94話 襲撃
ギルロスはサクラを村へ送ると、ランを引っ張って 村の外壁への監視魔法付与作業に出掛けていった。
昨日イシルがやらされた残りだ。
組合会館前広場には アイリーンがいた。
「あれ?アイリーン、どうしたの?」
アイリーンはバスケットをもっている。
「ギルロスとラルゴに朝食差し入れ」
婚活中でしたか!!
「ギルロスいなくて残念だったけどね……こら!危ないことすんじゃないわよ!」
すみません、ギルロスさんはうちにいました。
アイリーンが怒鳴った先には ララとテトが遊んでいた。
トムとエイルは 銀狼亭で ジャガイモ皮向き手伝い中。
モルガンのピューラー試作品を 子供も使えるか試し中らしい。
「テト、石なげるんじゃないわよ!当たったら あんただって痛いでしょうが!相手も痛いのよ!」
アイリーン、地がでてるよ
「子供に取り繕ってもしょうがないじゃん?」
サクラの疑問を見透かして アイリーンが先に答える。
「つくっても 子供には バレるからさ」
そういう意味か。
「アイリーン、兄弟いるの?」
「まあね」
どおりで、子供の扱いが慣れている。
アイリーンが立ち上がり、ララとテトに向かう。
ララとテトがアイリーンに走りより、ぽふん、と、アイリーンに抱きついた。
二人と遊んでいるアイリーンの笑顔は
いつもの何倍も可愛い。
ずっとそうしてればいいのに。
和むわ~この風景。平和な日常。
″ウウ―――ン!ウウ―――ン!″
「何だ?この音……」
突然、不安を掻き立てるようなサイレンの音が響き渡る。
「警報……?」
サクラは 空を見上げる。
アイリーンも テトも ララも 空を見上げていた。
「?」
ひとつの点が見えた。
「鳥?」
清んだ青い空に一羽の鳥が飛んでいる。
あのシルエットは見覚えがあるな。
「ニワトリ?」
白い羽と、赤いトサカは 間違いなくニワトリだ。
「異世界のニワトリって 飛べるんだ……」
だんだんはっきり見えてきた。
近づいてるのかな?
意外と大きい。ケ◯タッキー何人分だろう……
「え?」
ニワトリ……だよね?
真っ直ぐ、こちらに向かってくる。
「でかっ!」
でかすぎる!象かよ!!
″バサバサッ″
象ほどの大きさのニワトリは サクラの目の前で羽ばたくと、足を前にだし サクラを捕らえた。
「サクラ!!」
アイリーンの叫び。
「うおっ!」
サクラの体が宙に浮く――――
◇◆◇◆◇
ギルロスとランは 外壁に監視魔法をかけてまわっていた。
「こんなの必要あるのかよ」
ランはぶつぶつ文句を言いながらも、魔法をかける。
「得意だろう、魔法は」
ランの母親は 腕のいい魔術師だ。
ランはその血を受け継いでいる。
「ちゃんとコントロールできるよう訓練しないと 村ごと吹っ飛ばしたら洒落になんないぜ?」
「そんなヘマしねーよ」
「あんまりサボると サクラに
「……わかってるよ」
″ウウ―――ン!ウウ―――ン!″
突然、警報が鳴る。
「何だ?」
ギルロスは 壁をスキャンする。
が、どこからも侵入した形跡は感じられない。
「誤作動じゃねえの?」
そんな筈はない。
イシルの魔法は高度なものだった。
そこまでやるのかというほどの念の入れようだった。
嫌がってたくせに。
「空か!!」
上空に何か いる。
巨大なニワトリの魔物。
ビックコッコだ。
ビックコッコが獲物を狙って突っ込んでいく。
「あのあたりにあるのは……組合会館!」
ビッグコッコが地上に到着した瞬間、
ランの姿がギルロスの前から消えた。
◇◆◇◆◇
イシルはシャナと二人で シャナがディコトムスと遭遇したという場所へきていた。
「この辺りですか」
「ええ」
イシルは馬を止めると ひらりと飛び降り、続いてシャナを抱えておろす。
「ありがとうございます///」
シャナがイシルの腕をつかみ、イシルについていく。
イシルはかまわず辺りを捜索する。
木々に傷跡があり、荒らされた形跡がみつかった。
「確かに、ここで争った跡がありますね」
更に進むと、野営のあとがあり、人の足跡を複数発見する。
「ここで野営をしていたんですね」
「はい」
死体はみあたらない、荷物も落ちていない。
「皆とは逃げている途中ではぐれてしまったので……」
シャナがイシルの腕に絡ませた手に力を入れる。
当時を思い出したのか 少し震えている。
死体は獣がさらっていったのか、
荷物は山賊に持ち去られたのか、
しかし……
血の跡が少しも見当たらないのはおかしい。
「!?」
イシルが突然 思案するのをやめて顔をあげた。
「イシルさん?」
「警報……」
微かにドワーフの村での異変を感じた。
自分のかけた魔法の波動に乱れがある。
イシルは 村へ走り出そうとする。
″グッ……″
イシルは腕に抵抗を感じる。
見ると、シャナがが不安げに眉をひそめていた。
そうだ、自分だけではなかった
イシルはシャナを抱え上げる。
「あの///」
少し乱暴だが、仕方がない。
馬まで戻ると シャナを馬上へと押し上げた。
「きゃあ!」
「手綱をしっかり握って下さい」
「え?」
「帰り道は
「イシルさん?」
「僕は急ぎますので」
イシルは馬の鼻筋を撫で 馬にシャナを託す。
「頼みましたよ」
″ブルル……″
馬が返事をするかのように応えると、
イシルは馬の腹をポン、と 叩いた。
″ヒヒ――――ン!″
馬は嘶くと シャナを乗せて走り出す。
「きゃあああ!」
村へ向かって馬が駆けていくのを確認し、イシルも村へ駆け出した。
最速、最短の距離を以て――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます