第13話 悪夢

 赤い炎、爆発音そして呪文。


「クリル、そこに隠れているのだよ。お母様は大丈夫だから」

 

 …………


「ゾルターン! アマン・ゾルターン、死霊魔法行使により逮捕する」

「おい、死人返りだ。聖霊魔法で消滅させろ」

   ……

「此奴、聖霊魔法が効かないぞ」

「長官、何時ここへ? 」

「アマンから殺せ」

「お父様! 」

「娘もいたか、ならば」

「キャー」

「娘を離して、クリル!、クリル 貴方! 、お前、お前、許さん」

 

 ………………


「はっ! 」


 また、あの悪夢。しばらくして、グッショリと寝汗をかいている事に気づいた。


 人はガル湖の悲劇と呼ぶが、私には父と母を殺された悲劇の日だ。


 あの日の前日、母は息を引き取った。父は祈りを捧げていたが、私は母の傍らで泣き明かしたことを覚えている。そして、いつの間にか泣き疲れて寝てしまったのだろう。ソファーで起きたときは、ベットにあったはずの母の遺体も父もいなかった。


 私は、屋敷中の部屋という部屋のドアを開けて探し回った。すると地下の一室から父の祈りの声が聞こえた。ただ、いつもの歌うような声ではなく、何か、おどろおどろしい、背筋が凍る様な呪文の声がした。


 地下に降りて行くと、母の周りに魔方陣が書かれて、六本の蝋燭が六芒星の頂点に立っていたの覚えている。


「お父様」

祈りの時は声を掛けてはいけないと教えられているので、小さな声で呟いた。その時の父の服装は何時も着ている白く金で縁取りされた物ではなく、真っ黒な、カラスの羽のような物がついた服装だった。


 そして、


 上の階で、大きな物音と爆発音がした。私は怖くなり父に駆け寄ったが、外庭に通じるドアの片隅に隠れているように諭された。


 しばらくして、黒い服の人たちが、ゾロゾロと降りてきて、魔法を発して父を攻撃していた。


 そして、何かが、父を引き裂き、氷の刃が私の身体を突き刺した。


 その時、死んだはずの母の絶叫が聞こえて、その後は、アルカディアの病室で目を覚ますまで記憶がハッキリしていない。


 そして、私はオクタエダル先生から、シークと言う名前を授けられ、アルカディアで育った。

 成人してから色々な書物を調べ、オクタエダル先生の重い口を何とか開かせて聞き出した所では、父は禁忌とされる死霊魔法の、それも奥儀である死霊復活術の儀式を行って母を蘇らせたことが分かった。そして、ガル湖の底で、母と父は、母に入り込んだ悪しき魂を浄化するために長い長い眠りについたと聞いた。


 母を蘇らせたるために、聖教会の最高司祭である父が行った、反逆行為。それほどまでに父は母を愛していたようだ。


 その後の事は、史実でしか私は知らない。母がガル湖一体を破壊し、人属を殺して回ったと記録されている。


   ◇ ◇ ◇


 コツコツ


 誰かが、ドアをノックした。来客の約束はない。私は、あまり人と話すことは好きではないのだ。それに今朝の悪夢のせいで、すこぶる調子が悪かった。昼になっても何もする気になれない。


「失礼だか、シーク先生のお宅か? 異端審問官だ」

と異端審問官が、外で声を張りが上げている。


「人に会う約束はしてないね。別に用はない。帰りな」

と魔法を使って、扉に喋らせた。


 この扉とこの家の中の防衛魔法は相当に強くしてある。生半可な物理攻撃や魔法攻撃では、ビクともしないはずだ。


「ガル湖のシルヴィの遺体が消えたことについて、聞き回っているところだ」


 母の遺体が消えた? なぜ? 


「そんな事、私には関係ないね。全くのお門違いだろう」

と扉に喋らせた。


「よくガル湖に行っておられると聞いたのだが、勘違いだったようだ。面倒を掛けた」

と、男は消えた。


 私は父母を早く解放させてあげたいと思い色々調べているし、人目を憚りながら花を手向けてきた。それを誰かに見られたのだろうか。


 それにしても、誰が母の遺体を持って行ったのだ。私は次第に腹が立ってきて、居ても立っても居られなくなってきた。行ってみるしかない。


   ◇ ◇ ◇


———ガル湖の近く、既に夕刻になろうとしている森の中をシークを乗せたコロン車が急いでいる———


「暗くなって来たわね。母の事は気になるけど、この先の宿屋で泊まった方が良さそうね」

と別に誰に聞かせるわけでも無く、自分以外誰も居ない魔導車の中で呟いた。


 すると外から、

「キーーーーー。お前、待て」

と叫ぶ声が聞こえてきた。


「変な声だけど盗賊かしら。まあ、相手が悪かったわね」

と別に気にするまでも無く、魔法防衛を強くして、魔導車を引いているモックに急がせようとしたその時、ガクと車両が停止し、私は前のめりになった。


「ウー、降りてきなさいよ。あんた、クリルでしょ?」

と外の奴が叫んだ。


 何で、その名前を知っているのだ?


「私が命ずる。炎の鞭により、敵を討ち滅ぼせ」

と魔導車の中で呪文を発し、女に鞭を打った。聞き耳を立てて外の状況を伺ったが、何の音もしない。


 不審に思い、窓を開け、目を凝らすと、茂みの奥に生物の光る二つの目。そして、それが猛スピードで近づいてきて、二つの腕が扉を破り、反対側の扉も抜けて、私とその生物は地面に転がった。


 その生物は私の身体に馬乗りになり首を絞めてくる。苦しさの中、何とか杖を拾い


「弾けよ」

と声に出した。


 すると、私の首を絞めていたその生物は、ひっくり返った魔導車の方に飛んで行った。


 私は、首をさすりながら何とか立ち上がり、

「我が命ずる。光あれ」

と声を出し、杖を上空に向け、辺りを明るくした。


「キーーーー、畜生」

と魔導車の残骸の中から声がする。そして、女が立ち上がり、木切れを自分の腕に刺して、血を流し、


「我が命ずる。我に従え」

と血を地面に垂らした。するとその血がウネウネと森の奥に這っていくと、


 ウー

と、うなり声と供に半分腐った犬数匹が出てきた。


「それは、死霊魔法。お前、誰からそれを教わった?」

と女を問い詰めた。


 しかし、その女は、

「キー、ウー、犬の死骸しかなかったのか」

と話のかみ合わない回答をして、

「殺せ、殺せ、殺せ」

と地団駄をふみながら、犬たちがに命じた。


 私は炎の鞭を出し、それで犬をむち打ち、吹っ飛ばし、燃やした。


 もはや、目の焦点も合わず、気の触れた女は、

「もっとだ、もっとだ、もっとだー」

と次々に血を大地に撒き散らして、アンデッド化した動物を引き寄せた。


 私は今度はファイアーウォールで一層し、再度、

「お前、死霊魔法を何処で習った? 」

と聞いた。


 その時森の奥で音がした。すると、胸に激痛が走り、後ろに吹く飛ばされた。


「全く、手こずらせる」

と男の声を聞いたあと、気を失った。

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