160話 スペアリブ
アイリーンがサクラを連れてきたのは イシルの向かったハーフフットの村とは逆の竹林に囲まれたオーガの村だった。
「意外、和風……」
村に住むオーガは 前で布を合わせる甚平のようなものを着ており、腰に剣を差している者が多い。
そう言えば この村から来たリベラも剣士だったなと思い出す。
リベラはビキニだし、ヒナはバーガーウルフの制服でしか会ったことなかったから分からなかったが、これがオーガの普通なのだろう。
「こっちよ」
サクラは キョロキョロしながらアイリーンについていく。
「なんか、イカツイ人多いね」
「オーガは戦闘種族だからね。戦い方や剣を習いに来る冒険者がいるのよ」
「ふーん」
「そして、それを客にした武器商人もね」
「てことは ドワーフの村のお得意様か」
「そういうこと」
オーガの村には宿屋兼食堂が 二軒あった。
『雀のお宿』と『
『雀のお宿』のほうには 食堂の他に 長期宿泊者のための自活設備、洗濯広場や自炊施設がついている。
安い料金で 勝手に生活しろスタイルだ。
アイリーンはサクラをもう一方の『朱雀庵』へと連れていく。
『朱雀庵』のほうは、銀狼亭と同じ感じだった。
銀狼亭は夜は全て椅子無しのバー形式になるが、ここは椅子無しのテーブルの他に夜でも椅子席が奥にあり、カウンター席がある。
サクラとアイリーンは カウンターに座り、文字の読めないサクラのかわりに アイリーンが注文をたのみ、料理が来るまでワインを飲んでいた。
そして、それはすぐにやって来た。
「あれー、珍しいね こんなところに人間の女の子だけでいるなんて、どっから来たの~?」
来たのは肉ではなくナンパである。
「隣のドワーフの村から来たんですー」
慣れたもので、アイリーンがにこやかに答える。
相手は二人。冒険者のようだ。
「君かわいいね、名前は?」
「アイリーン」
男二人はアイリーンにまとわりつき色々聞いている。
サクラはかやの外ですよ。当然か。
「はいよ、お待ち」
ナンパ師を脇目に ぽやっと待っていると、サクラの目の前に カウンターの向こうから料理が出された。
(ふおぉ!骨付き肉!!)
出されたのは 骨付きバラ肉のグリル。スペアリブだ。
(いただきまーす!)
サクラが肉に手を出そうとすると――――
″ヒョイッ″
「え?」
目の前から肉の皿が消えた。
「向こうのテーブルで仲間と飲んでるんだけどさ、一緒に食べようよ。これはオレ達が奢るからさ」
そう言ってアイリーンにつきまとう男達が 料理をさらっていったのだ。
(私の肉!!)
「さ、行こう、アイリーン、お友達?おば、、お姉さんも」
お前今おばさんって言いかけたな、間違ってないけど。
幼く見えるが間違いなく歳はとっている。
奢ってくれなくていいから肉を返せ!
アイリーンが席を立った。
サクラは慌ててアイリーンを引きとめる。
「アイリーン、女子トークしたいんじゃなかったの!?」
悲しいかな、肉は諦めて帰ろう!知らない村で危険はおかしたくない。
「サクラ、チャンスよ!あいつのしてた腕輪見た?ダンジョン産の帰還の腕輪だったわ!」
うわ~、アイリーンの目が¥になっている。
「帰還の腕輪をもってるってことは そこそこ出来るわね。帰ってこれるから、そう簡単に死ぬこともないわ」
ああ、アイリーンの婚活スイッチが入ってしまった……
「仲間と飲んでるって、危ないよ、何人いるかわかんないしさ、帰ろうよ」
「いざとなったらナイツを呼ぶわよ」
酷使されてんな、スターウルフよ。
「サクラもドSエルフ以外にも目を向けたほうがいいわよ」
ドSって!
「いや、そもそも恋愛する気ないし……」
「何いってんの!婚期を逃したからって枯れたわけじゃないんだから!ほら!いくわよ!」
アイリーンは強引にサクラを引っ張っていく。
(まあね、あの人たちの目当てはアイリーンだからさ、私は心配いらないんだけどね)
彼らの仲間が飲んでいるという店の奥のテーブル席には 他に二人がいた。
「到着~」
サクラの肉を奪った調子のいい男が アイリーンのために自分の隣に席をつくる。
サクラはアイリーンの隣に座り、テーブルに三対三で座った。
元々席にいた二人は、真面目そうで少しホッとした。
いや、ナンパに来た二人があまりにもチャラすぎて……
ナンパ男二人は戦士、剣士といったところか。
対面の一番奥には剣士が座っている。その隣に座っている男はは杖を持っているから魔法使い?
そして、サクラの目の前にいる 素っ気ない感じの男は……なんだろう?みたところ 軽装で 普通の村人にみえる。あ、弓もってるな。狩人?
ちょっと迷惑そうにしてる。邪魔して御免よ。
「オレとダンはこの街で剣の修行をしてんだ。修行が終わったらクレマチスの街まで行って ダンジョンに潜るんだぜ。前回は27階で帰還したけど、とりあえず30階を目指してるんだ」
アイリーンの隣に座る、サクラの肉を奪った戦士マクダフがアイリーンに自慢気に語り出す。
どうやらこのパーティーのリーダーのようだ。
「クレマチスの街のダンジョンは50階までよね?凄い!20階を越えるのは難しいんでしょう?」
アイリーンが情報を聞き出すために褒めにかかった。
それをうけて、アイリーンの斜め前に座る剣士ダンが意気揚々と答える。
「20階からは罠が増えるからな。でも今回はレンジャーのハリスがいるからイケるさ」
そう言って ダンは サクラの目の前の男を示す。
「ハリスはハーフフットの村でずっと罠の勉強してたんだよ。グランドの幼馴染みで、今回やっと口説き落としたんだぜ」
グランドとは アイリーンの正面に座る魔法使いの名前だ。
そうか、この村人かと思ったハリスさんとやらは罠解除が得意なんだ。レンジャーってなんだ?。
素っ気ない感じはまだ馴染んでないからなのかな?
まあ、いい。
そんなことより、早く食べないと肉が冷めてしまう!!
まわりはアイリーンに夢中で 酒はのむが料理には手を出していない。
食べたい!
けど、大変食べづらい!
ううっ、おあずけ……
(あ、そうか!)
サクラは想い至る。
食べたいなら周りに配ってしまえばいいんだ!
肉はちょうど人数分ある。
アイリーンと二人なら三本ずつ食べられたが仕方がない。
背に腹はかえられぬ。
サクラは取り皿を持ち、スペアリブを取り分けて、わたしてまわる。
「どうぞ」
「サンキュー」
先ずはリーダーらしきマクダフに。
順番を間違えてはいけない。ヒエラルキーを見極めるんだ!
次に剣士のダンに、そして魔法使いグランド、最後に新入りハリス!どうだ!完璧!!
無駄に会社の飲み会に参加していたわけじゃないさ!
そしてアイリーンに渡し、自分……
こうすれば食べられる!
サクラは 周りが自分に興味が向いていないことを確認すると スペアリブにかじりついた。
「あぐっ、、」
ブチン、ブルンッと、噛みちぎった肉が口のなかで弾ける。
(むはっ///)
スペアリブの山賊焼きだ。
肉は鶏ではなく豚肉。
骨付きの豚バラ肉!
豚の脂と肉が層になっていて、噛むと両方の旨味が贅沢に広がる。
ニンニクの風味が効いたちょっと照り焼き味に似たがっつり粗挽き黒コショウのきいたタレがよくなじみ、濃いめの味が おあずけを食らっていたサクラの味覚を直撃する。
(くはあ///骨付き肉最高!)
骨から旨味が滲み出ている。
「がぶっ、もりっ、」
骨付き肉が何故美味しいか――――
骨付き肉を加熱すると、骨から肉に髄液がしみだしてくるから。
髄液にはコラーゲンや旨味成分がたっぷり入っていて、染み出したお肉は肉自体の美味しさにこの旨味が加わり、より美味しくなる。
肉が骨に付いているから、常に肉が引っ張られて焼いても縮みにくく、骨から水分も出て、柔らかく食べることができるんだとか。
「かぷっ、くふっ///」
骨付き肉が何故美味しいか?
理由はどうでもいい!!
骨がついてるからうまいんじゃ~!!!
骨のまわりもキレイに食べます!
「がじっ、、ちゅぷっ」
嗚呼……うまし!
アイリーン、連れてきてくれてありがとうっっ!!
「ん?」
サクラは視線を感じて 骨にかじりついたまま目線をあげた。
正面にいるハリスと目があう。
ハリスは呆然とサクラを見ている。
(やべ、大人げない食べ方しちゃった……)
他の者はアイリーンとのお喋りに夢中だ。
(よし、ここは何事もなかったふりをしよう)
サクラはそっと骨を皿に置く。
(お手拭き……ナプキンはどこだぁ――――!?)
「……サクラさん、だっけ……」
ハリスがサクラに話しかける。
「……はい」
(頼む、スルーしてくれ!)
「これも、食べて」
「え?」
サクラの目の前に ハリスがスペアリブの乗った皿を差し出している。
「……いいの?」
ハリスが頷く。
「ありがとう」
(なんだ、イイやつじゃん!)
サクラは礼を言い、スペアリブの乗った皿に手を伸ばした。
″スッ″
「あれ?」
またもや目の前から肉の皿が消えた。
本日二回目!!
「楽しそうですね」
サクラの頭の上から声がする。
「ゲッ!」
サクラの隣のアイリーンがサクラの頭上を向き、天使らしからぬ声を出した。
見るのが……怖い……
サクラがゆっくりと首をふり、横斜め上を見上げると――――
そこにはスペアリブの皿を手に、極上の笑みをたたえたエルフが立っていた。
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