67話 メイ先生とメリーさん







リズは 荷台に乗っているスノーとサクラを 治療師のメイ先生の家の前に下ろした。

自分は 銀狼亭に 木材を届けに行くのだ。


スノーが戦士をかかえる。


「サクラ」


リズは出発をためらい、サクラに声をかける。


「今日のことは 三人だけの秘密にしてくれませんか?」


「……血を 止めたこと?」


「はい」


「……私、なんかまずかった?」


「ちがいますよぉ、秘密にしたいんですぅ。サクラのキラキラの銀色の魔法、綺麗だったでしょ?」


スノーが くふふと笑い、リズの言葉にのっかる。


「ドワーフは秘密が好きなんですぅ」


銀色?ああ、そういえば銀色の粒子が舞ってたような……

珍しいのかな?

ん?生活魔法のときは出ないな、銀色。

いつだっけ?この前もこんなことがあったような……


「ミディーさんに、ドワーフなら秘密の楽しみを覚えろって言われて」


「リズと三人だけの秘密にしてもらえませんかぁ?初めての秘密を サクラと一緒に持ちたいんですぅ」


秘密を持ちたい年頃なのか、かわいいなぁ~


「うん、いいよ。三人の秘密ね」


「じゃあ、秘密です。サクラの銀色の魔法のことは」


約束をすると、リズは木材を届けるために 銀狼亭へと向かった。


スノーはメイの家のドアをノックする。


「センセぇ~、メイ先生ぇ~」


「はい、はい」


″ガチャッ″


中から出てきたのは 白衣のようなローブを着て 長い髭をはやした……ヤギだった。


「なんじゃ、スノー、そのは」


荷物と言いたくなる気持ちはわかります。肩に担いでいるんだから。

でもメイ先生、それは 人です。


「あらあら、スノー、血だらけじゃないの、怪我したの?」


奥から女の人が顔をだす。

看護師さん?奥さん?そんなことはおいといて、出てきたのは もっふもふの頭をした……ヒツジだった。


二人とも、獣人のようだ。

てか、血だらけの人見て のんきな反応ですね、なんだか癒されますが。

二人の存在自体が癒し?存在自体が治療薬?


「あ、メリーさん、こんにちはー!私の血じゃないですぅ。このヒト魔力切れをおこしたみたいでぇ、二の道の塀の近くで倒れてたんですよぉ」


スノーは ずんずんと中に入ると、どさっ と 男をベッドに 放り投げた。

一応怪我人ですよ、ぞんざいだなぁ……


メイが けが人を診る。


「なんじゃ、傷は大したことなさそうじゃな、塞がりかけとる。その血はどうしたんじゃ、スノー、他にも患者がおるんか?」


「そのヒト、魔物と戦ってたみたいでぇ、返り血じゃないですかぁ?塀が壊されてましたよぉ」


「なんじゃと?そりゃ大変じゃ、村長に連絡せんと」


「リズがサンミさんに言ってるはずだから大丈夫ですぅ。じゃあ、おねがいします、センセぇ」


戦士の男をメイに託すと、スノーは長居は無用とばかりに サクラと外に出た。

外にでると、スノーが ほっと 息を吐く。


「サクラさん!」


ドアを出てすぐに 呼び止められ、サクラは顔をあげる。

心配顔のイシルが駆け寄る。


「あれ?イシルさん、来てたんですか?」


「いえ、おかしな気配を感じたので来たところです。大丈夫ですか?貴女が スノートラですね?」


「は、はじめましてぇ、イシルさん、スノートラですぅ」


スノーが真っ赤な顔をして挨拶する。


「リズリアから聞きました。僕は塀まで様子を見に行ってきます。銀狼亭で待っていてください」


そう言ってイシルはあっという間に二の道の奥へと見えなくなった。


「やっぱり、ステキですねぇ~」


スノーがぽーっとしたまま呟いた。





◇◆◇◆◇





イシルが現場につくと、ディコトムスが壁に突っ込んだまま動かなくなっていた。


「ドワーフの造った壁を壊すとは……」


ディコトムスは カブトムシの魔物。

その身は 頑丈で 硬い殻に覆われており、頭に丈夫なツノを持つ大型の魔物だ。

このあたりでは見かけない。


「ブラックムーンの後だからか……?」


夜行性で、飛行能力があるから、飛んできたのだろうか。

ブラックムーンで 魔素の流れが狂っていたから あり得ない話ではないが……


「警戒はしておくべきだな」


ディコトムスは、首の殻の節のところに致命的な傷があり、前足が 節の部分で切断され、転がっていた。

血がついていた。人の血だ。


「焼き切られてる」


瓦礫がれきの上を歩きながら現場を確認する。


ディコトムスの前足が転がってた所から 襲われた男が倒れていた場所まで血の跡があり、最後に血だまりが出来ていた。


「かなり出血している……生きているのが不思議な程だ」


イシルは落ちている剣を拾う。


「……いい剣だな ラハの剣、か。」


ラハの剣を扱えるということは、かなりの手練れだろう。

剣士としてはAランク……それ以上か。


ディコトムスはBランクの魔物だ。負けるとは思えない。


「何があったんだ?」


男はディコトムスと戦い、塀を越え、この村に逃げ込んだ。

ディコトムスは男を追ってツノで壁を突き破り 村へ侵入。

村に被害が及ばぬよう、男は逃げるのをやめ、再び戦闘。

首に致命傷を与えたが、前足で刺され相討ちに。

前足を切断して ディコトムスからはなれ、剣を杖がわりに、ここまで歩いた……

その後自分で治癒魔法を使い、魔力切れ……

こんなとこだろう。


ディコトムスは 防具の素材になるし、売れるので 中に引きずり込み、完全に首を切り落としておく。

血の臭いで獣が来ては困るので浄化し、壁の応急措置をとった。

壁はドワーフの技術がないと直せない。


イシルは一通り確認すると、来た道を戻った。






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