下着から装飾品、ステッキ、帽子、手袋、ハンカチ、水着……うん、現世の水着、浮いてるね。
そして ぐるりと一週まわって、館の入り口近くの左手側、一番良い場所に 化粧品が並んでいた。
「あれ?」
サクラはあることに気づく。
「″チェリッシュ″はまだ並んでないんですね」
サクラが渡した口紅やオールインワンジェルががまだない。
「まだデビューさせてないからね」
「?」
「タイミングがあるのよ」
「そうなんですね~」
「どう?現世と比べて」
「旅行に必要そうな物や生活用品がおいてあるのが凄くいいと思います」
「まずまずのようね。上へ行きましょうか」
あの豪華な階段を上がる。
低い段差で、ヒールにも優しい仕様だ。
「女性のドレスが一番綺麗に見える高さなのよ」
「そんなとこまで考えてるんだ……」
うん、この階段登ると背筋が伸びる。
二階に上がると また少し広い踊場になっており、入り口が三つ口を開けていた
左右はどうやら上に続く階段室のようだ。
アスはサクラを伴って 真ん中の入り口へと入る。
そこにはサロンがあり、くつろげるようになっていた。
扉はなく、大きな窓から光が入り、開放的な空間。
ホテルのロビーラウンジみたいだ。
外にテラス席もみえる。
貴族達が本を読んだり、談笑したり、カードゲームをしたりしている。
「至れり尽くせり……」
「扉がないっていうのが新鮮よね~
胸の高さまでの
通路事態が部屋のように広く、本棚が設えてあり、ソファーも並べられている。
そして、通路の正面には 大きな両開きの扉があり、扉の前にはドアマンのような従者が立っていた。
スタッフがイチイチ美形だな、アスの趣味か?ありがとう!ごちそうさまデス!
扉は開け放たれたままになっており、扉をくぐる――――
「うわー!」
わいわい、ガヤガヤと楽しそうな声……
大ホールだった。
貴族だけじゃなく、商人らしき人たちも入り交じっている。
そしてテーブルに並べられた 美味しそうな料理の数々……
ビュッフェ会場!?
立食形式のようだが、奥に少しテーブル席がある。
壁際に椅子も並べられている。
サクラの嬉しそうな顔をみて アスがにんまり笑う。
そんなアスに モンキー服の従者が声をかける。
「アス様、ダリア商会の会長が挨拶したいと」
「わかったわ。子ブタちゃん、好きに見てて、あ、食べるのは私と一緒にね?」
「うん!」
見るだけでも心が踊る料理の数々。
アスが行ってしまうと、サクラはうきうきと料理を眺める。
「ちょっと、君」
「ん?」
どんなのがあるのか、どんな味かとわくわく想像しはじめたところで、恰幅が良く、身なりの良い男がサクラに声をかける。
「肉を多めに頼むよ」
「へ?」
……どうやらメイドと間違われたようだ
「いや、あの私は……」
ん?と男がサクラを見る。
ま、いっか。
ゴスってるとはいえ、メイド服着てるんだし。
「かしこまりぃっ!」
サクラは料理台を眺める。
自慢じゃないが、料理の味はだいたい見た目でわかる。
(肉、肉っ、と……)
まずは牛フィレ肉のパイ包み焼き。
こんがり焼かれたサクサクのパイに 脂身のない赤い肉の断面がほどよくレアに仕上がっている。
(赤ワインソースがかかってるな、うひひ、綺麗なさくら色で美味しそう、それと……)
肉厚燻製合鴨のパストラミとモッツァレラチーズのカナッペ。
(ちょっとサッパリ合鴨肉。ん~、パストラミのピリッと胡椒とチーズは合うよね~牛、鴨と来たら、次は……)
とろとろ豚角煮。
つまんだだけで崩れそうだ。
チンゲンサイを下にひき、他の料理に味がうつらないよう配慮する。
(うん、とろっとこってり、肉厚角煮!口のなかでとろけるね、コレは。そして、鳥だな、よし、スッキリいこう!)
とりささみとキュウリのバンバンジー風あえ。
これも 混ざらないよう、サラダの葉を敷き上手く盛る。
「どうぞ!」
「うむ、君はセンスがあるね~」
「うへへ///」
身なりの良い男は満足そうに受け取った。
喜んでもらえて楽しい。
「あら、美味しそうね、私もお願いしていいかしら?」
「はい、何がお好きですか?」
ほめられると調子づくタイプです。お任せあれ!
「私の街は海がないから 魚が食べたいわ」
「かしこまりぃっ!」
サクラは魚料理を探す。
(まずはメインになりそうな……あれか!)
鮪ほほ肉のオランデーズグラタン。
鮪のほほ肉と、フランス5大ソースのひとつ、オランデーズでグラタン仕立てに。
(まったり濃厚なソースとぷりっぷりマグロの相性、最高!!)
スモークサーモンのムースクレープ巻き
つかんでみると、ふわふわの弾力。
(わ、食べてみたい!見た目も綺麗で女性ウケ間違いなし!そして……)
白身魚のペルシヤード アサリソースに手を出そうとしたとき、女性が声をかける。
「あ、まって、貝は食べられないの」
「失礼しました、」
(甲殻類アレルギーかな?)
「エビは食べられますか?」
「ええ、大好物よ」
(単なる好みか、じゃあ……)
サクラはオマール海老の身をすくって皿に盛る。
こんがり、とろーり、チーズ焼きだ。
(あのシュウマイはトッピングがカニっぽいけど、シュウマイってホタテが混ざってることがあるからなぁ……)
サクラは近づいてきた人物に尋ねる。
「あ、アス!あのシュウマイって貝はいってる?」
「……何やってんの?」
「え――――……手伝い?」
「一緒に食べようって言ったのに」
アスはサクラから皿を奪うと 女性に押し付けた。
「いや、盛っただけで、食べてないよ?」
何で拗ねてるんだ?アスは……
サクラは知らない。
食べ物を目の前にすると感情がダダ漏れになっていることを。
食べ物の味を感じないはずの悪魔が サクラを介して 食べ物を
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