42話 魔王誕生
サクラは イシルの言ってる意味がよくわからなかった。
『一番強かった』から魔王になったの?
イシルは自分はダークエルフだと打ち明けた。属性は『闇』
「僕は 先頭に立って戦いました。目の前の敵は全て薙ぎ倒し、王の首もとりました。沢山の人を殺め……恐怖の魔王になってしまったんです」
「それって……」
ドワーフの村で 魔物の討伐を行った後と同じ状況てことだ。
イシルは 仲間を守るために 戦っただけ。
モルガンの言葉が思い出された。
『涼しい顔をして 圧倒的な強さをもって敵を殲滅し 返り血を浴びながら戦うその姿は
人々がイシルのことを『魔王』と呼んだから 魔王になってしまったのだ。
「だから 僕は サクラさんに心配してもらう資格なんてないんです」
イシルは笑う。
「なりたくてなった訳じゃないじゃないですか!」
「でも僕は 力でねじ伏せました。恐怖で支配してしまいました」
イシルがおこした戦いではない。
争いたかったわけじゃない。
「なんで イシルさんは そうなんですか……」
守りたかっただけ。
「サクラさん?」
戦争なんて、お互い何かを守るためにはじまる。
家族、友達、信仰、思想、理想、自由、富、権力、地位、信念、欲、平和、力、、、
「人のことばっかり……」
お互いの正義のためにはじまる。正しいと信じて。
自分の家族が戦争で殺されれば 相手は 憎むべき 悪魔となる。
逆に自分の家族が殺せば 悪魔となるのは 父か、兄か、弟か……
イシルは そんな過去の自分を許せないでいる、
ここは イシルの墓でもあるのだ。
「……許します」
「え?」
「イシルさんのしたことは 私が許します。誰が許さなくても、私だけは、だから……」
やるせなさが 涙となって 溢れでた。
「許されて、くださいぃ」
号泣。
「なんで サクラさんが 泣くんですか」
「うっ……イシルさんが、泣けないからですよ」
ボロボロと 涙がこぼれる
イシルは サクラの涙を 指で拭う
「もっと、自分のこと……うっ、考えてください、よ」
「僕は 罪を犯しました」
「罪を憎んで、、人を、憎まずっっデスぅ」
イシルは小さくわらう。
「私に、、間違っていい、て……ひっく、言ったじゃないすかっ、うぅっ」
「泣かないで……僕は ラルゴくんみたいに ハンカチは持ってないんです」
サクラの頭を手で包み 目蓋にくちづける。
「ラルゴさんは、今、関係ないですよぉ」
そうですね、と 反対の目蓋に くちづける。
「もっと、っ自分を、大切にして……くださいよ」
サクラの 頬をつたう涙に くちづける
「もっと、自分に……やさしく、なって」
反対の頬にも くちづける。
「もっと……自分の事……」
サクラの くちびるに くちづける
「っ!!」
イシルの胸に手をつき 体を引こうとするサクラを イシルは逃さない。
後ろの壁にぶつからないよう サクラの頭を手で保護し、支えると、 反対の手でサクラの身体を
″ちゅ……ぴちゅ″
「ふっ……ぅっ///」
イシルのくちびるがサクラのくちびるを求める。
何事かを言わんとするサクラの言葉をのみこみ、
力が抜けそうになり、サクラはイシルの胸においた手でシャツをきゅっ と握りしめた。
目を閉じる。
余計にイシルの存在を感じる。
くちびるの感触
息づかい
イシルの求めるままに
サクラはイシルにされるがままに身を任せた。
物言わぬ友が 見守る中で……
イシルは 名残惜しそうに サクラのくちびるを解放すると サクラを胸に
サクラは ぽふん と イシルの胸に収まる。ふわふわして、よくわからない。
イシルにもたれかかる形で座っている。
薄いシャツを通して イシルの体温が伝わる。
自分の心臓の音がでかい!そして早すぎる!爆発しそうだ。
(顔…………あげられない)
「サクラさん」
「はいぃっ!」
頭の上で声がする。返事が裏返った……あ、笑われた。
「鼓動が速いようですが、大丈夫ですか?」
だれのせいだよ!!
「僕のせいですか?」
「…………」
沈黙は肯定だ。
「だったら 嬉しいです」
イシルのも 少し早い……
「許しを……ありがとう」
よかった。許されてくれたんだ。
少しでも イシルの心が 軽くなったのならいいな と 思う。
「歩いたので疲れたでしょう、少し寝てください」
「大丈夫です イシルさんこそ、かついだり、走ったり すみません、疲れますよね!」
サクラは イシルからはなれようと、体をおこす。
「僕は 大丈夫です」
ぐいっ、と、引き戻された。
「……腕 痺れますよね」
「大丈夫です。この方が温かいですから」
あんた
「嫌……ですか?」
それ、聞く?
「もう少し、このままでいさせてください」
イシルは サクラの返事を待たずに サクラを抱く手を 少し強めた。
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