第2章 第1話「神」

 芸術に携わる者は突然、脈絡もなしに進路変更をすることがある。どこの世界にでも当てはまることではあるものの、まるで異なる人間が憑依したかのような振る舞いを見せたかと思いきや、次の瞬間には芸術の方向性がガラっと変わっていることがある。


 一介の音楽の教師だった人間がスポンサーなど他所の力を借りず独力で個別指導のカリスマ教師に変わったり、大々的な活動をしていた小説家が引き籠って短歌ばかり作るようになったりと、戦うステージはそのままでベクトルが大きく変わり、今まで以上の成功を収めている例が散見される。一ファンとしてその個人に触れていた場合は気が付かなかっただろうが、こういった芸能事に絞ってアンテナを張っていたからこそわかったこともある。その中でも芸能人ばかり追いかけていたり、舞台ばかり注目していたりと、一つの分野に絞って追いかけているライターとは異なり芸能事の中でもなるべく広い範疇を追えるだけ追うことにしているのでその存在に気が付くことができた。


 この世界には神がいる。恐らくはその神が特定の人間に憑依してその芸術性を高めているのだろう。技能的な面でサポートするのではなく、その人物の立場が一転するような振る舞いをさせ、ある種追い込まれるような状況に持ち込み、後はその個人に全てを任せるというような形が確認できている。しかも同じ人物には二、三回は憑りついているように見える。


 今回は本居翔という演出家の元にその神が現れた。

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