第22話「失望」

 全てが「挑戦」から始まった。攻めなくなった瞬間に俺たちは終わる。いや、俺は終わる。だからこそ影を俺の代わりとして舞台に上げることにした。

 その結果、影はしくじった。それもわざとだ。俺の前に出て来なくなった今、それを釈明してもらうことすらできなくなった。そもそも釈明されたところで言い訳を零す相手などいないのだが。

 影が犯したのは台詞が抜けたとか思わぬ動きをしたとかそういった類のありきたりなミスではない。全てのテンポを狂わせ、稽古とは異なる雰囲気が立ち込めた。明らかなミスではないので誰に謝罪することもできない。同じ舞台上に立つ鴨間の足を引っ張り、関わっているスタッフを失望させ、観客の時間を無駄にした。

 鴨間には何が起こったのかわからないだろうが、儀礼的なフォローをされた。

 「本居、今日はいつもと様子が違ったな。舞台でアガったり、変に力を入れたり、そんなことはこれまで一度もなかったと思うが、今回は妙な感じだった。お前のことをずっと注目していたからこそ、その違いがわかっただけなのかもしれないけどな」鴨間が言う。

 密着取材を受け、そしてこれまで一ヶ月に渡る稽古を重ねてきたこともあり、ある程度の事を言い合える仲にはなっていたがここまではっきりと意見を言ってくれたのは初めてであった。それ程に見るに堪えない舞台であったのだ。これが原因でスタッフが離れたり、観客の足が遠ざかることは十分に考えられる。俺の舞台が初めてだった観客はまた来ようなどとは思わないことだろう。鴨間とは再び舞台に立つという予定はなかったが、いずれにせよ今後同じ舞台に立てる日は二度と訪れなくなった。鴨間がどう思うかというよりも、観客がそれを許さない。下手をすると鴨間から今後の演劇の可能性を奪ってしまった可能性すらもある。

 「ご迷惑をおかけしました」これ以上の言葉が出て来なかった。

 「誰かと舞台に立つのは久しぶりだったね。複数人で臨む舞台で稽古と本番の差を埋めるには、まずは他所で端役でもあてがってもらって少しずつ慣らした方が良いのかもしれない。とにかく、お疲れ様。また同じ舞台に立てると良いな」鴨間は優しく言った。

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