掌編集

聖火

怪獣のタマゴ

「ほら見ろ、怪獣のタマゴだ」

 車窓の先にあるそれを、パパは左手の人差し指で射抜いた。

 高くて見にくい窓から窺えるタマゴはとても大きくて、少し怖かった。

(怪獣が産まれたら、どうなっちゃうんだろう……)

 パパはそんなボクの気も知らずに笑いかけた。

「ワクワクするだろ?」


(ワクワクは、しなかったなぁ……)

 過去の淡い記憶を呼び起こしながら、実家への帰路につく俺。

 車を走らせて二時間ほどが過ぎ、いい感じに疲れも溜まってきた。

 そんな時、視界の端に例のタマゴを見つけたのだ。

(何がタマゴだよ。ただのガスタンクじゃねえか……)

 当時はただただ恐怖の対象であったそれと、その記憶。

 今となってはもうほっこりする話だった。

 だから、ひとつの思い出になればいいかな、くらいに思って口にする。


「ほら見ろ、怪獣のタマゴだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る