プレイング

鷓鷺

第1話「侵入」

 机上品が動かされていて、冷蔵庫には誰かが開けた形跡がある。室内が荒らされた様子はないものの物の配置が数センチばかり変わっている。眠る前と起きた後でちょっとだけ世界が歪んだかのようだ。大きな地震が来ていたとしたらもう少し大袈裟なズレが生じているはずだが、室内全体が動いた様子はないし、そもそも携帯のニュースを見る限り国内で地震が起こったという情報も入ってきていない。


 外では小鳥が鳴いている。朝早くから空腹の雀たちが餌を探しているのだろう。窓には結露が生じている。今日も一段と寒くなりそうだ。


 慎ましさを装っていても盗人にはお見通しなのだろうか。しかし財布や時計をはじめとした金目のものは何一つとしてなくなっていないし、パソコンなどの仕事道具もそのままになっている。


 ひとまず被害はないようなので警察には届け出をしないでおく。その代わりに取材用のGoProを室内の目立たないところに設置しておいて外出中と就寝時に回しておく。

 目当てはやはり執筆中の脚本だろうか。しかし脚本が目的であればパソコンごと盗むか、データのみを写していくはずだが、ノート型にしてもデスクトップ型にしてもパソコンには触れられた形跡がない。


 不安ではあるが焦っても仕方がない。バナナとヨーグルトと熱いコーヒーで簡単な食事を済ませて今日も制作チーフとして、そして影の脚本家として稽古場へ向かう。

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